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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
1章 王国幼少期編
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エデン頑張る Ⅲ

「私、絶対にエデンはこういうの似合うと思うの!」


 段々と冬の寒さが近づいてくる秋の終わりごろ。仕事を求めてアンを探しに廊下を歩いていると、俺を探していたらしいグローリアが出会い頭に素っ頓狂な事を言いだした。


 辺境での冬の生活は恐ろしく大変だと聞かされている。道が雪に閉ざされ、植物も育たなければ狩りをする為の獲物もいない。中央と違って商店で買い物をするには雪に埋まった道を通って街へと行かなければならないが、冬の間は馬車を動かす事でさえ難しい。最終手段としてエドワードが道を魔法で焼きながら進むという手段があるが、それも最終手段なのは魔力が持たないからだ。だから秋は色々と買い込んで備蓄したりと忙しい時期だったりする。


 ただそれだけではなく、秋には収穫と豊穣を祝った収穫祭もある。街の方で盛大に祝う予定らしいので、冬によって道が閉ざされる前に俺達も参加する事になっている。


 その収穫祭の前に色々とやらなくちゃいけない事は多いのだが、今回からは俺もその仕事に盛り込まれている。ぶっちゃけた話、もう既に筋力だけなら俺の方がアンよりは上なのだ。無論、体力の方も俺の方が上だ。龍という種族はもうそれだけで人間のスペックを上回っている。スチュアートが年配である事を含め、これから肉体労働は基本的に俺が担当する事が期待されていた。その為、俺は基本的に動きやすいラフな格好を好んで着ている。


 大体の場合でジーンズとハーフスリーブのシャツという格好で邸内を過ごしている。鱗を隠さなくて良いから半袖とかで生活しやすいのだ、今は。龍という事をばらしてからはストレスフリーに生活できているし、気楽に楽しく日常を過ごさせて貰っている。


 とはいえそれで別に仕事が楽になるという訳ではない。


 冬に向けて俺に与えられた仕事は薪の準備や備蓄の整理等体力と筋力を必要とする男の仕事だ。でも丸太の調達や薪割りは鍛錬ついでにできるし、備蓄の整理もそんな難しくはない。正直に言えば邸内を掃除しているアンの方が大変なんじゃないか? とは良く思っている。そんな理由もあり秋というのは忙しい。朝から夜まで常に忙しいという訳じゃないが、冬になったらできない事はたくさんある。その事を含めて秋の内に終わらせたい事は腐る程あるのだが、


 そんな中で、このお嬢様が素っ頓狂な事を言いだした。


 グローリアの手の中にあるのはメイド服だ。


 ちなみにメイド服という文化は滅茶苦茶謎だ。何故なら元々メイド服と言う服装が中世には存在しなかったからだ。比較的近代に入り、女中と主人を見分ける為に何かしらの目印となる恰好をさせる為という名目でメイド服が生み出されたのだ。だから1500年頃に多少の科学をブレンドしたこの世界に於いて、メイド服の着用義務という概念は存在しない。ただし、メイド服自体は存在する。そしてこれをアンは着たり着ていなかったりする。というのもエドワードもエリシアも、特にアンにメイド服の着用を求めないし、メイド服よりも普段着で仕事をしている方が遥かに作業効率が良いからだ。


 だからアンもゲストを前にする時か、出かける時にしかメイド服を着用しない。俺もそういう経緯からこれまでメイド服の着用をした事はなかった。するつもりもない。だが明らかに俺のサイズのメイド服を手にしてグローリアはそれを見せつけていた。


「リア……それ、どこで手に入れた?」


「アンに頼んでこっそり作って貰ったのよ。私、絶対にエデンはこういうタイプの服が似合うと思うのよね……だから着よう!」


「えー」


 露骨に嫌だなあ、って顔を浮かべる。グローリアが握って見せているメイド服というのはロングスカートタイプのメイド服だ。詳しい種類に関しては流石に知識がないので解らないが、時折フリルをあしらった可愛いタイプで、袖も俺の事を考慮してから長くしてある。これなら手首まで隠す事が出来るだろう。


「首元はインナーで隠すとかすれば外でも着れるわよ!」


「着ないが?」


 ちなみに外出用に俺はインナーを持っている。白と黒の二種のインナーで、手首と首までを保護するタイプのインナーだ。用途は勿論、鱗を隠す事だ。注意しなければ隠れている鱗を見つけるのは難しいが、それでも街に行った時に見られるかもしれないというリスクを減らすのは良い事だ。いや、ぶっちゃけ鱗を見たところで龍……? ってなる人はかなり少ないが。鱗と角があるから龍だ! ってなるよりも、蜥蜴人のハーフか? って思うケースの方が遥かに多そうだ。それでも一応気を使って外に出たり客が来たりするときはインナー着用をしている。


 地味にブラと同じ素材でブラと同じ効果を持ったインナーなのだが、それを作成するあのタイラーって仕立屋は地味に凄いと思う。


 それはともあれ、グローリアはそんな俺の為にメイド服を用意してきたのだが。


「ふりふりとかひらひらとか俺の趣味じゃないんだけど」


「そんな事ないわ! 絶対にエデンに似合うから着よう! そしてこれで一日過ごして! 絶対に可愛いから!」


「今日のリアは押しが強いなぁ」


 その情熱はどこから来てるんだ?


「ほら! エデンこっちこっち!」


「あ、ちょっと、リア! あ、アンさん! 仕事をください!」


「行ってらっしゃいエデン。お嬢様のお世話が貴女の仕事ですよ」


「ガッデムシット」


 助けを求めて廊下に出て来たアンに助けを求めるが、秒で見捨てられた。おのれソフィーヤ! お前の陰謀か? 絶対に許さないぞ! という言いがかりを全力を投げつけているとグローリアに彼女の部屋へと連れ込まれた。無論、筋力は俺のが上だ。だから俺が拒否すればグローリアは俺を引っ張り込む事なんて絶対にできないだろうが、笑顔でなついてくるこの少女の事を俺は無下にできなかった。ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべ、快活に動き回り、そして俺を助けてくれた少女に対する恩と純粋な好意を裏切れない。


「あーあーあー」


 だから声を零しながらグローリアに部屋へと連れ込まれ、服を掴まれた。


「インナーは今回は良いから、着替えよ?」


「あぁ、もう、解ったよ。解ったってば」


 はあ、と溜息を吐く。こっちに来て八か月程度の時間が経過しているが、それでもまだに未だに自分の女体というものには慣れない。服を脱ぐとき、裸を見る時はちょっとしたドキドキを感じてしまう。自分の体なんだからいい加減に慣れておけよ、というのはド正論なのだが。それでも未成熟なこの体の肌を晒すのは背徳感がヤバイ。未だに現代日本人の感覚が抜けきれない身からすると悪い事をしている気分になるのだ。


 そもそもこれ、本当に俺の体か? と言われると割と首を傾げるし。


 俺と言う男の魂が宿らなければ実は別の魂が、本来の龍の子の人格があったんじゃないか? と思えるし。そう思うと誰か別人の体を好き勝手剥いているようで、背筋をぞくぞくとした感覚が走るものがある。


 もしかしてイケない性癖の扉を開いている可能性もある……?


「はーやーく! はーやーく!」


「押さない押さない。もー」


 仕方ないなあ、と零しながら長袖のシャツをまずは脱ぐ―――どうやら龍って生き物は熱さにも寒さにも結構強いらしく、普通であれば上からセーターとか着ないといけない時期であっても普通に薄着で活動が出来る。逆に言えば季節にとらわれずファッションを楽しめるという事なのだが、女性って寒くてもファッションの為にスカート履くってマジ? 命かけてるっしょ……。


 なんて事を思いながらシャツを脱いだらジーンズのベルトに手をかけて、ジーンズを脱ぐ。それをわくわくと言った様子でグローリアが見つめてくるから変な気分になる。止めろ、そんな純粋な目で俺を見ないでくれ。お兄さんの心は割と穢れてるんだわ。


「はい、どうぞ」


 そう言ってメイド服の本体部分を渡してくる。メイド服の構造はシンプルにワンピース部分と、エプロン部分で二重構造になっている。黒いベースのワンピースを着用したらその上からエプロンを装着するというのがワンピースタイプのメイド服の基本だ。一番構造が簡単で着用しやすい奴でもある。


 メイド服の背中を確認するとホックがあるので、そこからワンピースの背の部分を開けて行く。そこからワンピースを着用し、袖に両腕を通す。終わったら手を後ろに回そうとするが、先にグローリアが回り込んでくる。


「手伝うね」


「立場逆じゃないこれ?」


「いいのいいの。私、別にエデンに従者らしい従者でいて欲しいとは思わないから」


 どっちかと言うと姉妹みたいな関係に俺達はあるだろうなあ、とグローリアの言葉を聞いて思う。従者と主、その関係を公の場でさえしっかりしてくれれば特に普段の接し方や言葉遣い、態度というものは一切気にしないとエドワードとエリシアも言っている辺り、娘が対等に接する事の出来る相手が欲しかったのかもしれない。


 実際、グローリアには友達らしい友達がいない。此処から街へと行くには時間がかかるし、そうやって迄一緒に遊べる相手がいない。必然的にこれまでのグローリアは同世代の友人と言うものに欠落していた中で俺が現れたのだ……変にかしこまる方が困るだろう。


 という訳でグローリアの助けを得てワンピース部分の装着完了、カフスのボタンも閉め終わったらエプロンを受け取り、被ってから正面を整えている間にグローリアがエプロンの帯を締めて行く。完全にこの子ノリノリだなあ……なんて事を苦笑しつつ考えている間にメイド服の着用が完了した。終わった所でグローリアが正面へと回り込んでくる。


「わぁ……やっぱりエデンにはこういう服も凄い似合うよ! ほら、こっちこっち!」


「あぁ、もう」


 興奮した様子で手を引くグローリアが姿見の前まで俺の姿を引っ張ってくる。正直、スカートは足元がスースーするというかスカートの中があまり守られてない感じがしていて履いていると落ち着かないのだ。だからあんまりスカート姿は嫌なんだよなあ、と思いながら姿見の前に立たされた。


 そうやって確認する姿見には見事な美少女が立っている。


 白髪、黒いライン、黒い角、赤みが強く混じった琥珀の様な、夕焼けの様な色の瞳。肌の色も美しい白さをしていて、単純に顔のパーツだけを見ても絶世の美少女と言える要素が揃っている。少々目つきが鋭く見えるのは俺がメイド服をそこまで好んで着ていないからだろうか? 右前髪、左右とはアンバランスに伸びているこれも大分伸びて来た。左右で揃えるならこっちも切るべきなのだろうが非対称なこのアンバランスさが気に入って、切らずに伸ばしている。実はこれ、個人的なチャームポイントだと思っている。


 全体が白髪、というか肌の白さを含めて白と言う色が強い為、目の色と角と混じった黒の色が良く目立つ。だがここで黒がベースとなるメイド服を着用する事でより白さが目立つようになる。服装1つで印象が反転するのだからファッションというのは面白い。


「うーん、黙ってれば美少女!」


「黙ってなくてもエデンは綺麗だし可愛いと思うわ! だからもうちょっとおしゃれしない?」


 後ろから覗き込んでくるグローリアがヘアゴムを使って俺の髪を弄ってくる。後ろ髪はリクエストに従って実は伸ばしている。髪の毛が長い方が色々とヘアスタイルが試せて楽しいという要望に従った結果なのだが、俺としても長髪というのは男の時にはできなかった事だから挑戦するだけ挑戦している。長髪は代表的なフェミニズムの象徴でもあるから、女の子としては伸ばすのは正解なんじゃないかなあ、とは思っているが。


 姿見の自分の姿を見る限り、考えは正解だ。


 伸ばしている右横前髪と同じように今度はサイドテールをグローリアが作ってみるが、


「うーん、駄目ね。これだと前髪と横髪に干渉しちゃうわ……やっぱりサイド系は諦めた方が良いわね」


 サイドテールを諦めると今度は後ろ髪を弄り始めた。今度はハイポニーを試す様に髪を纏め、姿見に移る俺の姿を確認する。俺もちょっとだけサービス精神を込めてにこり、と柔らかな笑みを浮かべてみるが……これが中々破壊力が高い。


「やっぱりエデンは可愛くするのが似合うわよ!」


「そうかぁ? 俺カッコいい系のが好きだなぁ」


「えー、絶対可愛い系の方が良いわよ。だってカッコいい系ってエデンの色と合わせてみるとどことなく冷たく見えるもの。本当はこんなに優しくてあったかい人なのに」


「そうかぁ?」


 そんな風に見えるかなあ、とは思ったけどグローリアが見るとそんな風に映るのか。もうちょっと自分が与える印象を考えた方が良いんだろうか? とはいえ、こんなふりふりとひらひらの服を着るのはかなり屈辱的だ。いや、見た目はマジで良いんだけど。それはそれとして男としての心がズボンを求めるのだ。ジーンズ履いているのが前世も今生も一番楽なんだわ。


「じゃあエデンは今日一日この恰好ね!」


「え」


 そう言うとグローリアは俺の脱いだ服を素早く奪い、そのまま部屋から逃亡する。数秒程苦笑しながらリードを与えるのを待って、


「待てこら―――!」


 笑いながら逃げ出したグローリアを追いかける。秋のクソ忙しい時期に何をやっているんだと思うが、


 これもまた、グランヴィル家では大事な大事なお仕事なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] なーんかそのうちリアが、エデンの首元から除く鱗とかに性癖壊されないかなーって思いますよね。
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