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013 当主と光と陰と

 


 録音録画した3人分のデータを編集し終えた翌日の夕刻。



「兄様、お帰りなさい!」



 仕事を終えて帰宅したハロルドを見つけて、エリンは駆け寄る。



「ただいま、エル。悪かったね、仕事が押してしまったから約束していた時間よりも遅くなった。」



「ううん、仕事なら仕方ないもの。私がとやかく文句を言える立場にないよ。それ言い出したら只の迷惑になっちゃう。」



 エリンの言葉を聞いて、ハロルドは頭を撫でる。



「クリスはもう、母上達と出掛けた?」



「うん。レニーとレスがお爺様達に会えて嬉しすぎてはしゃいでいるから、夜は此方へ戻らないとの連絡を先ほどあったと聞いてる。そのつもりでトランクに荷物詰めてたくせにね。」



 どこか安堵の表情と侮蔑を含ませたエリンを見て苦笑を溢したハロルドは、荷物を執事に預ける。



 エリンとハロルドが並んで廊下を歩いていると、ハロルドの部屋に入る扉の前で壁にもたれているユージーンが視界に入ってきた。



 2人が近づいてくると、ユージーンは持たせていた背を離す。



「兄上、お帰り。」



「ただいま、ジーン。待ったか?」



「ご心配には及びません、丁度来たところですよ。僕みたいな仏頂面が迎えに出るより、笑顔のエルが迎えた方が良いでしょう?」



「俺は、ジーンも来てくれたら嬉しいよ。」



「そうですか。」



 ハロルドが笑顔で言えば、ユージーンまた少しだけ口角を緩める。



「それじゃ、行こうか。」



「え?」



 ハロルドの部屋に入るものだとばかり思っていたエリンは、首を傾げる。



 視線を向けたユージーンが首を横に振り、益々分からなくなったエリンは、ハロルドを見やった。



 困り顔のエリンに気付いたハロルドは、エリンの頭にポンと手を置いたあと、親指と顎で廊下の先を促した。



 その先は、クロノス家当主の執務室しかない。



「ハル兄様、まさか?」



「父上には了承を頂いてるよ。大丈夫、俺とジーンが一緒にいるから。エルが頑張ってくれたものを間接的に父上に対して報告したくないんだ。そうだろ、ジーン?」



「そうですね。」



 兄2人に連れられて、エリンは父親であるクロノス家当主・シルヴィウスの執務室に向かう。



 コンコンー



「父上、ハロルドです。ジーンとエルも共に連れて参りました。」



「あぁ、入ってくれ。」



 了承の返事を受けたハロルドは執務室が執務室の扉を開ける。



 3人は裕に座れるだろうダークブラウンの革張りのソファに座っていたシルヴィウスが、向かい側のソファを指し示す。



 クロノス家特有のオレンジ色の髪を後ろに流したシルヴィウスは、46歳の美丈夫である。



「時間が惜しい。クリスの意向は既に確認しているから、我々が勝つための戦略を練ろうか?」



 ハロルドが奥に座ってエリンを手招きし、真ん中に座らせてから、ユージーンが隣に座る。



「カスティーア男爵家の財政状況は赤字です。領地も僅かしか持たず、商会の経営も無い。当主のサグラハスは刑部で得た情報を流し、賭け事に遊興して借金を作り、税を引き上げていました。」



「サグラハスの妻ミネルバは、不特定多数が出入りするバーに赴き、複数の男性と性行為をしているのを確認。その中には既婚者もいるようで、これがリストになります。行為をした日付と場所も押さえれてますよ。」



 ユージーンは、空間からドサッと書類をテーブルに出した。



「先程、兄上が報告したカスティーア男爵家の経済状況も全て出しています。執事やメイドの数も最低限ですね。」



「夜会に何度か見ているが、その度に婦人のドレスは違っていた記憶だな。特段……可笑しくもなかったと思うが?ドレスについては?」



「ピンクの付箋部分を確認して下さい。婦人のドレスは、全てウィリアム王子が贔屓にしている商会が手配しています。因みに、イザベラとかいうお花畑のドレスや宝飾品等もですね。王族維持費として随分な額が王子に割り振られていますが、姉上に使われた記録はありませんでした。」



「1度も?」



 ピタリと資料を捲っていた手を止め、額に青筋が浮かぶ。



「ありませんでした。そもそも、贈り物自体届いた事が無いですね。」



「誕生日に届いていた花は?」



「王家からであって、王子個人の物はありません。父上もご存知だったでしょう?」



「王子妃教育で登城していて持ち帰ってきていた花束は?」



 ハロルドは首を横に振り、ユージーンもまた同じ動作をする。



 シルヴィウスの視線がエリンに向けられ、エリンは左右にいる兄2人を見やった。



 エリンは、クリスティ本人の口から『王子妃教育をして頂いている講師の方達から頂いたの』と、唯一聞聞かされていたのだ。



 ハロルドが頷いたのを確認して、コクリと喉を鳴らしながらも、エリンは父親を見やる。



「クリス姉様は『講師の方達から頂いた』と仰られていて、花束をご自身の部屋に飾られることはありませんでした。使用人の休憩室に活けるよう、命ぜられているところを確認しています。」



「本当に馬鹿なのだな…」



 深く長めの息を吐いたシルヴィウスは、資料をテーブルに放る。



「それじゃあ、エル。纏めてくれた物を見せてくれるかい?」



 ドキリと心臓が拍を打つが、エリンは小型の投影機を服のポケットから取り出すと、テーブルに置いた。



(動画ってほんと証拠能力エグいからなぁ。)



 少し息を吐いたエリンがスイッチを押すと、サイズを調整し投影された映像は生々しい音声と共に次々と場面が変わっていきながら映し出されていく。



「……………!」



 怒りに震え、ビリビリとした空気を出し始めたシルヴィウスの激昂振りに身震いしたエリンは、思わず右隣に座るハロルドの袖を掴んだ。



 自身の袖を掴んだエリンの手が震えていることに気付いたハロルドは、視線を映像から離すことはないものの、エリンに寄り添うように間を詰めて、そっと左手をエリンの右膝の上に乗せてゆっくりと摩ってやると、そのまま置きすえた。



 左隣にいたユージーンも開けていた間を詰めてエリンの背中に手を回す。



 クリスティやユージーンが。



 シエラが、ノアが。



 それぞれ集めた映像が怒涛のように流れていく。



 行為を諌めようとして思い切り罵られ、平手打ちを喰らう姿や、エスコートしなくてはならない筈の行事を無視した挙句にダンスで4曲以上踊っているものまで。



 非常識な行為が続き、最後は女子寮での一幕だ。



 全ての映像を見終わり、シルヴィウスは投影機を掴み取る。



「うん……これなら確実にカスティーア男爵家を潰すことが出来るね。いっそのことなら、私自ら制裁に出ても良いが、王の采配に任せようか。エル、この映像記録は複製したもので合ってるね?」



「はい。」



「証拠を原本のまま用いないことは常套手段、良い判断だ。至急、セルモーティタ公爵に面会の打診をすることにしよう。」



 シルヴィウスは、手元のベルを鳴らして執事長を呼び、用件を伝える。



 執事長と入れ替わりに入ってきた料理長は、夕食代わりの軽食として、サンドイッチとスープをテーブルに並べた。



 飲み物のカトラリーワゴンを置いて、部屋を出ていく。



「素早く済ませてしまおう。」



 そう言ってサンドイッチに手を伸ばしたシルヴィウスは、パクパクと食していく。



 ハロルドとユージーンも右に倣えと言わんばかりに従うが、その様子をぼーぉっと音が付くくらいの表情のままでエリンは眺めていた。



 右手はハロルドに握られて、背中にはユージーンの手が回されたまま。



 本当であれば、この場にエリン自身は席を共にする予定には無かった為、ボーっとしながらも脳内はフル回転している。



 エリンが今世で自由に生きていくために、今ここでの一手を間違うわけにはいかないのだから。

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