次なる街
あれから、軽く一ヶ月半の間、退屈な旅をしていた。
将棋をすると、サフィーが不機嫌になるので、何故か…理由は明白だけど…オセロがあったので、それでリン姉と勝負してた。
「ねぇ、ビーノ強すぎない?」
「そうね、こういうボードゲームは得意だから。」
結果は、全戦全勝。
いい試合は何度かあったけど、それでも私が勝っていた。
将棋なら、もっといい勝負が出来るんだけどなー…チラッ
「駄目ですよ?」
「ええ〜?いいじゃんちょっとくらい。」
「姉様達のちょっとは、軽く数日続くので、駄目です。」
そう、何度かサフィーに許可を貰って対局したけど、普通に数日くらいの時間を費やした。
もちろん、ずーっとやってるとサフィーに睨まれるので、ご飯の時や、サフィーがかまって欲しい時は、休憩時間としてそのままの状態で保存していた。
一回、ガッスが将棋盤を蹴り飛ばしたせいで、盤面がぐちゃぐちゃになって、二人でブチ切れてた事もあった。
サフィーが仲裁してくれなかったら、殺してたと思う。
多分じゃなくて、絶対ね?
「そろそろ街に着きますよ?片付けの準備をしてくださいね?」
「はいはい。ちょうど終わった所だから、すぐ片付けるわ。」
「ビーノ、宿でショーギーしない?」
サフィーから、熱烈(殺意の乗った)視線が送られてきてる。
そんなに怒らなくても…
「サフィーがいいって言ってくれたらね。」
「別にいいんですよ?ただ、ちょっと我慢すればいいだけですもんね?」
「そんなに怒らないでよサフィー。今夜は久しぶりに沢山かまってあげるからさ。」
あ、リン姉が嫌そうな顔してる。
ちょっと前に、我慢出来なくなったサフィーが襲い掛かってきた事があった。
防音の魔法は掛けてたけど、それは部屋の外に漏れないようにするものだったから。
リン姉には、フルで聞こえてたらしい。
何度もキレて、怒鳴って来たけど、サフィーがそれ以上の大声で怒鳴り返しでた。
そのせいで、二人の仲が最悪になったけど。
…今は大丈夫だよ?
「そんなに嫌なら、別の部屋に泊まればいいじゃないですか?」
「よく分からない所で一人になるのは、心細いのよ。」
「じゃあ、静かに自分の事慰めててくださいね?」
サフィー、流石にリン姉が可愛そうだよ?
そういう喧嘩腰の言い方するから怒られるんだよ?
久しぶりに、サフィーの事を叱るか…
「サフィー、その喧嘩腰な言い方を、どうにかしたほうがいいわよ?相手がリン姉だから、怒られるで済むかも知れないけど、他人だったらどうするつもりなの?殺し合いに発展したら大変な事になるでしょ?(相手が)」
「…なんですか、急にリン姉様の味方して。」
「たまには叱らないと、って思っただけよ。そういう事は、誰もいない所で言うものよ?」
陰口だとか、陰湿だとか言われそうだけど、正面切って失礼な事を言うよりはましでしょ?
知らなきゃ、不快でもなんでもないんだから。
こういうのを、『知らぬが仏』って、言うのよ?
………多分。
「ビーノがサフィーを叱るなんて珍しいわね。貴女から言ってくれた方が、効果があるからどんどん叱ってやってね?」
「リン姉様は、黙っててください。あと、私達の会話に入って来ないでくださいね?」
「サフィー、さっき叱られたばっかりでしょ……」
これには、私も思わずため息が出てしまった。
毎日口酸っぱく言い続けないと、駄目なのかしら?
それとも、もう手遅れか…
サフィーのことは、私が生涯守ってあげないと、駄目かも知れない。
「そう言えば、この街ってなんて名前なの?」
「『テルテフ』という街ですね。アリアナ王国では、この辺りといくつかの場所でしか採れない、貴重な薬草が自生している事で有名ですね。」
「貴重な薬草か…街の財源を支えてそうね。」
「そうですね、あの薬草のお陰でこの街は成り立っているようなものですから。」
テルテフの街ねぇ?
いったいどんなところやらっ!?
「くっさ!?」
「なんですかこの臭い!?」
「鼻がおかしくなりそう…」
私達3人だけ、突然悪臭に襲われた。
なんと言うか、形容しがたいとんでもない悪臭。
腐った卵でも、生ゴミでも、科学的な臭いでもない。
独特な、本能が拒絶するタイプの悪臭。
と、取り敢えず風魔法で臭いを飛ばさないと!!
私は、3人の周りを風魔法のを膜で覆って、臭いを拒絶する。
「そう言えば、ここで採れる薬草は、野生動物や魔物が嫌う臭いだったな。魔除けとして、昔使ってたから分かるぜ?」
「そうですね、別名『魔除け草』とも言われるものですからね。」
魔除け草じゃなくて、獣除け草でしょ!
というか、アルスとの戦いで培った、風膜がここで役に立つとは…
…あれ?この魔法解除出来ないんじゃ?
「サフィー、リン姉。交代で魔法使わない?」
「「嫌だ(です)。」」
「…私一人でやらないといけないの?」
それは流石に酷くないかな?
まぁ、リン姉辺りがなんだかんだ手伝ってくれるでしょ?
…手伝ってくれたらねよね?
じゃなきゃ、私眠れないんだけど?
「いったい何をしたら、こんなに臭いが広がるのかしら?」
「確かに、リン姉様は何だと思います?」
「煙草とかじゃない?煙草みたい臭いもしたし。」
確かに、悪臭に隠れてほとんど感じなかったけど、煙草の臭いを感じた。
つまり、煙草に混ぜて使うもの?
ア○ンかな?
確か、ア○ンもそんな使い方してた気がする。
麻薬を合法にしてるのか?
あれかな?一部の地域で大麻が合法になってるみたいな。
だとしたら、絶対サフィーに近づけちゃ駄目ね。
もちろんリン姉も。
「サフィー、リン姉。この臭いの元は、相当やばい物だと思うから、絶対私から離れないで。」
「そんなに?」
「ええ、一度入ったら抜け出せない、底なし沼に落ちるわよ?」
薬物という、恐ろしい物体は、一度使うだけでやめられなくなる。
一度使って今はやめている人がいても、それは今は欲しくないと体が思っているだけで、実際はいつ何時、猛烈に禁断症状が出てくるか分からない。
薬物依存症は、現代医学を用いても、完全に治療することは出来ない。
多分、サフィーがどんなに回復魔法を掛けても治らない。
それくらい、薬物は恐ろしい物なのだ。
いったい、この街はどうなっているのやら…
街の中には、地獄絵図が広がっていた。
そこら中で、パイプを咥えて立っていたり、歩いていたり、座り込んでいたり、どこを見ても一人は煙草…薬物を吸っていた。
「そう言えば、その薬草の名前って、なんて言うの?」
「『アルベイ』、『神々の薬』とも呼ばれています。」
「神々の薬ねえ?」
アルベイか…
それ以上に、神々の薬という呼び方。
やっぱりア○ンを彷彿とさせるわね。
待てよ?
「その、アルベイの由来って知ってる?」
「アルベイの由来ですか?勇者がそう言っていたと…」
勇者…って事は、もしかしてガチでア○ン?
もしくは、ア○ンに近い薬物なのか…
ん?あれは…
「あれがアルベイですよ?」
「あれが…ケシにそっくりね。」
「ケシ?」
「かつて、私のいた世界にあった植物よ。そこからア○ンという薬が作られた。それは、一時は『神の薬』とも言われたわ。」
そう、その時はね…
「けど、それの『神の薬』には依存性があった。やがて、国中にその薬が周り、人々は薬を吸ってばかりで働かなくなった。」
「そんな事が…」
「そして、その『神の薬』のせいで、大国同士の戦争にまで発展した。」
「その『神の薬』の材料のケシという植物に、アルベイはそっくりだと…」
もし、勇者が広めたのなら、どうしてこんな事を…
ア○ンの危険性は承知のはずなのに…
いや、勇者の話を聞いた人達が広めたのか。
薬物は金になる。
国を薬漬けにしてでも金儲けがしたかったのか…やっぱり人間はクソだな。
時代や国。
ましてや世界が違っても、人間の醜い本質は同じなのか…
「何が『神々の薬』だ。ただの欲望の塊だろうが。」
私の言葉を、ローケンやサフィー達は聞かなかった事にしたらしい。
薬物、ダメ、ゼッタイ!!




