シトリンの悩み
「で?何か言い訳はある?」
「私は、ほどほどにね、って言ってました。」
「私だって、ちゃんとほどほどにしてました!!」
「ハァ…」
ああ、早くお姉様達が見つかって欲しい。
私はシトリン。
この二人の姉で、姉妹の中では三女に当たります。
私の最近の悩みは、一人で眠れない事。
私は、人間達に巣を破壊されたあと、色々な場所を彷徨っていた。
ある時、森の大きな木の上で寝ていたら、氷漬けにされたような悪寒について感じた。
そして、“アレ”と遭遇した。
私は、救いを求めて必死に気配を探ったが…
周囲に、私と“アレ”以外の気配を感じない…私は、一人ぼっちだった。
絶対に勝てない、そう感じさせる捕食者を前にして、私は動けなくなった。
“アレ”が、私を食べようとその大きな口を開けたとき、空から奇妙な見た目の“ナニカ”が降ってきた。
その“ナニカ”は、“アレ”に襲いかかり、あっという間に首を噛み千切ってしまった。
圧倒的な暴力を持つ捕食者が、更に圧倒的な暴力を持つ捕食者によって食われている。
その光景がトラウマとなり、私は一人で眠れなくなってしまった。
その弊害が、ビーノ達と合流してから出てきた。
「人が寝てる横で何してるのよ…もうちょっと静かにできないの?」
そう、何とは言いわないけど、二人がうるさいという問題。
これのせいで、なかなか眠れない。
今も、まだ夜中なのに目が覚めて、眠れなくなってしまった。
「というか、その防音の魔法を使ってどうにかできないの?」
「できるけど、難しいんだよね〜」
「ハァ…」
私にも、防音の魔法が使えればいいのに。
しかし、無いものをねだっても仕方ない。
「やめろとは言わないから、もう少し静かにして。」
「分かっ「ちょっと待って下さい。」サフィー?」
サフィーが、急に話に割り込んできた。
「いつもいつも怒ってきて、そんなに嫌なら一人で寝ればいいじゃないですか!!」
「それは…」
そこをつかれると弱い。
「なんですか?一人で寝るのが怖いんですか?臆病姉様?」
「…」
言い返せない。
私だって、理不尽に怒ってる事は分かってる。
だから、サフィーに言い返す事が出来ない。
「サフィー、もういいわ。落ち着いて。」
「でも!!「落ち着きなさい!!」…はい。」
ビーノが怒鳴ってサフィーを黙らせる。
「リン姉、防音の魔法を私達の周りに張れるよう練習するので、もう少しだけ我慢してくれませんか?」
「…………ありがとう。ごめんなさい、迷惑かけちゃって。」
「別にいいですよ?リン姉の事情は知ってるので。」
私のトラウマは、ビーノにだけ話してる。
ビーノは、周りに話したり、私のことを馬鹿にしたりしない。
信用できる、私の自慢の妹だ。
…サフィーのことを、狂信的に愛している事を除けば。
正直、二人が肉体関係を持ってると知ったとき驚愕した。
主に、ビーノが妹に手を出したということに。
前々から、ずいぶんとサフィーのことを気に入っているとは思ってたけど、まさかそこまで堕ちるとは…
これが、再会してからの第一印象。
それからは、サフィーの狂気に触れて、イカれっぷりを外に出してないだけマシだなと思い始めた。
「おやすみなさい。」
「おやすみ、リン姉。」
「…そのまま永眠してくださいね?リン姉様。」
…相変わらず、サフィーは私のことが嫌いらしい。
サフィーの狂気を知ってから、いつか殺されるんじゃと、ビクビクしながらサフィーと接してる。
この狂人は、家族程度簡単に手を掛けるほどイカれてる。
美しい花には棘があると言うけど、サフィーは棘なんてレベルじゃない。
触れるだけ指が落ちる様な、刃が体にびっしりと生えている。
一度距離感を誤れば、その鋭い刃によって切り裂かれる。
ビーノは、その刃が人に刺さらないようにするための鎧というか、柵だね。
ビーノが、サフィーを覆っている事で。その刃が人を傷付ける事はなかった。
けど、蓄積していった怒りが、ビーノでも抑えきれなくなったら、サフィーは私のことを地獄の果まで追い掛けてくるだろうね。
「リン姉様、ちょっと抱きついてもいいですか?」
「え?別にいいけど…どうしたの?」
訳が分からず困惑していると、本当にサフィーが抱きついてきた。
?
「ふ〜ん?いい抱きまくらになりそうですね。」
「は?」
「でしょ?だから私も「駄目ですよ?」…はい。」
…怖い。
感情を感じない声で、笑みを浮かべて否定してくるサフィーは、言い表せない様な恐怖を纏ってる。
ビーノが防音の魔法を使っているから、何を話してるかは分からないけど、きっと中でイチャついてるに違いない。
…私も、恋人が出来るのかな?
羨ましいとは思うけど、混ざりたいとは、これっぽっちも思わない。
混ざったら、二人から何されるか分かんない。
取り敢えず、ただでは死ねない事は分かる。
私は、まだ死にたくないから、あそこに入るような真似はしない。
さて、静かになった事だし、寝るとしますか。
これでのぐっすり寝ることが出来る。
私は、安心して眠れ…なかった。
防音の魔法は、音が外に一切漏れないから、頻繁に二人がいるかどうか不安になる。
もちろん、ちゃんとこのテントの中にふたりともいる。
でも、まったく音が聞こえないから、誰もいないんじゃって不安になる。
結局、静かになっても私は眠れなかった。
「で?怖くて眠れなかったと。」
「そうよ…ごめんなさい、わがままな姉で。」
「そうですね、リン姉様はわがままですね。」
そんなにはっきり言わなくても…
「そんなに寂しいなら、混ざりますか?」
「え?」
「リン姉様が、耐えられるとは思えませんし、共鳴を使えば狂ってしまうかも知れませんけど。」
共鳴…確か、ビーノの能力か何かだったはず。
精神と力を共有する事が出来て、共有を使ってる間なら、お互い同じ力と技術が使えるって能力だったかな?
その仕組みを利用して、ビーノの体力とサフィーの性欲を共有して、楽しんでるって聞いた。
「確かに、私が耐えられるとは思えないし、共鳴を使えば、おかしくなる気するわ。」
「当然です。」
「少しくらい否定してほしかった…」
でも、実際そうだし、私が入れる領域じゃない。
…興味はあるんだけどね。
いやいや、妹に手を出すなんて!!
私はそんな姉にはならない!!
「ただいま〜」
「お帰りなさい、ビーノ姉様。」
「おかえりビーノ。どうだった?」
「取り敢えず、臭いの少ないやつを買ってきたよ。だから臭いは我慢はしてね。」
パンとかは、大体煙の臭いが付いていて、臭くて食べられない。
だから、出来るだけ臭いが付いてない物をビーノに買ってきてもらった。
「臭いです…」
「でも、食べられない程じゃないわね。」
「これが限界だから我慢してねサフィー。」
私は知っている、あの笑顔の裏の狂気に。
この二人は、私では理解出来ないほど狂ってる。
正直、一緒にいて私が無事なのが不思議なくらい狂ってる。
「二人はさ、狂ってるって言われたらどうするの?」
これは、前々から聞きたかったけど、聞けなかった事だ。
すると、顔を見合わせてクスッと笑ったあと、
「「だから何?」」
「…なるほどね。他人を置いていくスタイルなのね。」
やっぱり、この二人は自分と相手以外どうでもいいらしい。
私が二人の愛を理解できる日は来るんだろうか?
…もしかしたら、来ないほうがいいのかもしれない。
私の勘が、そう呟いている。
二人は、二人の世界でそっとしておいてあげよう。
そのほうが、二人のためにも、私のためにもなるからね。
シトリンを二人の間に挟んでもいいけど、シトリンの性格が変わっちゃうかも知れないから、書くならifストーリーでかな?
…書いてほしいですか?




