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053 再会

 2年ぶりに再開したシャルロッテは、エリンよりも頭ひとつ半ほど身長の差をつけていた。


 エリンとの再開を果たしたシャルロッテは、スタスタと近付いて、エリンをぎゅうと抱きしめる。


 フワリと揺れる銀髪のポニーテールが、艶やかに輝く。



「シャル?」



「色が変わってなくて良かったよ。ちゃんと、エルの中で消化出来たのだな。」



 優しくエリンの髪を掬い、シャルロッテはキスを落とす。


 ぶわぁっ、とエリンの頬が赤く染まる。


 口角を緩く上げるシャルロッテには余裕しかなく、逆に余裕が無いエリンは、はくはくと口を動かしながら足をふらつかせた。



「やれやれ……シャル、少しは手加減してやってくれないか。エルは、まだ完全に調子を取り戻したわけじゃないから。」



 飲み物を淹れたユージーンが、テーブルにカップを置いて菓子を出す。



「ジーンは、ずっとエルと旅をしていたんだろう?私にだってエルを愛でる時間があって然るべきだ。」



 シャルロッテはエリンの手をひき、ソファに並んで座った。


 ユージーンもまた、向かい側のソファに座る。


 此処は、ユージーンの自室。


 ハロルドは、ガイを伴って外出していて不在だ。



「ジーンの〝色〟もだが、エルの〝色〟も変わってなくて嬉しいよ。」



 膝をくんだシャルロッテは、ユージーンが淹れた紅茶を飲むと、切れ長の目を細めて微笑う。



「あの、シャル?」



「ああ……エルには話していなかったな。私は、人の感情というか、その者が持つ内面のモノを〝色〟で識別しているんだ。一色で終わるものではないから厄介ではあるが、エルの持つ〝色〟は好きなんだ。クイーンズガーデンでの茶会で見た時と違うところを挙げるとすれば、色の濃さかな。」



「濃さ?」



「基本的には色相・明度・彩度に分かれていて、それらを私の感覚で勝手に分類するだけなんだが。王都は私が好まない類の色を持つ者が多くて。でも、兄貴が薦めてきた通り、エルとハロルド卿が持つ色は面白かったから。」



 エリンは益々理解できず、首を傾ける。


 それを見て、シャルロッテは更に愉しくなって微笑うと、カップをソーサーに置いて立ち上がり、床に片膝をついて右手の拳を胸に当てて肘を並行に保つ。



「私、シャルロッテ=ラディースは、ユージーン=クロノスと共に、エリン=クロノスにかかる露を全て薙ぎ払うと此処に誓う。」



 すっと立ち上がると、シャルロッテはユージーンを見るなり綺麗に弧を描いた。


 満足そうな表情に肩を竦めながらも、婚約者の決意表明にユージーンもまた淡く口元を緩める。


 目の保養にしかならない光景に、エリンは目を瞬いた。


 ユージーンはシャルロッテの隣に立ち並ぶと、漸く口を開く。



「クロノス侯爵家は、僕が継ぐ。光も陰も全て。だから、エルは何も、我慢しなくていい。」



 その言葉に、やっとエリンが我に帰った。


 ユージーンが言う〝光も陰も全て〟が、何よりのこと。


 がた、と立ち上がると、エリンは慌てて部屋を飛び出していった。


 眉尻を下げたユージーンは、くつくつと微笑う。


 シャルロッテは、そんなユージーンの頬に手を伸ばして距離を詰め、銀色の髪を揺らした。



「ジーン、また悪い色が出ている。」



「そう?」



 ユージーンは目を閉じて、頬に触れたシャルロッテの左手に自分の右手を重ねた。



「エルが好きだと伝えたら良いのに。」



「僕は、僕が出来うる最良の選択をしたよ。シャル、いつもありがとう。僕の茶番に付き「それは言わないと約束しただろう?」……うん、そうだったね。」



「エルのジーンに対する信頼の色は、以前よりも濃くなっている。何より、ジーンが選んだ道に付き合うのだと私自身が決めたんだ。今更、婚約破棄をするなど許さないからな。」



「わかってる。」



 ようやく、ユージーンは瞼を開いてシャルロッテを見つめる。



「いつものジーンに戻ってる。」



 淡く笑みを浮かべるシャルロッテを、ユージーンは引き寄せた。


 多少の驚きはあるが、態度を変えることはない。



「膿、出し切るぞ。」



「エルの繊細な色を、奪われたくはないからな。」



「一緒に戦ってくれるよね。」



「当たり前だ。」



 こつん、と額を突き合わせたユージーンとシャルロッテはどちらからとも言わずに笑い合う。


 ユージーンはシャルロッテをソファに座らせた。


 隣にユージーンが座ってすぐ、シャルロッテは自身の身体をユージーンに預ける。



「僕の方が、ハロルドより半年早くエルの側にいたのに。なにがハロルドに負けたのかなぁ。」



「まだ、ハロルドと決まった訳ではないだろう?」



「あー……ノアねえ。」



 声のトーンが下がり、思わずシャルロッテは笑みを零す。



「エルが疲れてしまった時、いつも傍らに控えていたんだろう?」



「どっちが勝つと思う?」



「私、まだノアとやらの色を見れていないぞ。」



「あ……そうか。」



 舌打ちするユージーンに、肩を揺らして微笑う。


 サイドの髪が少し落ちたところを掬い、ユージーンはそのままシャルロッテの頬に口付けした。



「今日…この後は?」



「ジーンの色に浸っていく。学院は、汚い色が多くて疲れる。」



「第三王子の周囲、気をつけるんだよ。何か起きる予兆を感じたなら直ぐに教えて。シャルは、大切な僕の伴侶になるんだから。」



「私が学院にいる方が情報は得やすいだろう?大丈夫、ジーンに要らぬ心配はかけないよ。」



「シャルと一緒なら、エルも通えたと思うのにな。」



 とすっ、とソファに座り直す。



「仕方ないさ。エルが進んでいる道は、これからの彼女に必要な道なんだから。自分で進まなければならない道を判断出来るのは良いことだよ。」



「シャルは大人だね。」



「さあ、どうだろう?」



 クスクスと微笑うシャルロッテは、茶会で出会った時のことを思い出していた。


 ハロルドとエリンの2人が並んで歩いてきていて。


 淡く消え入りそうなエリンの色を、ハロルドの持つ色がシッカリと支えていて、それを甘受している色があったのだ。


 兄と妹なのに?


 その色は、かつてのシャルロッテ自身がフィリップに抱いていた色と同じ類のものだった。


 だから、シャルロッテは〝面白い〟と興味を抱いた。



(ジーンには言えないな。エリンの持つ色は、最初からハロルドに向けられていたなんて。)



 でも、と不意にシャルロッテはノアの存在に興味を持つ。


 ユージーンは警戒色を出すけれど。


 ダウナント地区でノアと対面した兄フィリップから聞いていたことを思い出したのだ。



『シャルが気に入りそうな色を持つ奴がいたよ。エリン嬢の傍らに、もう一人。あの子の周りには、自然と良い色が集まるのかもしれないな。』



 フィリップは、滅多に他人を薦めない。



「ねえ、ジーン。」



「ん?」



「ノアとやらに会ってみたい。」



 シャルロッテの企みを含んだ笑みに、ユージーンの口元めまた、綺麗な弧が浮かんだのだった。


 一方で。


 ユージーンの部屋を飛び出したエリンは、廊下をバタバタと走ってハロルドの部屋に行く。



(いない!?)



 ふぅ、と息を吐いたエリンは呼吸を整える。



座標索敵(ヒューコード・サーチ)。」



 ハロルドの位置情報を確認したエリンは、侯爵家の邸から1人外へ出る。


 その後ろ姿を、ユージーンとシャルロッテの2人はバルコニーから眺めていた。


 幾つかの気配が後追いしているのにも気付く。



「あーあ、懲りない連中。」



「追うか?」



「んー?僕の妹が、魔法具を作るだけの引っ込み思案で臆病な性格なんかじゃないって、知ってるでしょ。」



「そうだな?」



「可哀想になぁ……エルの魔力における制御装置は、昨日外しちゃったから。アイツら、昨日のハロルドの比じゃないよ?」



「エルがどんな術を使うのか、後追いして見に行くのも悪くない案だけれど。」



 シャルロッテは、くるりと踵を返して室内に戻る。



「ジーン、紅茶のおかわりが欲しい。」



「了解。」



 オレンジ色の髪が風に流され、バルコニーから部屋へ戻るまで、笑みは携えたまま。






 ー後悔する暇なんてあると思うなー


 ー僕とハロルドの弱点だと判断した時点で、お前らの未来は詰んだよー


 ーエリンにはー



「僕もハロルドも、敵わない。」

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