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020 黒鷲と金狼



 黒づくめの軍服に、釦の色も黒。



 少し厚みのある踵がある靴は、ザリッと音を立てて砂地を喰む。


 褐色の肌に切長の紫眼は、村長の家を出ると一気に索敵の魔力を飛ばした。


 ジェノヴァ共和国に於いて、高い魔力を有する者は少なく、軍服の詰め襟をカチッと上まで閉めている男は、プラチナの髪を靡かせた。



「引きが良いようですね。」



 黒の革手袋をはめながら、村長宅の敷地を出た所で待っている同僚に聞こえるように言う。



 同じ黒の軍服だが、幾分か着崩した金髪の男が煙草を口に咥えて立っている。



「ヒット?」



「市場の方に揃っています。」



「スヴェン!今すぐ、市場の出入り口を確実に全方位固めろ!蟻の子一匹逃すんじゃねえぞ!!オラ、お前ら仕事だ、仕事!配完したら、出入りする村人以外の奴は全部抑えろ!!モタモタしてたら、全員ヤキ入れるからな!?」



 張り上げられた声に、バタバタと部隊が一斉に動き出す。



 指示を終えた男は、携帯灰皿に咥えていた煙草をグシャリと押しつけて片付けた。



 少しばかり背の高い上官を横目に口角を上げる。



「いいねぇ、大将。早く終わりそうじゃん。」



「片方だけですけどね。」



「あ?」



「月並みではありますが、行けば分かります。」



「月並み?」



 スタスタと歩き出した上官に眉根を寄せながら、兎角ついていく事にした。



 言葉通り、事は既に起きていた。



 ノアが軍人の腕を後ろ手に回してギリギリと締め上げ、タガーを首筋に当てている。



「ほーんとさぁ、随分な挨拶なんじゃないの?共和国の軍人様は。いきなり女の子の腕掴んだりしたら駄目じゃない?職質するにしたって、きっちり正規の手順は踏まなきゃ。」



 力を込めれば、動きを制された男は顔を歪めて軽く悲鳴を上げる。



「大丈夫か、エル。」



 ハロルドが袖を捲ると、赤い指痕がクッキリとついている。



「やれやれ、残念なくらいの屑だね。ちょーっとばかし暴れていい?共和国の軍人って、今どんな教育受けてんのよ。もーちょっとマシな運営してるもんだと思ってたんだけな……評価下げるぜ、黒鷲の旦那?」



「それは他の隊からきたばかりの新人ですよ、エドワード様。それと、その呼び方は止めて下さい。」



 黒鷲と呼ばれた上官は、右手を腰に当てる。



「手荒な真似したの、コイツだぜ?なーんにも職質理由告げないまま、か弱い女の子の腕をいきなり掴んだの。つうか、お前こそ何その名前を様付けで呼ぶだのしてくれてんの?ついでとばかりに丁寧に喋るだのしないでくれる?」



 ノアは怒りを目に宿して更に腕を締め上げる。



「大変失礼を致しました。ただ……重ねての願いで申し訳ありませんが、貴方さまもですが出来れば、お連れの方共々に殺気ともなる力を収めてくれるように進言してくれませんか。」



 掴んでいた腕を離し、ノアは後方にいたハロルドとエリンを見やる。



 制止されていた男は一目散に逃げていく。



「金狼。あれ、軍人としてどうよ?」



「サッサと捕まえて、元の隊に強制的に荷物扱いで返却してこい!」



 ノアが〝黒鷲〟と呼んだ隣に控えていた〝金狼〟が叫ぶと、またバタバタと人が散っていく。



「ハロルド、アンタが戦闘態勢にならなくていい。エルも大丈夫だから。」



 やんわりと言えば、警戒は解かないまでも殺伐としたモノは失くす。



「俺らなんかより、相手にしなきゃならない奴らがいるんじゃないの?他にいるよね、2人。」



「気付いておられましたか。」



「ついさっき偶然にな。そっちが本命だろ?お前らがわざわざコッチに来なくていいだろ。まあ、移動手段を考えなくて済むから丁度いいんだけど。ちょい説明するから待っててくれる?」



 黒髪の男が頷いたのを確認し、ノアはハロルドとエリンに向き直った。



「エル、腕の痛みは?」



「へい、き。」



「後で治そう。」



 ノアはエリンの頭を撫でた。



「そんでもって、ハロルド。あれら、黒い堅物の方が〝黒鷲〟のユーリ。隣のが〝金狼〟のガイ。俺が使おうとしていた伝手とは別なんだけど、こいつらなら、事情は汲んでもらえる。」



「分かった、ノアの判断に任せるよ。」



「ノア。その人達は、安全?」



「ユーリもガイも超安全安心物件だから、エルは心配しなくていい。ガイ、診てやってくれる?」



「へいへい。」



 エリンに歩み寄ったガイはエリンの手を取ると、もう片方の手を当てて光を放つ。



(あったかい気がする。)



 ジンワリと温度を感じながら、エリンは消えていく痕を眺めていた。



「久々に姿を見せたと思ったら不法侵入ですか。相変わらず自由ですねー、アンタ。今って、イスキオスの侯爵家だかなんだかに身を置いてるんじゃなかったでしたっけ?うん……侯爵家?」



 腕の痕を治癒し終えると、ガイは目の前にいるエリンと、隣に立つハロルドを見比べた。



「マジで?」



「マジだよ。出来れば、保護してもらいたい。兄さんには会うつもりでいたんだ。俺達を飛ばした魔法陣の先がジェノヴァだった理由を探りたいしな。」



「会うのか?」



「会うしかねえだろ……ったく。こちとら、国を出てからもう片手以上経ったってのに、こんな戻り方させられて意味分からねぇ。つうわけで悪いが、先のクソ軍人の無礼の詫びも含めて早急に動いてもらうぜ、ユーリ。」



 ノアが片眉を上げて笑えば、ユーリは肩を竦めて息を吐いた。



「貴方様が望むなら。」



「だから、その言葉遣いは止めろって言ってんだろうが。どうせカルカロフで来てんだろ?」



「ええ。あちらの2人も確保出来たようですから、至急移動しましょう。私は、あちらの手配に回ります。エドワード様達には、ガイをつかせますので。」



「お前……喋り方止める気ある?」



「ありませんね。それじゃあ、ガイ。エドワード様達をカルカロフまで案内を。」



「はいよ。そんじゃあ、俺についてこようか?ハロルドさんに、エリン嬢ちゃん。」



 名前を呼ばれた兄妹は互いに顔を見合わせて目を瞬き、歩き出したガイについていくように歩く。



 少し斜め前を歩くノアは、ガシガシと頭を掻きながら「どうするかなー」と呟いていた。

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