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歪んだ感情は全て(Said:セシル)



 我が主は、シルヴィウス=クロノス侯爵の次男であるユージーン様です。



 高い魔力を有し、クロノス家の次代影として着々と準備をされ、日々精進なされております。



 ただ。



 大層優秀な我が主ではございますが、少々、いえ若干、多少、多々、いや、それはもう過分に精神が歪んでおられるのです。



 少し前の話に遡ります。



「ねえ、セシル。学院で淫乱な行為をしてる連中、始末した方が良くない?」

「はい?」

「どうせだから、全員去勢してやってさ。あれ、女は去勢って言わないんだよね。表現としては取り除いたら良いで正しいのかな。医療機関に検体として根回しようか。」

「御当主様の怒りを買いますよ。」

「そうか?僕としては、奉仕とやらも出来ないように四肢バラバラにしてやって、口を縫ってしまえばとおもったんだが。」



 笑いながら言うことではありませんよね。



「あ、そうだ。学院内でサリーがウロチョロしてて目障りなんだよね。アレ、扱いは僕の可愛いエルがしてるけど、躾はセシルがしてるんだっけ?」

「今のところ、私の管轄ではありません。」

「じゃあ、ノアか。んー、ノアには鈴をつけれないけど、アレなら鈴つけれるか。うん、つけてしまおう。セシル、せっかくの新しい玩具だ。躾する部屋、綺麗にしておいて。」

「承知致しました。」

「雌の躾なんて久しぶりだな。セシル、面白そうな物も揃えておけ。」



 愉しそうに笑われていましたが、目は全く違う感情しかありませんでした。



 我が主は、一に家、二に兄ハロルド様、そして、三に妹エリン様の為にしか動かれない方です。



 御二方に何か起これば、間違いなく狂気に満ちた行動をなされることでしょう。



 現に。



 私は今、主であるユージーン様の命を受け、涎ダラダラの焦点が合わなくなったサリーを躾部屋に運んだりもしているのですから。



 ガチャガチャと手首と足首に枷をつけ、首にもつければ完成します。



 鉄で出来た磔台は魔法具を起動させて横向きから縦向きへと動き、ユージーン様の発動させた棘の蔦が玩具をギュルギュルと締め付けていきました。



 私が躾なくとも、勝手に主の魔法が躾けてくれるのです、便利でしょう?



 とはいえ、何もしないと私も罰を受けてしまいますので少しばかり参加致します。



 主には「玩具に触れて穢れることは赦さない」と厳命されておりますので、常に医療用の手袋を着用した上から白の手袋を着用しておりますれば、私が汚れる事なく様々な道具を使用して躾けることが可能になります。



 私まで変な趣味嗜好があると疑われてしまいそうですね。






 さて、そんな躾の甲斐もあり、玩具はエリン様の侍女として職務を全うする以外にも、我が主の命を受けて美人局として情報を取れるようにまでなりました。



「カスティーア男爵の遊び相手が、我がクロノス侯爵家の草だとは思わないだろう。」

「髪も瞳も肌の色も変えましたからね。顔も誤認できるように策を講じておりますし、足がつくことは無いでしょう。」

「で、豚から有益な話は?」

「娘が第二王子との性行為後にクリスティ様との婚約を破棄すると契りを得たのだと嬉しそうだったようですよ。玩具の為に借金をして、玩具が希望したシリマナイトキャッツアイで作ったネックレスをプレゼントしたようです。」



 私の何がいけなかったのか、主は私の周りにあった筈の空気を一気に奪いました。



「がっ……!?」

「久しぶりだねぇ、セシル。君らしくないミスだ。シリマナイトキャッツアイの石言葉は〝警告〟なんだよ?」

「!!!」

「僕の側近だからと怠けないでくれないか。」



 がくん、と膝が折れて這いつくばらせられた。



 重力が身体中にかけられる中、私の髪を無雑作に掴んだ主人の顔が絶対零度の笑みを携えたる。



 無くなった空気は戻り、必死に息をして酸素を回そうとしますが、追いつきません。



「お前がミスれば、即ち僕のミスだ。兄上に迷惑を掛ける気かい?」

「いえっ……決してそのようなっ、ぐぅっ?!」

「僕の可愛いエルが、クリス姉上なんかの願いを叶える為に心を砕いてるんだぞ?それを僕のミスが邪魔をするのか?うん?いつからセシルは僕より偉くなったんだ?ねえ、聞いてる?お前は、僕の、何?」

「下僕で……ござ…い……ま…す……っ!」

「うん。ならさぁ、解放してあげるから、早いとこ玩具を運んできなよ。早くしないと、アレの部屋が汚いシミだらけになるよ?」



 重力を元に戻した主に身体を起こされた私は、身なりを整えさせられました。



 すぐさま玩具の待機する使用人用の部屋に向かいましたが、既に仰向けに大の字に倒れており、ガクガクと小刻みに震え、至る所から液体が流れ出ている状態でした。


 私は、いつものように医療用の手袋と白手袋を着用して、毛布で玩具の身体を包み、荷物を担ぐようにして運んだのです。



 この玩具よりはマシなのです、私の扱いは。



 しかし、私は久しぶりに受けた我が主の躾に昂揚してしまいました。



 気持ちの昂りを抑えるまで、必死に玩具を躾け続けていると、我が主は私にお褒めの言葉を下さり、私を側付きのままにしてくれると仰りました。



「シャルロッテ=ラディース辺境伯令嬢を婚約者なられるんですか?」

「うん、そう。姉上の件が片付いたからね。」

「おめでとうございます。」

「エルにも祝ってもらえたよ。」

「それは良かったですね。」

「それでさ、セシル。シャルロッテ嬢は会ったこともない僕との婚約なのに、僕が手紙に添えた一文を見て即決したそうだよ。」

「一文、でございますか?」



 私が問いかけると、我が主はハロルド様やエル様にしか向けられない笑みを浮かべられました。



「『僕は、ハロルドという光の陰として、エリンを共に守ってくれる君が欲しい』とね。」



 先にも申し上げましたが、我が主は過分に精神が歪んでおられます。



 しかしながら。



 シャルロッテ様は、我が主の心にハロルド様やエリン様と同じ存在になって頂けそうです。



 ならば、私めは貴方様の影としての宿命を共にしていけるよう、二度と慢心せずに研鑽を重ねてまいりましょう。



 我が主ユージーン様だけに、このセシルは命を捧げます。

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