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044 謁見

 ロタール=フォス=アステーラス=イスキオス。


 イスキオス王国の現国王であるエルンストの弟にして、王位継承権を放棄した王国唯一の大公。


 大公領であるルイーズ領は、ターコイズに輝く湖畔が観光資源となり、静養地として別荘が幾つも保有されている。


 エルンスト王が上限の妻を持ち、レオナルドを筆頭に、ウィリアム、ソニア、ルイ、アズラエルの子を成したのとは対照的に、ロタールは妻を一人しか娶らず、子もルートヴィヒしかいなかった。


 妻であったアンリエッタは、2人目の子がロタールの髪色である金でもなく、自身の持つ蒼色でもない子が産まれたために狂ってしまったのだ。


 産まれた子は身体が弱く、既に逝去している。


 アンリエッタもまた、産後の体調が優れなかった事と狂ったことによって、入水自殺を果たした為、この世には居ない。


 ロタールは後妻を迎えることなく、ルートヴィヒを育て上げた。


 ロタールとルートヴィヒの関係は良好。


 此度のイナンナ皇女が嫁入りする件にあっても、エルンストが放った『儂の駒に成り下がったに過ぎん』という言葉に怒りを覚えながらも、公爵家として栄えていく為には必要な事て父子ともども受け入れたのだ。


 徒歩にて旅をしてきたエリンらとは異なり、馬車を使用したルートヴィヒとイナンナは、既にロタールとの謁見を終えて、公爵領入りしている。



(複雑な家ばっかだな。)



 自分のことを棚に上げつつ、エリンは皆と共に謁見の間がある扉の前に立っていた。


 贖罪をするわけでも無い。


 ただ、自分のした行いの後がどうなったかを己の目で確かめるだけである。


 離島はルイーズ領の港から出ている船、若しくは城の何処かにあるとされる固定型の転移魔法陣でしか往来出来ない。


 よって。


 ウィリアムが封じられている離島に行くに、ロタールの許可が要るのは常套手段だった。


 着の身着のまま、旅装束の姿で謁見しようと決めたのはハロルドである。



『旅装束の姿なら、すぐにでも離島に行ける。正装である必要性はないだろう。条件は徒歩であれと言い出したのは彼方だから。』



 尤もな話だ。


 炭鉱での労働とのみ聞いているが、働いているのは犯罪を犯した者ばかり。


 身なりは良すぎない方が妥当。


 要するに〝此処まで歩いてきたのだから、さっさと行かせろ〟という事である。


 今の状況を確認したい者は、まだ残されているのだ。


 扉が開き、謁見の間に通される。


 5段くらいの半円が重ねられ、そこに置かれた椅子は背の高い重厚で豪奢な椅子で、その椅子には、齡47になるロタール大公が鎮座していた。


 継承権を放棄したとはいえ、王族は王族である。



「久しいな、シルヴィウスの子。」



 発せられた言葉が響き、ロタールの視線がハロルドに向けられる。



「お久しぶりにございます。此の度は、我々のような若輩者に拝謁する機会を与えていただき、恐悦至極です。」



「そう堅い挨拶は抜きにせよ、ハロルド卿。まあ、なんにせよ…私が此処に座っておれば、その挨拶をせざるを得ないだろうがな。」



 皮肉そうに笑う。



「同じオレンジ色の髪をした者らが、卿の弟妹でよいのかな?」



「はい。ユージーンと、エリンと申します。」



 ハロルドが名前を呼べば、それぞれが頭を下げて挨拶を返す。



「あとの2人は…」



「ジェノヴァ共和国の元首ラファエル=シア=ガルディオスの弟君はとなる、エドワード=ノア=ガルディオス。並びに、同国の医師ガイ=シャーマン中尉です。我々の旅に道々頂きました。」



 ノアが頭を下げれば、ガイは軍人式の礼を取る。


 所作を見れば、技量は分かる。


 ロタールは、それぞれの立ち居振る舞いを存分に確認してから静かに口を開いた。



「ダウナント地区から侯爵家並びに元首の家系たる者が徒歩にて我が領地まで来られたか。それ程にまで、其方のお嬢さんの願いは大切なものとして扱われているのだな。」



 ロタールは腰を上げるなり、階段を降りた。


 手にしていた杖の宝玉が淡く光れば、椅子があった場所は下に潜り込み、後ろの壁に扉が現れる。


 扉には薔薇の花が描かれ、イバラの蔦がスルスルと解かれていき、扉が消えて奥に続く通路が開かれた。


 エリンは、目を瞬く。



「案内しよう、若人らよ。レオナルドからは話を聞いておるし、シルヴィウスとシリウスの2人からも連絡をもらっている。貴公らを無碍にすれば、私とてタダでは済まぬのでな。」



「父上と叔父上から、ですか?」



「私が、貴公らに出した条件は全て筒抜けだ。シリウスとは友と言える間柄でな……私が継承権を放棄する際にも手伝ってくれている。」



 そこで漸く、ロタールは目尻を少し下げた。



「クロノスの…ましてや、次代を担う者らの願いを反故にはせぬよ。さあ、行こうか。」



 通路に向かって歩き出したロタールに、ハロルドはエリンらを見やってから、通路に続いていく。


 全員が通路内に入ると扉が現れ、外で何やら音が聞こえる。


 椅子が定位置に戻ったのだろうと推測した。


 通路を抜けると魔法陣が描かれた空間に出て、ロタールが中央に立って、振り返る。



「さあ、陣の上に乗られよ。貴公らを大公家が管理する離島ラングホルムへ招待する。」



 陣に5人が乗ったのを確認すると、ロタールは杖をトンと床に突いた。


 淡く青い光を放った杖は、魔法陣にも光を及ぼして6人を別の場所へと移動させる。


 そこは、岩場に囲まれたところで、潮の香りが漂う場所だった。


 少しだけ、肌寒く感じる。



「今の時間なら、まだ労働をしている時間帯だ。その者が働き具合を確認出来る通路は別にある故、そこに卿らを案内しよう。」

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