人間の欲深さ
宿に着いたけど、やっぱりここも臭かった。
「姉様〜、消臭の魔法とか無いんですか?」
「そんな都合のいい魔法無いわよ。」
「あったら、今すぐ使ってるだろうしね。」
これじゃあ、まともに寝ることも出来ない。
風魔法で、出来るだけ臭いを飛ばさないと、本気で寝れない。
けど、シーツに染み付いた臭いはなかなか落ちない。
「取り敢えず、3人で臭いを落としましょう。」
「ほんとに落とせるんですか?」
「微々たるものだと思うけど…」
「やらないよりはマシよ。サフィーもリン姉も手を動かして!!」
「「はいはい。」」
三十分後
「ほんとに臭い落ちてます?」
「全然変わってる気がし無いんだけど?」
「さっきよりは、マシになってるよ。…多分。」
「多分じゃ駄目なんですよ…」
ひたすら面倒くさい。
本気で消臭の魔法が欲しい。
サフィーの浄化魔法で消せないかな〜…
無理だろうな~。
そんなことするくらいなら、ずっと風魔法を使ってた方がマシだと思う。
「どうするの?こんなの香水とか使っても誤魔化せないよ?」
「そうですよ!かと言って、何もしなくても臭いだけですし…」
「そんな私に言われても…」
洗濯しようにも、やるのも大変だし。
洗剤も無いし、乾かすのも時間がかかるうえに、干せばまた臭いが付く。
「これなら、街から離れた場所でキャンプしたほうがいいわね。」
「最初から、そうすれば良かったじゃないですか。」
「あの三十分はなんだったの?」
「うるさいな〜、責任を全部私に擦り付けないでよ。」
この街に来てから、臭いのせいでストレスが溜まって、どんどん険悪な雰囲気になってきてる。
早くこの街から離れないと!
「ちょっといいですか?」
ローケンが、私達の部屋の扉をノックする。
「ローケン!ちょうどいいところに!」
「はい?」
「街の外で野宿するから、私達の分は要らないわ。」
「そうですか。分かりました、こちらから言っておきましょう。それで、少し頼みたい事が…」
「頼みたい事?何かしら?」
「これを、ギルドに持っていってくれませんか?」
そう言って、渡された物は、スーツケースのような鞄?だった。
そして、その鞄はずっしりと重たかった。
「何が入ってるの?」
「ドラゴンの逆鱗ですよ。手に入れるのに、相当苦労しましたよ。」
ドラゴンの逆鱗…それ、絶対高価なものだよね?
そんなものを、ギルドに渡してどうするつもりなんだろう?
「ギルドに渡してどうするの?」
「…防音の魔法を掛けてもらえませんか?」
「いいわよ?」
防音の魔法をかけるって事は、あまり聞かれたくない話って事か…
「簡単に言ってしまうなら、賄賂のようなものです。」
「なるほどね…例の薬草を融通してほしいとか?」
「よくわかりましたね。アルベイは、ギルドと領主が採取量を管理してるので、採れる量に限りがあるんです。だから、こうやって賄賂を使って少しでも、こっちに流れて来るようにしてるんです。」
麻薬は金が動きやすいからね。
商人や、強欲な奴が取り尽くさないように、規制を掛けてるのか…
そして、競争が起こると…
…これ、得してるのって、ギルドと領主だよね?
我先にと買いに来るうえに、商人から賄賂が貰えるんだから。
規制を掛けてる奴が一番強欲ね。
「分かったわ、さり気なく渡してくるわ。」
「ありがとうございます。頼みますよ?」
「ええ、任せて。」
そう言って、二人を連れてギルドに向かった。
「『商人用』ね?あれを聞いた後だと、目的が邪なものにしか感じないわね。」
「リン姉もそう思う?絶対賄賂の為の窓口でしょうね。」
「人間は、やっぱり醜いですね。」
「そうねサフィー、さっさと用事を済ませて、こんな所離れましょう。」
まさか、ギルドで人間の欲深さを再確認することになるとは思わなかった。
私達は、足早にその窓口ヘ向かう。
「ローカー商会のローケンからよ。」
私がそう言うと、受付嬢の目の色が変わる。
そして、小声で、
「かしこまりました。荷物はお預かりさせていただきます。」
「これからもよろしくね?」
「はい、よろしくお願いします。」
荷物は、渡した。
さっさとこんな場所から離れよう。
私達が帰ろうとした時、
「おいおい嬢ちゃん、こんな所に女だけで来て大丈夫かよ?」
荒くれ者が絡んできた。
「俺が守ってやろうか?」
「結構よ。誰かに守られて無いといけないほど、私達は弱くないわ。」
「なんだよ冷てえなぁ〜」
コイツ、キマってるじゃない。
さっきまで、吸ってたな?
面倒くさい奴に絡まれた。
薬をキメてる奴は、痛覚に麻痺してる。
そのせいで、致命傷を受けても止まらない。
だから、一撃で気絶させないと厄介な事になる。
「そこ退いてくれない?邪魔だから。」
「ひえ〜、こわ~い。」
「チッ」
無理矢理退かしたいが、そんなことをすれば、コイツに正当防衛をあえてしまううえに、ローケンの信用問題にも繋がる。
ギルド側は…チッ、対応しないつもりか…
「ビーノ、私に任せて。」
すると、リン姉が耳元で私に囁く。
そして、前に出たリン姉が軽く電撃を放つ。
「うわっ!?大丈夫ですか!?」
へぇ、リン姉って演技も出来るのね。
にしても、電気ショックで気絶させる、か…
今度から、こういう奴に絡まれた時はリン姉に頼もう。
「どうする?この人何処に置いておけばいいと思う?」
「隅にでも置いておけばいいんじゃない?どうせ、すぐに起きるでしょ?」
「それもそうね。」
私達は、コレを隅に捨ててギルドを出た。
それから、足早にこの街を離れた。
「んんーーー!!空気が美味しいですね〜〜!!」
「そうね~、何処かの欲塗れの街とは大違いね。」
「何処で野宿する?どうせなら、雨に濡れない場所がいいけど。」
そんな都合のいい場所この辺にあるかな?
森と丘ならあるけど…
「取り敢えず、森に行って良さそうな場所を探しませんか?」
「そうね、森に良さそうな場所が無いか探しましょう。」
取り敢えず、サフィーの案で森に行くことになった。
十分後
「ここにしない?テントが建てられそうな、広さもあるし、雨もなかなか入ってこなそうだし。」
「そうですね。ビーノ姉様はどう思いますか?」
「いいんじゃない?それじゃあ、ここにテントを建てましょう。」
こうして見つけた、いい感じの場所にテントを建てて泊まる事になった。
ちなみに、夜になっても野生動物や魔物に襲われなかったけど、サフィーには襲われた。
リン姉と将棋してたのが悪かったかな?




