見える色の行末は(Said:シャル)
私の名は、シャルロッテ=ラディース。
イスキオス王国の最南端の領を治めるブランデンブルク辺境伯は、私の父。
兄のフィリップは、父と同じ軍部に所属。
ふむ、疲れた。
兎に角、私は人付き合いが苦手で、いろんな色が入り混じる王都には馴染めず、領地で暮らす。
大体のものは揃うし、王都の喧騒さが無い我が領内で暮らすのが一番だ。
騎馬が盛んな領であるため、馬にに乗って草原わ駆け回っているのが、私の性に合っている。
「シャル。今度の茶会、頑張ろうな?」
「嫌だ。」
「流石に王妃主催の招待状がきちまったんだから、逃げられないだろ?」
「病で倒れる。」
「シャールー……それはダメだぞ。」
誰が行きたいと言うものか。
第三王子の嫁候補なぞ、私が興味ある訳ないじゃないか。
只でさえ、王都は色が多すぎるのに。
集まるだろう連中の私利私欲な感情の色などに当てられたら、私は狂ってしまう。
丘の上から見える海が好きで座っていたのに、気分が悪くなってきた。
ふと、立っていた兄が隣に座る気配がした。
「茶会に出たら、シャルが気にいるだろう色を持つ2人に会わせてやる。」
「いるものか、そんなの。」
「兄貴の言葉が信じられないか?シャル、俺が持つ今の色を見ろ。嘘を言ってるように映ってる?」
「フィル兄が酷い色していたら、フィル兄を殺して私も死ぬ。」
「だーかーらぁ、そんな物騒ことを言わない!シャルが望む色を俺は一緒に見てやれないけど、お前が望まない色だったなら諦める。でも、きっと気にいると思うぞ?」
なんなんだ、その無駄な自信。
仕方ない。
フィル兄が持つ色がキラキラしてるから、それに乗ってやる。
そして、茶会の日。
「ハロルド。」
「おー、フィリップ。ラディース卿がエスコートしない代わりか?」
「親父なら御前会議に出てるよ。」
へぇ、面白い。
フィル兄が私に会わせたいと言っていた意味が理解出来た瞬間だった。
だから。
フィル兄がエリン嬢と一緒にいるように言ってきた時、「了解した」と即答した。
会場の端に並び、沈黙の時間は続いても苦にならなかったが、なんとなく気になったことを聞いてみることにした。
色の変化は起きるかな、そう思って。
「食べないのか?」
「必然性が無いから。」
「そうか。」
「貴女こそ食べないの?」
「シャルで良い。」
「なら、私もエルって呼んで。」
「分かった。」
「で、食べないの?」
「エルと同じだ。」
「そっか。」
色は変わらなかった。
でも。
なぜか、エルの放つ言葉に色が付いた気がした。
フィル兄。
面白い子を教えてくれて、ありがとう。
小さな感謝を覚えた数日後。
父の部屋に呼び出された私は、聞かされた内容に驚くしかなかった。
「私がクロノス侯爵家との婚約?」
「茶会で対面したのは、嫡男のハロルドだったと聞いたが、間違い無いな?フィル。」
「あ、あぁ。ハロルドは同級だし、何より親父だってアイツの事は知ってるだろ。」
「無論だ。婚約を次男坊のユージーンもあった記憶はあるが、アレは文官肌でも、武官肌でもない。シルヴィウスの子でありながらも、アレの属性はシリウス寄りで、資質はシリウスよりも厄介だ。」
「凄いのに目をつけられた?」
「シルヴィウスからは、即決は不要と言われたよ。クリスティ嬢の問題が片付くまでは待つ、と。」
父と兄が、何やら小難しい話をしている。
私は待たされた。
エルの兄であるというユージーンは、どんな色を持つんだろうか。
茶会で出会ったハロルドという兄の友人が持っていたような暖かい色をしているんだろうか。
話がひと段落したのか、父が一通の封筒を差し出してきた。
宛先は私、送り主はユージーン。
ペーパーナイフを借り受けて、一枚の折られた紙を開いた私は、書かれた一文だけの文字に魅せられた。
〝僕はハロルドという光の陰として、エリンを共に守ってくれる君が欲しい〟
面白いじゃないか。
文字に込められた色に、ゾクリとした背筋。
自然と口角が上がる。
「婚約を受けて良いよ。」
「「シャル?!」」
「他の男は要らない。父様、フィル兄。ユージーンという男に、時が来たらば渡りをつけて。」
「ま、シャルの望むままが一番だな。」
「うぇえぇぇ。ハロルドと義兄弟になんの?友人が義兄弟に?なんの冗談だよ。」
ねぇ、エル。
君が望む『程よい距離』はどれくらいかな。
早く問題とやらが解決するといい。
私はゾクゾクと興奮させられた手紙を封筒に戻して、そっと口元に当てて微笑んだ。




