005 茶会①
王城内にある庭園の1つ、クイーンズガーデン。
春の庭園らしく、チューリップが色とりどりに咲き誇り、アイアンウッドのガーデンテーブル上に幾つものデザートが置かれている。
引率の大人がいる傍らから離れない者、家門で集まる者、交流している者など既に幾つかの塊が出来て散らばっているような状況にある中。
「ハロルド。」
名前を呼ばれて足を止めて視線を動かすと、短めの銀髪を飛ばした青年が同じ銀髪でポニーテールを揺らした少女を連れて歩いてくるところだった。
「おー、フィリップ。ラディース卿がエスコートしない代わりか?」
ハロルドが右手を軽く上げれば、その相手もまた軽く右手を上げて挨拶を交わす。
「親父なら御前会議に出てるよ。こういう時じゃねえと、あの人こっちに来ることねぇから。つうか言われたもん、そのまま言葉を返すぜ。お前だって、クロノス卿の代行なんだろ?」
「ま、色々な。あぁ、フィリップ……コイツが2番目の妹のエルだ。」
「エリン=クロノスと申します。」
ハロルドが示したので、エリンは名乗ったあとに軽く頭を下げた。
「フィリップ=ラディースだ。君の兄であるハロルドとは同期でさ。今は軍部と治部で部署は違ってっけどさ。2人で旅に出てたこともあるし、他の連中よりはそれなりに仲良いつもりだぜ?」
ニカッと笑いながら、フィリップは隣に控える少女を前にやる。
銀髪のポニーテールが少し揺れて、薄い青色のIラインのドレスは、エリンに似てるのか飾り気は殆ど無いものだが、サテン生地の高級品である光沢が綺麗に陽の光に当たって輝いているように見える。
「妹のシャルロッテだ。セルモーティタ公爵家主催のパーティーにも出た事が無いから、今回の茶会が初の公式行事なんだよ。」
「……シャルロッテ=ラディースだ。」
エリンに向いて軽く頭を下げたため、エリンもまたシャルロッテに礼を返した。
「うちのも殆ど行事には出ないから似たようなもんだよ。エルと仲良くしてやってくれると、兄としては嬉しい。」
「善処する。」
硬い口調のシャルロッテに笑みを零したハロルドはフィリップと視線を交わす。
「エル。暫くの間、1人にするが構わないか。」
「うん。」
「俺もハロルド一緒に場を離れる。エリン嬢と一緒に過ごしていてくれ、シャル。」
「了解した。」
頷き合った兄2人は、妹たちを残して離れていくが、他のエスコート役である保護者らもまた、似たようなものだった。
付き添いがいなくなり、ガヤガヤと賑やかになりだした庭は、幾つものグループが出来ていく。
華やかな場に沿った令嬢達のドレスは、フリルやリボンに飾られ、ピンクやイエローといった暖色の派手やかなAラインが主流らしく、エリンやシャルロッテは一歩引いた位置に陣取った。
「食べないのか?」
「必然性が無いから。」
「そうか。」
「貴女こそ食べないの?」
「シャルで良い。」
「なら、私のこともエルって呼んで。」
「分かった。」
「で、食べないの?」
「エルと同じだ。」
「そっか。」
2人は色んな花を愛で、色んな華を観ながら時間を過ごしていく。
「きゃあぁっ!?」
不意に聞こえてきた悲鳴に誰もが視線をやると、金髪のふんわりカールをした薄い赤色のフリルドレスを着た少女の服が液体の染みを広がらせていた。
(こんな大事の前に?)
その向かい側には、ピンク色の髪をサイドに編み込み、ピンクのリボンいっぱいドレスを着た少女が空のグラスを手にしていた状態で立っている。
「なんて事をしてくれますの!?今日の為に新しく仕立てたドレスを汚すなんて、わたくし、信じられませんわ!!」
「躓いてジュースを溢しただけじゃない。」
「なんですって!?わたくしがキーナ公爵家の人間と知っての狼藉でしょう!!」
「知らないわよ?アタシ、男爵家だもの。公爵家っていうんなら、いちいち目くじら立ててキィキィ叫ばないで欲しいわ。コッチは、グラス割れなくて安心してるのに。王城のグラス割る方が不敬よね?」
「貴女、謝るのが先でしょう!?」
揉めているところに、少し歳のいった女官が近づいていく。
「お着替えを御用意致します。ひとまず、この場を納められませ。キーナ公爵令嬢様。」
「致し方ありませんわ。案内なさいっ!」
パン、と扇を開いたキーナ公爵令嬢は女官の案内でクイーンズガーデンを後にする。
にやり。
薄気味の悪い笑みを浮かべる男爵令嬢の表情に気付かないままで。
「黒いな。」
「え?」
エリンは、ポツリと呟いたシャルロッテの声が余りにも低くて目を瞬いた。
驚いた表情のエリンに、シャルロッテはかぶりを振って視線を男爵令嬢に向け直す。
シャルロッテの目は冷たい色を帯びたまま。
視線の動きを追って、エリンもまた同じように騒ぎの方向へと目を動かす。
(あー、さっきのピンク頭か。興味なくて貴族名鑑は目を通してないんだけどな。なんていうか、こんな場所で目立つような行動するって何あれ。)
眉頭を顰める。
「アレには絶対に近づくな。」
「りょーかい。」
間延びした返事ではあるものの、下手な色味のない言葉に、シャルロッテは冷めていた目に暖かさを戻した。




