第一話
活字体で人を笑わすことが出来たら嬉しい。
彼の名は大空 人今年で69歳になる俺の祖父だ。髪は禿げてこそないが真っ白で、顔も大分老けてる。ここ数年で認知症の初期症状も出始めた。余命も後、数年らしい。ただ、体は生き生きとしていて、よく街に出かける。そんな彼は今でこそただのジジイであるが、若い頃は巷で噂のラブスナイパーと呼ばれ、どんな女も落としてきのだ。
ピピピピピ ジジッ
「ふわぁ〜ー眠いー」
今日から夏休みだというのに、目覚まし時計の音が鳴り響く。目がしょぼしょぼしてるからよく分からないが、ここはどこだろうか。とりあえず周りを見てみる。どうやら俺は、ベットで寝ているようだ。フローリングの床から視線を上げると意外と広い部屋で寝ていることに気づく。壁には、写真がいくつも飾られてる。んー頭痛てぇ。
「おーい、起きろや!ラジオ体操に行くぞ!」
ヤンキーのような激しい口調で急き立てられ、僕はパッと目を覚ます。ラジオ体操という言葉はその強強した声から全く想像ができない。僕の好奇心が全身の神経を奮い立たせる。一体どんな人なんだろう。目の前にある扉が開くことを待ち望む。
僕は、まだ冴えてない頭をフルに活用し記憶を辿る。ここで寝てるということは、知り合いなのだろう。
そして、僕に声をかけてきたと思われる人の足音がドンドンと近づいてくる。と同時に僕の脳が足音に合わせるように、危険信号を送る。
そう、思い出してしまったのだ。昨晩大学の友達と夏休み記念で飲みに飲んで、帰ろうと思ったら終電がなくて、そんな中仕方なく居酒屋から徒歩5分のじいちゃん家に来たということを。
記憶を思い出しボケーっとしてたら突然、豪快にドアは開いた。ドアの前に立っていたいたのはもちろん僕のおじいちゃんだ。しかも、満面の笑み、いや、何かを企んでいるような笑顔を浮かべて、僕に近ずいてくる。彼の手には、自転車らしきものの鍵と木刀。首にはラジオ体操のスタンプカードとジャラジャラした鎖。…いや、怖、、、いけどなんか可愛いな。
眉間には常にシワがよっていて、イカつい顔をしたオラオラ系、髪はオールバックの綺麗な銀髪。身長は175とかなり高い。その上、筋骨隆々な肉体が垣間見える。いつも、ジーパンに少し長いジャケットを着ている。そして口癖は「ガッハッハッ」とかいう強キャラ枠。見た目からは想像できないが、少し抜けてて、愛くるしい1面もあるこの人。
僕は、この人の過去をよく知らない。だが、現在はセカンドライフを地域イベントを楽しんで謳歌しているようだ。
御歳69歳になるこの人は衰えることを知らない。孫の僕にもあたりは強く、会う度に僕の体をダンベル代わりにされ僕は持ち上げられる。それがどんなに恐ろしいか想像つくだろうか?
一方の僕は、髪はボサボサ、女子に鈍感。どんなことにも控えめで、あまり人と関わりたくない内気な少年だ。身長はおじいちゃんと変わらないのに、いつも圧で押されてしまう。
こんなに真逆の2人が上手くやっていける訳ないと思う。
出来れば早く家に帰りたいが、家に帰ってもゲームくらいしかやることないので、おじいちゃんの家に滞在してもいいかな。今年は大学3年で、遊べる夏休みは今年で最後だし、うん楽しむか。
そう決心し、おじいちゃんと向き合おうと思ったその時、突如体がヒョイっと軽くなるのを感じる。なんと、おじいちゃんの肩に担がれていた。急な出来事で、じたばたもがく。
「大人しくしとけ。とにかく急いで、ラジオ体操行かないとダメなんだ。説明は後でしてやる」
訳わかんないけど、とにかく切羽詰まっている様子なので、大人しくした。なんだろう、70近くの爺さんに担がれる大人。なんともむずがゆい。そのまま外へ連れ出される。
肩から下ろされた僕は、目の前の光景に驚く。昭和ロマンとも言えるような真っ黒の2人乗りバイクが、目の前に佇んでいる。まるで、今にも乗って欲しいと言わんばかりの輝きだ。僕は、これに乗って行くのかな、と在り来りな答えをこの人に期待してしまった。
「お前はこっちな」そう言いながら指を指した先にあったのはママチャリ。あかん、全身から血の気が引いていくのを感じる。
チャリの鍵を手渡され、半ば強制的にママチャリに乗せられてしまう。隣では、ブーンルルルッと、バイクがよっしゃーと言いたげにマフラーを吹かす。そして、呆気に取られる僕に、向かってこの人はこう呟いた。「先に行ってるからな、着いてこいよ」その言葉は、僕の頭の中で反響し続けた。
なぜ昨日の自分はこの人の家に来てしまったのか。なぜ友達の家に泊まらなかった。だが、もし今、ここに来てなかったらこれから起こる壮大な夏の物語は経験出来なかったかもしれない。
僕とおじいちゃんの夏はまだ始まったばかりだった。
次の次くらいから頑張ります。