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016 あれから2年



 クロノス侯爵家の日常は、様変わりした。



 ハロルドは城勤めを変わらずしており、恋人希望や婚約を求めて沢山のアプローチを受けるが、全て断り続けて独身を貫いている為、家族の中ではシルヴィウスと共に殆ど変化していない。



 ユージーンは、魔法の専門性を磨くことと大海を知らなければ影の役目に影響が出るからという理由で、サルゴン帝国の魔法学院に編入して日々研鑽に励んでいる。



 シャルロッテとの婚約も整えてからの出国で、マメに連絡を取り合いながら、良好な関係を築いている。



 クリスティは学院を卒業すると同時にルートヴィヒの愛を受け入れ、マスタング公爵家に嫁いでいった。



 カロス商会が取り扱う絹製品と蜂蜜を使った美容品の売り上げは好調で、身分に関わらず愛されるブランドを見事に作り上げており、現在妊娠中の為、子供服&玩具のブランド立ち上げに余念が無い。



 レナードとレニーは、まだ初等教育中である為、母ジェニファーとアステリ領内にいる。



 さて、エリンは。



 人との付き合いが苦手なことに拍車がかかり、王都にある邸の自室から一歩も出なくなった。



 魔法具を作ることも無くなり、側付きのサリーを外し、全てを一人でこなすようになって、外とのやり取りを遮断した。



 死にたい願望には至らないものの、食事はハロルドが運んできてくれるのを朝晩と共にとって、ユージーンから届く手紙を読むだけの生活を送っていたのだ。



 いつ頃からか。



 イザベラと男達の性行為が夢を支配して脳を荒らし始め、眠ってもグッショリと汗をかいて目が覚めるようになっていた。



 外に出ようとすると目眩がして気持ち悪くなり、視界がグルンと反転した。



 前世で診断されたことのあるメニエール病であると気付くのは早く、深窓の令嬢と化してしまったのである。



(こんなに弱くなかった筈なのに。)



 ノアにも離れてもらおうとしたが「絶対嫌だ」と拒否された為、そのまま付き従ってくれている。



 ハロルドが働きに出ている昼間は、ノアが常に部屋で寛いでいた。



 症状が出始めた頃、拒絶反応が出て吐き続けたエリンの側に居続けたノアは、エリンが癇癪を起こして過呼吸を起こしても決して側を離れなかった。



 今は、拒絶反応も過呼吸も起きなくなり、ただ静かに同じ空間で時を刻んでいる。



 引きこもり状態にあっても、エリンは元々外向きな生活をしていなかった為、世間が気にすることは無かったのだが、ここにきて1つの問題と直面したのである。



 それは、学院への入学だ。



 来週には学院が始まるというのに、エリンの症状は何一つ改善しない。



「やはり、諦めざるを得ないか。」



「はい。」



 シルヴィウスは、執務室でハロルドと膝を突き合わせていた。



「エルは何か話してくれたかい?」



「いいえ。声も……久しく聞けていません。食事は摂ってくれますが量も少ないです。」



「何が、あの子を苦しめているのか。」



 肘をついて額に手を当てたシルヴィウスは、深く溜め息をついた。



「エルは、何かに魘されては大量の汗をかいて目を覚まします。俺が共に眠る事を了解してくれてはいますが、それから先は全く教えてくれません。」



「全てはエルの心の中、か。」



「催眠療法も試してみましたが、拒絶反応が酷かったですから、俺はもう反対ですね。」



「呪詛の可能性は?」



「シリウス叔父が否定されました。僅かな痕跡すらも拾えないそうです。」



「そうか。」



「部屋の扉に近づくだけで身体中が震え、呼吸困難に陥る。何があったか聞いても、震えるだけで教えてくれない。」



「ハル。今、エルの側にはノアがついているのか?」



「ええ……エルに自分から離れるように言われたのが気に入らないと言って、意地でも側にいると言って。有難い話です。」



「ジーンとセシルの色に染まってしまったサリーとは、違うからね。」



 変わり果てたエリンの元側付きを思い出し、シルヴィウスは嘆息して肩を竦めると、ソファに背をもたせた。



 ハロルドもまた苦笑を零すが、立ち上がる。



「エルの所に行ってきます。」



「ああ、頼んだよ。」



 憔悴した姿を見せるのは、自分達の部屋中でだけと決めている。



 一歩外へ出れば、足元を掬われないように虚勢を張るべく、胸を張って前を向く。



 ハロルドがエリンの部屋に入ると、エリンはベッドに仰向けで寝ており、ノアが傍らの椅子に腰掛けていた。



「寝てる?」



「今のところは。」



「そうか。」



 椅子から立ちあがろうとしたノアを軽く手で制したハロルドは、隣まで歩み寄るとしゃがんでエリンの手を取る。



 優しく摩れば、少しだけ顔の表情が緩んだように見えた。



「昼間はどうだった?」



「なんも変わんねぇよ。眠れなくなったら目を覚まして、ボーっとして、動かない。身体を起こしてスープは飲んだけど、他は食べなかった。」



「飲んだならよかった。」



「うん……そうだな。エルが何に苦しんでるのか、教えてくれれば早いけど。最初の頃に逆戻りするのは避けたいから。」



 そう言ってノアがエリンの額に触れた瞬間。



 円形の魔法陣がエリンの身体を中心に広がりを見せ、青白い光を放つ。



「「!!?」」



 光が急激に強くなり、部屋の中を満たした次の瞬間。



 部屋の中にいた筈の3人の姿は、忽然と消えてしまったのだった。

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