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006 茶会②



 王妃様が現れたのは、キーナ公爵令嬢が場を辞してから割と直ぐのことだった。



 プラチナブランドの髪は、緩やかに編み込まれ、隙間から6色の宝石が埋め込まれた花飾りがチラチラと見え隠れしている。



 イスキオス王国の現王エルンスト。



 王妃シルヴィアは、第二王子であるウィリアムと第一王女であるソニアの母親だ。



「今日は妾の愛でるガーデンでの茶会によう足を運ばれた。皆、デビュタントには至っておらぬ者同士故、マナーなど堅苦しいものは気にせぬよう。ゆるりと過ごすがよい。」



 凛と響く声に、僅かばかりの圧を感じる。



 エリンは喉をコクリと鳴らす。



 姉のクリスティが遊ぶ暇も無く、安らぎを共有したい筈の人を頼れず、それを誰かに奏上することもせず。



 前世で流行りまくった《悪役令嬢》にはなりたくないという悩みを打ち明けられたのは、いつ頃だったろうかと思いながら、エリンは紫色のグラデーションが綺麗なベルラインのドレスを眺める。



 体型の維持は基本らしい。



(あの人は、この世界が原作ありきの世界だと分かってる人だ。私とはタイプが違うようだし、元々が受け入れ難い性格の人だから、父様や兄様たちに相談した時みたいな自晒しなんて私には無理だけど。)



 周囲を見渡すシルヴィアの立ち居振る舞いは最早、クリスが家で行うものと比較すら出来ないほどに綺麗だった。



(あれの婚約者の母親にしちゃ、ちゃんと圧があるってのが中々どうして。やはり求められる資質の維持は並大抵じゃない感じなんか?)



 下手な先入観を持つ事を恐れて、エリンは姉から人の成りは聞かなかった。



 だからこそという訳でもないが、なんの動揺も面に出さずにいられるのだと自負している。



 それがたとえ。



 クリスティが選ぶ道が茨であろうと無かろうと、イスキオス王国のクロノス侯爵家に生まれた次女の責として。



 長女としての強さと、末妹としての甘えも無い、余りものの自分には丁度いい席を。



「今日は、そなたらと時を近くして学院に通う我が子と四公16侯の子息らも招待しておる。間もなく、王族特務隊である第一騎士団の見学を終えて合流するであろう。」



 幾ばくかの令嬢がワッ、と歓声を上げる。



「みな、自由に過ごせ。」



 そう言うと、シルヴィアは辺りを見渡したのちに退席した。



「帰れそうだね。」



「ああ。」



「兄様達が戻ってくるまでが手持ち無沙汰だな。令嬢だけかと思えば、子息連中までくるのはストレス。」



「同感だ。」



「シャル……これからも、私と程よい距離感にいてくれるかな。」



「エルが望むなら。」



 返された言葉に若干首を傾げる。



(独特なのはお互い様か。)



 エリンが笑みを浮かべれば、シャルロッテもまた切れ長の目を細めて笑みを返す。



 そんな中。



 前方の令嬢達が再びザワつき始めたので2人が視線をやると、シルヴィア王妃の息子であるルイを先頭にして、令息達がガーデンに到着したようだった。



 それと同時に、ハロルドとフィリップがエリン達の元に帰ってくる。



「悪いな、エル。此方の用事は終わったよ。」



「王妃様も退席なさいました。もう、茶会を後にしても良いかと思います。」



「念の為に確認するが、合流した方達に挨拶へ行くつも「ありません」……だよな。」



 発している言葉を遮られ、ハロルドは笑いながら嘆息する。



「フィル兄、私も帰るぞ。」



「ん、だろうな。そんじゃ、ハロルドとエリン嬢。シャルの機嫌が良いうちに引き上げるよ。」



「お互い様だな?」



 笑みを交わした各々兄妹は、社交場となる筈の茶会を躱すかの如く、素早く場を離れたのだった。






 一方、その頃。






 学院にある図書室の窓から見える中庭の四阿に2人の男女が睦み合う姿が見え、そっと左手首にある飾りに手を翳す者が1人。



 制服が乱れ、混ざり合う男女の姿に辟易し、心が抉られるような痛みを覚えても。



 視線を逸らすことはなく、ただ感情を抱かないようにと静かに、窓から見えうる景色を全体として見つめる。



 妹は、慣れない茶会で上手くいっただろうか。



 兄は、早く帰りたいと願う妹を上手くあしらえているのだろうか。



 不意に笑みが零れてくることに、クリスティは思わず目を瞬いた。



「どうかしたのですか、クリスティ様。」



「いえ、何も。シエラ様、明後日の休暇には我が家に遊びに来られませんか?妹が領地から出てきているのです。」



「あら、よろしいの?」



 情事が為され、誰も四阿からいなくなった事を見届けたクリスティは「勿論ですわ」と綺麗な弧を浮かべて答え、机に開いていた書物へと視線を落とした。

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