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前世と今世の狭間(Said:エリン)



 前世で生きた人生は、平坦ではなかったと思う。



 昼は働いて、夜間の大学に通って。



 何年もかかって、なりたかった警察官の仕事に就いて、人間の汚さを見て。



 結婚して、子供産んで、離婚して。



 二馬力で働いてるからと真剣に仕事しなくても良い階級が上の、ふんぞり返って胡座をかいてる連中にはなるまいと心を削って。



 腰が痛いから椅子に座ってるのが嫌だとか、異動したくないから精神病んだ診断書取って休むとか、阿呆すぎるオッサン共に辟易して。



 それでも、子供だけは私みたいにならさせまいと必死だった。



 元警察官の父は、自分の気分次第で母に当たり散らし、退職してからは顕著で、買い物や病院も、母が動く時には私が連れて行った。



 姉と弟がいたが、この二人は母に対して何もせずに父に味方した。



 姉は何でも買い与えられ、私は殆どお下がりで、弟は性別が違うから、やはり全て買い与えられていたから、私は姉弟間からも浮いていた。



 欲しい物を買ってもらえるのも姉弟だけで、小遣いを貰えるのも姉弟だけ。



 扱いの差を気にするのも馬鹿らしくなっていった。



 父が生活費を母に払わなくなって、母が調停離婚を弁護士つけて起こしたら、弟は母を攻撃する電話一本だけ入れて、姉は弁護士を教えろとだけ連絡を寄越し、何も助けずに放置した。



 元々不要な次女だった私は、小さい頃には家に要らないからと、父の同僚に養子に出す話もあったらしい。



 7歳くらいに聞かされた話に、父を父として見なさなくなった。



 戸籍上、血の繋がりがあるだけ。



 そんな戸籍上だけの奴と同じ職業に就いたのは、仕事を理由に家を平気で空け続けたのは何故かという探究心だけだった。



 結果、15年近く続けられていたのだから、性格には合っていたんだろう。



 親の離婚も無事に成立し、ひと段落つくまで。



 元々はゲームや漫画が好きで二次創作もしていたぐらいだし、幕末の乙女ゲームも主題歌ぎ気に入って遊ぶほどたったから、携帯で読む小説も息抜きには丁度良かった。



 ロジックを上手く組み立てている作品を読むと、小説を原作にした漫画を探して読むのも楽しみの一つになった。



 後宮の薬師が学術的根拠をもとに推理する物語や、過去の断罪における復讐を命令された令嬢の物語は、アニメ化までされて、声優が声を充てる壮大なエンターテイメントになっていたと思う。



 漫画で好みの絵柄でない時は無理だから、文字の形容から人の形を想像するのは面白い。



 結局。



 仕事していた記憶はあれど、死に様までは覚えていないのが怖いが、まさか検死されてないよね?



 殉職なら、二階級特進して一定額の補償金は支払われる筈だ。



 高齢者になった母には悪いが、子供を無事、成人まで育てて欲しい。



 成人したら、一緒にお酒呑もうねって約束してたし、いろんな国に連れてってくれると話して、ニコニコしてくれていたのに。



 約束、果たせなくなりました。



 そんな事実に気付いたのは、エリンとして生を受けて3年が経った頃。



 前世と今世の違いを、はっきりと区別出来るようになったのは、5歳になってからだけどね。



 男、女、男と続いて生まれた私は、次女といっても末っ子だった為か、父シルヴィウスと母ジェニファーの関係が良好だったこともあって、割と平等だった。



 この頃から、9つ離れたハロルドと3つ離れたユージーンは良く相手をしてくれた。



 そして、6つ離れたクリスティは良くも悪くも長女だった。



 だからなのか。



 前世の記憶を認識して、エリンであることを受け入れるようになって、私の顔からは母いわく「表情が消えた」らしい。



 笑わない、泣かない、喜ばない、悲しまない。



 別に喜怒哀楽が抜けた訳じゃないけど、いちいち相手にしていられない貴族の生き方にはついていけなかった。



 社会不適合者。



 懐かしい、そんな響きのある単語。



 末っ子特有の〝可愛らしい仕草〟が理解できていない私に興味を失せた母は、父シルヴィウスに新たな子を求め、夜の閨事に精を出した。



 そして、生まれた5歳離れた双子の弟妹。



 可愛いが正義の弟妹に母が心揺さぶられて溺愛した結果、私は母から益々相手にされなくなった。



 別に、ドメスティックバイオレンス的な虐待は受けていない。



 ただ、誕生日パーティーなんてのは開かれず、プレゼントもなく、母が催すティータイムにも呼ばれなかっただけ。



「貴女は別に、しなくても構わないでしょ?」



 いちいち聞いてくるんじゃねえよ、って言いたいと思ったのは数知れず。



 家族に対しての愛情は、人より希薄だろうに。



 母が私を相手にしなくなってからも、ハロルドとユージーンは私に構ってくれていた。



 図書室で只管読書に読み耽っていたら、いつからか隣にユージーンが来てくれて、自分の勉強をして付き合ってくれて。



 庭でボンヤリ座って植物を弄っていたら、ハロルドが庭師と一緒に作業してくれて。



 母が姉と弟妹を連れて出掛ければ、ハロルドとユージーンが相手をしてくれて、連れ出してくれたりもして、別に気にする要素が無かった。



 そんな中でノアと知り合って、ハロルドとユージーンしかなかった関係性に広がりが出来てった。



 なんか助けられてばかりだなぁ、と悉く思う。



 兄という存在が前世ではいなかったから、私には丁度良かったのかも知れない。



 母が父に対して、私の事をどう話していたかは分からない。



 けれど。



 父はハロルドやユージーンがいる時でもいない時でも私の所へ来ては、世間話を一つ二つとしていった。



 偶に、欲しい物を聞かれて答えていれば自ら手渡してくれて、私が学びたいと思った学問は、とことん学ばせてくれるほど、父が母のように私を放置することはなかった。



 だから余計に、私は歪んでいった。



 エリンとしての環境を享受しているのに、元の生き方が警鐘を鳴らす。



 私は私であるのに、エリンでいなくてはならないのだから。



 あれだけ二次創作をして、携帯小説を読み漁って楽しんでいたくせに、いざ、自分がその立場に置かれたら、腰が引けてるってどうよ?



 家族全体に嫌われてないから良かったものの。



 ユージーンとの外出で、ノアと出会えたことも大きかったんだろうな。



 偶然は必然とは言うけども。



 サリーの件は、立ち回り方を間違えた結果だから仕方ないと捨て切れたけど、それもノアがいてくれたからだと分かってる。



 都合の良い時だけ〝貴族としての立場〟とやらに助けられていた。



 クリスティが「悪役令嬢になりたくない」とのたまわり、大願成就を果たしたあと。



「エルも私と同じ転生者だったら、もっと喜んでくれたはずよね。」



 その言葉を聞いて、ようやくクリスティが私には前世の記憶が無いと考えていると確信を持てた。



 題名は分からないけど、転生したこの世界のヒロインをイザベラ=カスティーア男爵令嬢と考えるなら、確かにクリスティ=クロノスは《悪役令嬢》なのだろう。



 でも。



 俗にいう〝ざまぁ展開〟のお膳立てをしたのは私なり、ハロルドやユージーンなり、父なのだ。



 小説の世界じゃない、現実に人の心が動く世界。



 他の誰でもない。



 クリスティ=クロノス侯爵令嬢が、私……エリンにとっての《悪役令嬢》だったんだ。



 ねえ、クリス姉様。



 エリン=クロノス(わたし)が一体、貴女に何をしたというんですか?

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