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002 長兄と次女


 長男であるハロルドから見たエリンは、家族と適度な距離を取った、変に自立した次女。



 少なくとも。



 学友だった者達の、似たような年頃の女の子とは一線を画していると思っている。



 子供らしさは皆無に等しく、生活改善への興味が強い。



 そうかといって上昇志向が変な方向に偏っているわけではなかったから、どこか直さなければならないと思うようなこともなかった。



 長女のように着飾る物への興味も示さず、三女のように可愛らしい物への興味も示さない。



 着れれば問題なく、使えれば構わない。



 機能性重視。



 家族の立ち位置からすれば、次男のように自分に何かがあった時の為にスペアのような勉学を余分にしなければいけない立場ではない。



 そして、三男のように確実に家から出て行く為の道筋を考えなくてはならない立場でもない。



 それなのに。



 まだ、王都での教育を受ける前の年齢であるが故の甘えもなく、ただ、『自分が堕落した生活』を送りたいが故に初等教育をサッサと済ませた上で、いつ役に立つのか用途不明な物達を次から次に自作している。



 子供らしさを求める隙を与えない。



 1度だけ。



 ハロルドはエリンから頼まれごとをされてはいるものの、それ以後は同じ話題になることは禁じらたようなものだった。



 その()()()()()を少しでも詰めようとすれば、エリンは自分から離れていくだろうとハロルドは予測していた。



「出来たー。」



 作業着を着たエリンは、椅子から立ち上がると懐中時計を片手に部屋を移動し、ハロルドの座る向かい側の椅子に座る。



「これ、録音録画機能搭載した懐中時計。仕事中に気になる場面出くわしたら、ちょい魔力流したら勝手に起動する。いざという時に使って。」



 家紋入りの懐中時計である。



「こないことを願うよ。」



「一時は万事。まぁ、無いにこしたことはないんだけど。予防線を張れるなら、使えるものは訳の分からない妹でも使えってことで。」



 話し方ですら、何歳?と聞きたくなるほど。



 年齢や見た目に乖離していることをハロルドが気にしなくなってから、もう何年が経つだろうか。



「家族分の用意したのか?」



「お父様とお母様は、揃いの指輪。クリス姉様はブレスレット、ジーン兄様は色違いの懐中時計。レニーとレスはペンダント。ただし一定の月齢が来ない限りは作動しないように設定してある。今はまだ早い。」



「家族想いだな。」



「自由にさせてもらってる分の対価でしかないよ。」



 ピクリとも動かない表情で言うエリンに、やれやれと嘆息しつつも、ハロルドは懐中時計を身につけるべく、内ポケットにしまう。



 表情が少ないことも気にならなくなって長い。



 同じ空間にいて良し。



 そう思っているエリンがいるという事実があれば、問題は無かったのだ。



「明日の朝には出発して来週の茶会に備えるから、そのつもりでいてくれよ?」



「あんまり気乗りしない。」



「仕方ないさ。エリンが侯爵家に生まれて、イスキオスの貴族である以上、最低限の義務なんだから。まあ、デビュタントを前倒してまでの茶会に意義があるのかは謎だと思うけどな。」



 そう。



 今回の茶会は、本来16歳にあるデビューの為の舞踏会を5年も前倒して行われる。



 再来年の王都教育に係る際、この国の第3王子が入学するから、というのが暗黙の了解らしいが。



 エリンは大人の事情に興味はなかった。



 更に言えば、王家に対する興味が微塵といえるほどに、全く無いのである。



 堅苦しい場は苦手だし、そもそも他人と接する事を得意としていない。



「対象は10歳から12歳の令嬢、だそうだ。」



「悪意しか感じない。」



「まあ、意図するところは否定しない。本来であれば余裕を持って然るべきところを、茶会の知らせ自体が急だったからな。」



「不参加が良いのに。」



「王家の命令だから仕方ないさ。先にも言ったけど、侯爵家の生まれである以上、義務が発生したのだと考えてくれ。」



 苦笑したハロルドは、言葉を続ける。



「エスコートには俺がつく。最低限の挨拶さえ終えれば、観察に徹したらいいさ。」



 兄の気遣いに安堵の笑みを浮かべた妹は、今度は魔法ではなく、自ら紅茶を淹れ直したのだった。

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