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010 ユースフル伯爵家



「養蚕業と養蜂業、だったよね?」



「僕の方でも確認してみたけれど、年間の収支は黒字だし、下手な付き合いもしていない。北のパランクス公爵家から引き離せるかは、伯爵家次第じゃないかな。」



 エリンは、自室のソファに並ぶようにして座ったユージーンと何枚もの資料を睨めっこしている。



 部屋の壁には、サリーとユージーンの側付きであるセシルが控えていた。



「ユースフル伯爵家のティーヴァ領は、アステリからアエーラス公爵家の統括するダウナント地区に向かう途中にある。」



「街道を整備すれば、輸送のリスクが減る?」



「うん。」



 目尻を下げて緩やかな笑みを浮かべたユージーンは、エリンの頭を撫でた。



 くすぐったくなるような指使いに、エリンもまた笑みを浮かべる。



「明日の午前に会うんだろう?」



「クリス姉様からは、録画録画機能の魔法具をと希望されてる。一応はと髪留めタイプの物を用意してるけど、お渡しするだけの価値があるかの判断を私単独では出来ないから。ジーン兄様に確認しておこうと思って話してるの。」



「いいよ、渡して。」



「いいの?」



 エリンは首を傾ける。



「不義が有れば、僕が全部潰しにかかればいいだけだからね。エルが気にすることは無いよ。本当は姉上が自分でやらなきゃいけないところだけど、エルの言うとおり、姉上は無理だからさ。その辺りの自己判断ができないって迷惑だよね。」



「クリス姉様には、言えない話だね。」



「エルは気にしちゃダメだよ。」



 頭にあった右手がスルスルとエリンの左頬に落ちてくる。



「ジーン兄様?」



「エルが背負う必要はないんだ。本来なら、僕の領分なんだから。」



 すりすりと親指の腹で頬を撫でれば、エリンの肌の体温が上がり、赤みをさす。



 瞼が少しずつ落ちてくる。



 ほんわかと上がる体温と共に眠たくなってきたエリンは、身体をユージーンに預ける。



「ん…」



「ほら、昨日から茶会が終わって調べ物ばかりだったんだろ?明日のこともあるんだから、エルは寝るといい。」



「ジーン、兄様……」



「おやすみ、エル。」



 身体を抱き止めらて左手で頭を更に撫でられたエリンは、そのまま瞼を閉じて意識を飛ばした。



 スッと目を細めたユージーンは、サリーを睨み据えて静かに言の葉を発し、サリーの身体の自由を奪う。



 棘のある蔦模様がジワリと肌に浮かび上がり、赤紫の光を帯びて、サリーの身体中に痛みを与えていく。



 ガクガクと足を震わせたサリーは膝を床につき、ひゅうひゅうと声にならない息を荒げ、汗を噴き出して目から涙が零れ落ちる。



 尻もちをつき、天井を見上げて涎を垂らし、目の焦点が合わなくなり始めた。



 エリンを横抱きにしたユージーンは、立ち上がるとセシルを見やる。



「それを僕の執務室へ連れて行け。それの躾を先にしていろ、いいな?」



「はっ。」



 セシルはサリーの身体を肩に担ぎ上げ、エリンの部屋から速やかに出て行く。



「ダメじゃないか、エル。せっかく下僕たる侍女がいるんだから、相応には仕事をさせなきゃ。調べ物、自分でしたんだろう?ちゃんと身体を休めなきゃエルが壊れてしまう。」



 ゆっくりと歩き、エリンをベッドへ寝かせると布団を掛けた。



「エルは、決して僕のところに来ちゃ駄目なんだ。姉上のせいで余計な負担を掛けてしまって悪いけれど、エルのことを頼んだよ?ねぇ、ノア。」



 名を呼ばれたノアは姿を現した。



「お嬢の事は引き受けた。しかし、自分がいない間に、サリーに随分なモノを掛けたもんだな。」



 ユージーンは振り返り、クスと笑みを溢す。



「君がちゃんと躾けておかないからだろう?僕の調教は、あくまでエルが壊れないようにする為だ。僕の手を煩わせないようにするのが、君の役目じゃなかったかい?そのつもりで、あの時に僕は君をエルのところに任せたはずだったんだけどなぁ。」



「悪かったよ。」



「君は、アレを自由にさせ過ぎた。僕は、君には勝てないって理解してるつもりだからさ。ちゃんとエルを見てやって。」



「あぁ。」



「頼んだよ。さぁて、今日は何して遊ぼうか。壊さないようにしないとな?」



 ヒラヒラと手を振りながら、ユージーンはエリンの部屋を出て行った。



 嘆息したノアは、頭を掻きつつエリンの眠るベッドの傍らに椅子を置いて腰を下ろした。



「あの野郎、俺に勝てないって本気か?クロノスの次期光陰とやりあえる自信なんざ無ぇよ……ったく。」



 ノアは、首に付けられた輪に触れる。



(明日は第二王子とクリスティの定例茶会だったらしいが、それを取り止めての男爵令嬢との観劇。お嬢が望む映像は撮れるだろうが、それを見たお嬢の負担をユージーンの奴がどう取るか。)



 ふぅ、と息を吐き、ノアは静かに寝息を立てるエリンを眺めて目尻を下げる。



「一緒に見て、宥めるのがベターかな。」





 翌日。



 スッキリと朝の目覚めをしたエリンは、控えていたサリーが用意した服に着替えた。



 そして。



 クリスティに紹介されたシエラ=ユースフル伯爵令嬢に録音録画機能付きの髪留めを渡して、用途の説明をする。



「エリン様。用途が終わりましたら、貴女様に髪留めを必ずお返し致します。」



「ご健勝を祈っております。」



「私の方こそ、クリスティ様からエリン様をご紹介頂かなければ戦えうる力を持ち得ませんでした。この御恩は生涯忘れません。」



 姿勢正しく、両手を臍の上で重ねる立ち姿は凛としていた。

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