『愛』と書いて、『狂気』と読む姉妹
「ビーノ姉様…本気でやるんですか?」
「あら?もう何人も手にかけてるのに、ここで辞めるの?」
「それは…」
「彼らの死が、無駄死ににならないように、計画は遂行しないと。」
私は、後悔していました。
正直、見ず知らずの人間がどうなろうと知ったことじゃないですが、ビーノ姉様が手を汚すというのは、嫌でした。
しかし、ここでやめれば理不尽に殺した彼等が無駄死にになってしまいます。
命を奪っておいて、途中で怖くなって辞めるなんて、そんな中途半端な事は出来ません!!
彼らも許さないでしょうし、私のプライドも許しません。
「サフィー、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、リン姉様。ただちょっと心が追い付いてないだけで…」
「じゃあ、少しだけ休憩してく?」
「そうですね…」
まだ、夜は始まったばかりです。
時間ならまだまだ余裕があります。
むしろ、決行するには早すぎる時間帯です。
ビーノ姉様は、来た道を引き返して、何処かへ向かっているようです。
そして、歩き出してすぐのところで、とある建物の看板を眺めていました。
旅の途中、暇な時間にビーノ姉様から文字を教わっていたので、今の私にはあの看板が読めます。
「バー、ですか?」
「ええ、嫌なことがあったら、酒を飲んで忘れるものよ。」
「今飲むのは危ないんじゃ…」
「飲みすぎないでね?」
本当に大丈夫でしょうか?
余計に不安になりながらバーに入りました。
「ここも臭いですね…」
「そうね、今吸ってる奴もいるしね。」
「ねぇ、私は飲んでもいいの?」
「リン姉は駄目。」
リン姉様は、お酒に弱いので、一人だけジュースでも飲んでてください。
可哀想?リン姉様のせいで失敗したら、最悪正体がバレるんですよ?
それなら、最初から飲ませない方がいいに決まってます。
私も、飲みすぎないようにしないと。
「出来るだけ弱いのをちょうだい。2つね。」
「2つ?もう一つは?」
「果実水でもちょうだい。」
マスターは、エールと果実水を出してくれました。
私に果実水を…
「飲んでいいの!?」
「駄目に決まってるでしょ!話聞いてた?」
「え!?そっちの嬢ちゃんが飲むのか!?」
「ええ、リン姉はお酒に弱いからね。」
私は、サッとエールと果実水を取り替えました。
私がエールを飲もうとすると、リン姉様が羨ましそうにこっちを見てきました。
捨てられた子犬が、うるうるとした目を向けてるみたい。
私は、一気にエールを飲み干して、リン姉様に果実水を押し付けました。
「…サフィーのバカ。」
あー、へそ曲げちゃった。
まったく、お酒弱いのにどうしてそこまで飲みたがるんだか…
そんなに飲みたいなら、昨日にでも言えば良かったのに。
「サフィーって、リン姉に辛辣だよね。」
ビーノ姉様が、エールをちびちび飲みながら、ケラケラ笑って話しかけてきた。
「リン姉様のことは、そんなに好きじゃないので。」
「昔の恨み?」
「いいえ。リン姉様は、私とビーノ姉様が一緒になる機会を作ってくれたので、むしろ感謝してます。」
あの時、姉様が私に才能がないと言って貰えなかったら、きっとあのまま四人で集まってたと思います。
それについては感謝してます。
「でも、色々と嫌いです。」
「色々と嫌い…」
「すぐ怒るし、小言がうるさいし、ずーっとビーノ姉様とゲームしてるし。ずるいんですよ!ビーノ姉様を私から奪って!!」
「いつも私のこと独占してるじゃない…」
「でもでも!!最近リン姉様とゲームしてばっかりで、全然相手してくれないじゃないですか!!」
私が喚き散らした事で、周囲の視線が集まってきました。
その多くは、姉様達に向けられた同情の視線です。
姉様達が、凄く嫌そうな顔をしています。
「サフィー、バーでは静かにしなさい。」
ビーノ姉様が、私の頭を撫でながら優しく叱ってきました。
けど、私はそれでは満足できず、姉様に抱きつきました。
「もうリン姉様とゲームをしないと、約束してください。」
「それは無理ね。」
「私じゃ不満ですか?」
「そんなことないわ。ただ、その約束を守れる自身がないから言ってるのよ。」
酔っている訳でもないのに、不満が次々と口から飛び出します。
すると、ビーノ姉様が私のことを抱きかかえてくれました。
「リン姉、サフィーを落ち着かせてくるから、飲んでてもいいよ?」
「え!?でも…」
「また今度にするわ。サフィーがこの調子だしね。」
結局、私が癇癪を起こした事で、襲撃は延期されました。
私が落ち着くまで、かなり時間がかかったらしく、バーに戻った頃には、リン姉様は酔いつぶれておかしくなってました。
深夜
「さっきの嬢ちゃんか…妹は落ち着いたのか?」
「ええ、今はぐっすり寝てるわ。」
「そうかい…ずいぶんと独占欲の強い妹を持ってるんだな。」
「そうね、いつかリン姉が殺されるんじゃないかって、不安なのよ。」
サフィーは、私のためなら例え家族でも手に掛ける。
共鳴を使った時に、お互い記憶や思考を見た。
サフィーの思考は、私への愛で歪みきっていた。
あれは、例え家族でも手に掛けるほどの純愛だ。
サフィーが、親しい者に向ける感情にいいものなどかけらもない。
あるのは、嫉妬と憎悪。
私と親しくしていることへの嫉妬と、私の優しさを欠片でも受け取っていることへの憎悪。
それほど私の事を愛している。
私は、そんなサフィーが愛おしくてたまらない。
誰一人愛する事なく、私にだけ愛を注いでくれるサフィーが。
私と親しくしている者へ、心の底で強烈な殺意を持っているサフィーが。
少し放置するだけで、癇癪を起こすサフィーが。
私は、そんなサフィーが愛おしくてたまらない。
きっと目の前のマスターにこのことを話せば、『狂っている』と言われるのだろう。
別に、それで構わない。
サフィーの愛の理解者は私だけでいい。
私以外に必要ない。
いれば、そいつを始末するだけだ。
そんな、何処の馬の骨かも分からん奴に、サフィーの愛を理解されるなど、不快でしかない。
「何にする?」
「強めの果実酒をお願い。」
金はかかるかも知れないが、どうでもいい。
少なくなれば、下等生物から奪えばいい。
下等生物に幸せを与えるなどもったいない事はしない。
その幸せは、私とサフィーで有効活用する。
人間など、私とサフィーが幸せであるための糧でしかないのだから。
今回の襲撃も、サフィーと幸せに暮らす為に、その資金を集めようと計画していたものだから。
「面倒な妹を持ったな。」
「そうかしら?私はあの子の事が好きよ?」
ふん、こんなやつには、サフィーの良さなんて分からないだろう。
それに、分からなくていい。
私は、出された酒を飲んで、またサフィーのことを考える。
サフィーは、今寝ている。
わざわざ起こすわけにはいかない。
だから、連れてこなかったけど、サフィーが居ないとあまり美味しく感じない。
また今度、サフィーを連れて飲みに来るか…
「あれ?嬢ちゃん、もういいのかい?」
「ええ、どうせなら妹と飲みたくてね。今度は、癇癪を起こさせないようにするから、また連れてきても?」
「ああ、ぜひとも連れてきてやってくれ。」
許可も取れた、また今度サフィーと飲みに来よう。
リン姉は…一応連れて行ってあげるか。
これでも姉妹。
そこらの小鳥に向ける程度の愛着は持っている。
少しくらい優しくしてあげよう。
こうして、街の外のテントへ向かった。
「お帰りなさい、ビーノ姉様。」
「あらサフィー、起きてたのね。」
「ええ、姉様が居ないことに気付いて起きましたよ?」
私が一人て出ていった事に、怒ってるのか。
どうやって落ち着いてもらおうか…
「次何処かへ行くときは、遠慮なく起こしてくださいね?」
「分かったわ、もう一人で出ていったりしないわ。」
すると、サフィーは私に抱きついてきて、
「リン姉は酔いつぶれて寝てますよ?」
なるほどね…
「ほどほどにしてね?」
「はい」
今日もサフィーがかわいい。
そろそろこの二人が、どれだけイカれてるか分かってきた頃でしょうか?
まだ、もう少しイカれエピソードがあるのでお楽しみに。




