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030 光と影と



 エリンは、ガイと組んでイナンナの動静監視をする立場にあたる。



 夜勤に入る前に、ハロルドに案内された大使館の一室で、エリンはシルヴィウスからの優しい抱擁を受けていた。



 出るようになった声と、血色や体格などが良くなったエリンの姿に、シルヴィウスは涙を流す。



「安心したよ、エル。」



 優しい声音で言われ、エリンは驚きを隠せないながらも、シルヴィウスを受け入れた。



「ご心配お掛けして申し訳ありません、お父様。」



 少なくとも、エリンにとってシルヴィウスは苦手ではあるも嫌いな存在ではない。



 ただ、感動の再会であるのに、エリンが着る服はジェノヴァの軍服であり、貴族の子女らしい欠片は全くもってなかったので違和感ありきではあるが、シルヴィウスには関係ないものだった。



 帝国での交渉が終われば今後の話をしようと決めて、抱きしめられた身体を解放された。



 大使館内に置かれた部屋2つに、イナンナとジュードの受け入れを完了し、ノアがアレハンドロ侯爵に対してラファエルからの親書を渡された後、ダウナント地区の西に位置するサルゴン帝国の大使館にも連絡がいく。



 対外的に、皇位継承者の出奔を伏せていた帝国は当初否定した。



 が。



 イナンナとジュードが、ラファエルに謁見している映像をユーリが公開すると態度を一変。



 帝国の大使館は、本国との連絡を取るため、一気に騒がしくなったのだ。



 最初の対応を誤ったサルゴン帝国の大使館を統括するギュンター=ロックボトム侯爵は、イスキオスの介入に机上に拳を打ちつけ、本国の対応を待つしかなかった。



 エリンらがダウナント地区入りしてから、3日目の朝。



 帝都の学院に留学していたユージーンが地区入りして、エリンと再会する。



「良かった、エル…」



 幾分か身長が伸びたユージーンに、すっぽりとハグされ、エリンは少しくすぐったかった。



 やはり、格好は軍服のままだが。



「ジーン兄様。お手紙、たくさん頂いていたのに、返事を書けなくてごめんなさい。」



「気にしなくていいよ。僕はエルが元気なら、それでいい。」



 にこりと微笑んで、ユージーンはエリンから身体を離し、室内にいたハロルドてシルヴィウスへと向き直った。



「今、帝都は貴族院と軍部が平行線で言い争ったままです。もう一押しした方がいいでしょう。」



「イシルドゥア=バラド=サルゴンに引渡しの席に着くよう打診しよう。王家から、レオナルド王太子が此方にくることが決定したことも併せてね。」



 シルヴィウスの放つ言葉に、その場にいた子供3人は三様に反応した。



 ハロルドは片眉を上げ、ユージーンは肩を竦め、エリンは首筋を指でポリポリとかいたのだ。



 要は、3人とも〝嫌〟なのである。



 子供達の素直な反応に苦笑したシルヴィウスは、部屋を出ていき、アレハンドロと次の策に出るべく打ち合わせをすすめた。



 女性騎士も配置され、連続勤務に当たっていたハロルドとエリンは、ユーリとガイも含めて夜も半日休息を取れることになり、軍服から部屋着に変えて客間の一室を借りて3人でベッドを共有する。



 背中からハロルド、正面からユージーン。



 変わらない位置と距離に、思わずエリンは泣きそうになる。



 ユージーンが頬に指の腹をあてて撫でれば、そのままエリンは瞼を閉じて眠りについた。



「それ、エルには相変わらず効果的面だな。」



「昂った神経を落ち着かせて、良質な睡眠を取らせるために魔力を微量に流してるだけだよ。僕は、それぐらいしかエルにしてやれない。」



「悪かったな、ジーン。だいぶ、エルを痩せさせてしまったよ。」



「ハロルドは別に悪くない。悪いのは、自覚が無い攻撃を繰り返した姉上だ。それを咎めない母上も、僕は許せない。父上が未だ……本当にエルを想ってくれるなら、このままでもいい。けど、僕は。」



 ユージーンは、エリンの唇に触れる。



「エルに跪かせて詫びさせて、姉上も母上もグチャグチャにしたいんだ。」



「ジーン…」



「僕は、兄上を助けてクロノス侯爵家の陰になるのは全然厭わない。むしろ、僕の天命にすら感じる。でもね、ハロルドとエルとの……この関係が無くなるのが耐えられそうにないんだ。エルに依存してるという自覚はあるよ。」



 すーっ、と唇をなぞったユージーンは、ハロルドと視線を交わらせる。



「シャルロッテ嬢は?」



「シャルは、僕のエルに対する感情の意味が何たるかを理解しているし、それでも良いんだそうだ。僕は…シャルに甘えさせてもらってる。都合良すぎる僕の茶番に、嫌とも言わず、むしろ好意的に付き合ってくれてる。」



「好意的?」



「色が見えるんだそうだよ。人の身体を纏うようにして。シャルは、エルとハロルドに王家の茶会で初めて会った時に見た色に興味を持ったらしい。」



「……色?ああ、フィリップが言ってたな。」



「お陰で、僕が歪んでいることをシャルは理解している。取り繕う必要がないのは、良いことだよ。」



 ユージーンは「だから」とさらに言葉を続ける。



「ハロルドも早く決めて。僕は、ハロルドとエルの為にしか動かない。早くしてくれなきゃ、僕は姉上と母上の二人をグチャグチャにするよ?」



 ユージーンの瞳に、全く光が差していないことに気付いていた。



 どれだけ本気なのかが、ハロルドは理解する。



「……ジーン。」



「お願いだよ、ハロルド。僕をこれ以上、歪めないでくれ。ハロルドは、僕の光でいて。」

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