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043 湖畔の前で

 ロタール大公が住む古城は、湖畔が周りを囲んだ島に建てられている。


 木々に囲まれた城は、風情に溢れていた。


 秋も深まり、紅葉樹となった木々は水面にも映し出され、観光地としても有名な大公領は観光客で賑わっている。



「静かな湖畔っていう訳にはいかないくらい絶景だね。」



「観光収入だけで、大公領は黒字だよ。医療制度や教育制度も充実している。王室からの国庫金を受け取ることもないとか。」



「それだけ大公様の力が強いのか、慕う領民たちの力が強いのか、か。」



 エルがブツブツ言うと、ハロルドは頭を撫でる。



「エルンスト王とロタール大公の仲は、良好に見せているようで牽制し合ってる。」



 ユージーンは言葉に、誰もが注視する。


 遮音魔法を瞬時に纏わせたことに、誰もが気づいて目配せした。



「ロタール大公が王位継承権を破棄し、大公の座に退いたまでは良かったんだけどね。キーナ公爵家が潰れたことで、一族郎党や悪事に関与していた貴族家まで連座したもんだから、自分の息子を差し出すハメになった。」



「望んだとは取れないか?」



「どうかなぁ。姉上と結婚する上で、必要な家格だと判断したなら愚策かとは思うよ。エルの友達の件はイレギュラーすぎるけど、公爵家になったことで、王命に逆らえば逆賊扱いになるんだから。予知の能力でもない限りは無理じゃない?」



「可能性は低い、か。」



 ハロルドの言葉を受けて、ユージーンは頷く。



「ボリス皇国に隣接する領を任せるに足るのが第一というなら、クロノスを馬鹿にしなかった頃の姉上が正妻にいては最早筆頭である事も難しいだろう。だからこそ、姉上を本邸から追い出して別邸を与えた。本邸にはルートヴィヒ公爵とエルの友達が仲睦まじく入ったそうだよ。」



「クリス姉様が、別邸?」



 エリンは目を瞬いて口をポカンと開けた。



「本妻をエルの友達にしたってこと。」



「いや、それは分かる。」



「クロノスを存分に扱った人間を、影は受け入れない。少なくとも、ハロルドと僕の体制では……と考えてたんだけどね。」



 くすりと嗤うユージーンは、腰に手を当てた。


 訳が分からずに、エリンがハロルドを見やると、察したハロルドが口を開いた。



「父上とシリウス叔父の代でも受け入れない決定が出たんだ。クリスが離婚しても、クロノスの家門には戻れない。」



「え?」



「母上との関係も精算する見込みだよ。クリスの商会を使って、色々としていたそうだから。」



「え?」



 知らない事実が次々と出てくる。



「ちゃんと話がなされるまで詳しくは話さないけれど、エルには悪くない話だよ。ジーン、そろそろ遮音魔法解こうか?」



「了解。」



 ユージーンが解いたところで、休憩する事になった。



「嬢ちゃん。はい、飲み物。」



 ヒョイと差し出されたガイの手には、近くで売り子をしていた店で売り出されていたラムネの瓶。


 ノアは、ハロルドとユージーンに同じ物を渡す。


 蓋を開けて飲めば、微炭酸が喉を潤して誰もが一息つく。



「マスタング公爵家の内情くらいは抑えておかないと。今から僕達が会いにいく人が、嫁いでいったとはいえ、同じクロノスの出なんだし。」



「ジーン、他に注意事項は?」



「無いよ。」



 ハロルドに訊かれ、ユージーンは頭を振る。



「ノア。」



「ん?」



「ノアが〝エドワード〟であることは、周知の相手だ。下に出る必要はないからね。」



 視線は鋭く、ノアを射抜く。



「一度は…表に出たんだ。やり取りしていく上で、アンタが使える手段の一つとして数えてくれたんでいいさ。アンタに使われる分には、いちいち確認はいらねーよ。」



「助かるよ。」



 ハロルドは口元を緩める。



「その場合。」



 ハロルドは、ノアからガイに視線を流す。



「勿論、ガイも使ってくれて構わない。」



「クロノスの事情に抱き込んで申し訳ないが、負ける訳にはいかないからね。」



「俺は、エルの傍にいるって随分前に決めてる。ガイもジェノヴァに帰らずに此処にいるんだ。否という答えは言えやしねーって。な、ガイ?」



「へいへい。」



 肩を竦めながらも飄々とした表情のガイは、ラムネを一気に飲み干した。



「エル。」



 最後に、ハロルドはエリンを見やる。



「ロタール大公を乗り切れば、後は容易い筈だ。身体に不調があれば、すぐに言うんだよ?無理だけはしないこと。エルには、俺たちが一緒にいるから。ちゃんと頼って。」



 頼りになる人がいる。


 それは、エリンにとって何物にも変えられない大切な人。


 力を持ちすぎれば、クリスティのようになる。


 イナンナのように立ち回れるほど、エリン自身うまく出来る自信はなかった。


 湖畔が囲む城。


 そこの主人であるロタール大公に会う前に、自分が決して一人で挑んでいるわけでは無いのだとハロルドに後押しされて、嬉しくない訳がなかった。


 ふわり。


 風が流れ、オレンジの髪が揺れる中で笑うエリンに、ハロルド達もまた、笑みを緩めたのだった。

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