012 精査
図書室、本棚と本棚の間。
『セイロン様、どうしたの?』
靴下を脱がされていったピンク頭は、膝をつく黒髪の眼鏡をかけた男の顔前に足の指先を差し出す。
『んっふ、気持ち良いことしましょう?』
眼鏡を外した男が足の指先を舐めるべく舌を出して踵に手を当てて行為に及んでいく。
『セイロン様の恍惚としたお顔…好きですわ。シエラ様にも見せられますの?イザベラ、嫉妬しそうですわ。』
『僕が心からお慕いするのは、イザベラ嬢だけですよ。』
『嬉しいっ!』
教室。
『さーてとぉ。ビリビリに破りまして。』
バサァ、と机回りに紙片をバラ撒いたピンク頭は悲鳴をあげる。
『どうした!?イザベラ嬢!!』
駆けつけたのは騎士団長の息子であり、ピンク頭は涙を浮かべながら男に抱きついた。
『クリスティ様が急に教科書を破り捨てて走り去って行ったのぉ…』
生徒会室。
『やぁん……他の役員来たら困っちゃう!』
窓に両手をついたピンク頭の背後に混ざって睦み合う。
『ちゃんと感じておくれよ、イザベラ。』
『勿論ですぅ!このまま後ろからウィル様に犯されたいのぉっ!』
階段。
『よーし、歩いて行ったわね?』
クリスティとシエラが去ったばかりの階段を半分以上駆け降りて、悲鳴を上げながらヒョイと飛び降りて転げ落ちるフリをして廊下に寝転がる。
『大丈夫か?』
駆け寄ったのは宰相の息子。
『急に背中を誰かに押されて…』
『なっ!?』
『オレンジ色の髪が見えましたぁ。ナダル様……イザベラ怖いですぅ。』
映像を止めたエリンは眉間に皺を寄せて、深く溜め息を吐いた。
ノアは前に座る小さなエリンの身体を自分に倒させると、目を覆うようにして左手を被せる。
「お嬢、少し休もう?」
「駄目よ……まだ見ていないデータがあるもの。」
「お嬢。」
「私なら大丈夫。ノア、私に付き合ってねと言ったはずよ?」
ノアは翳していた右手を下ろした。
劇場の個室。
『ウィル様ぁ……演劇を見ないのですかぁ?』
『私はイザベラの身体を通して観ているのだから、特に問題ないよ。』
『ふふっ、嬉しいっ。あん、サイラス様が下に潜っちゃった!』
『王族の個室は僕達3人しかいない。サイラスにはイザベラの身体を下から観劇してもらおう。』
『お二人同時に観劇して貰えるなんて、イザベラは幸せですぅ!!』
逢引き宿のベッド。
『イザベラはウィル様の奥様になりたいのぉ!』
『あぁ。』
肌がぶつかり合い、卑猥な音が響く。
『意地の悪いクリスティ様を早く断罪して、婚約なんて破棄してぇっ!』
『うむ、そうしよう。イザベラ!!』
『あぁんっ、嬉しいっ!』
寮の部屋。
『女子寮にまで来てくれるなんて、感激ですぅ!』
『あぁ、イザベラ。君が婚約破棄をしたいと言っていただろう?どうせなら、破棄してクリスティ=クロノスを断罪して、そのまま君との新たな婚約を発表しようと思うんだ。』
『本当ですかぁ!?』
ベッドに寝転がった王子の上に、ピンク頭が跨って服を脱がしていく。
『クリスティは1度も僕に身体を赦さなかった。』
『ウィル様との愛、物凄ぉく気持ち良いのに、クリスティ様と身体を交わらせなかったんですかぁ?』
シャツが開かれた後、2人はキスをかわす。
『僕はイザベラと結ばれたい。君が僕に、真実の愛を教えてくれたからね?』
『ふふっ……愛していますわ、ウィル様。』
全ての映像を見終えたエリンは、グッタリと背をノアにもたせた。
「見事に全部クズすぎる。」
窓を見れば、陽は落ちて橙から徐々に闇へと入り混じる時間帯になっていることに気付く。
エリンは身体を起こして立ち上がると、真鍮のポットに水を入れて湯を沸かす。
傍らにきたノアが、カップを用意しようとしたのを止めに入り、身体を抱き上げて移動し、ソファに座らせた。
「俺が淹れる。」
「ん…」
力なく笑ったエリンを見て、ノアはエリンの髪をグチャグチャに掻き混ぜてしまう。
「ちょっ!?」
「無理して笑わない。お嬢、長めに休憩しよう。飯だって腹に入れてねぇんだぞ。甘めのココアでも淹れるから、ちゃんと座ってな?」
ノアは返事を聞かず、ポットの所に戻る。
手際良くティーセットを準備し、軽く摘める菓子も用意して、エリンの隣に腰を下ろす。
ピリ、とキャラメルの袋を破ると、ノアは中身を出して摘みとり、エリンの唇に軽く当てて笑みを浮かべる。
「ほら、お嬢。休憩しよう?」
肩を竦めて嘆息したエリンは、口を開けてキャラメルを受け入れ、ソファの背にゆったりと体重を預けた。
目尻を下げて頬を緩め、ノアもキャラメルを自身の口内に放り込む。
「あっま。」
「クリス姉様の自信作だもの。疲れた時の糖分補給には最適ね。美味しい。」
「そんなもんか?やっぱり、お嬢も女の子だな。」
「どうだか。」
湯気が立つココアを飲んで、エリンはほぅと息をついた。
「後は時系列に並び替えて編集して、お父様に報告出来るよう準備しないとね。」
「ユージーンには?」
「ジーン兄様には勿論するけれど、ハル兄様と同時にしようって考えてる。お父様への報告と、その後の方針を固めるのは分不相応だから。」
「お嬢?」
「ノアが私に言ったんだからね。『デビュタントを終えてない』私は、『十分子供』なんだって。」
「悪かったよ、お嬢。」
困った良いわにノアが言えば、張り詰めていた空気を一気に緩め、11歳の子供は嬉しそうに笑ったのだった。




