さて、お仕事です。
色々テオさんに教えてもらいつつ、夜は更け・・そして翌日である。
窓のカーテンを開けると、晴天だ。幸先良さそう。
クローゼットにしまっておいた服に着替え、顔を洗って、隣の騎士団の食堂へ行くために階段を下りて行く。
下りた先に、人間のテオさんがいた。今日はローブを着ている・・。魔法使いみたいだ。・・あ、魔法使いだったっけ。
「おはよう」
「おはようございます!」
階段を下りきって挨拶すると、テオさんは私をじっと見る。
「昨日は、よく眠れたか?」
「あ、はい・・、どんな所でも、しっかりバッチリ眠れるのが特技でもあるんで・・」
「・・・それは、便利だな」
「はい」
・・うん、多分寝汚いともいうけど。ふかふかのベッドは気持ちよくて・・、すぐ眠れたのは確かだ。
そんな会話をしながら、外へ出る。
私は、手を差し出すと、テオさんが首を傾ける。
「あ、手を繋ぐのかな・・と思って・・、すみません・・・」
あ、つい昨日の癖で出しちゃった・・と、テオさんの顔を見て、恥ずかしくなって引っ込める。頭の上で小さく笑った音が聞こえて、そろっと見上げると、ライオンのテオさんがいた。
「こっちがいいんだろ?」
「・・・・どっちでも大丈夫ですよ・・・・?」
・・多分・・と、心の中で呟いたけど。
もふもふの手は今日も気持ちいい。大きすぎて握れないので、指を掴む感じになるけど・・・。悠々と歩いているテオさんの揺れるたてがみが、お日様に当たってキラキラと光ってる。
「綺麗・・・」
「何かあったか?」
「ああ・・・テオさんのたてがみが綺麗だなって・・お日様の光に当たって、キラキラしてるんで。金の瞳と同じでお日様の色ですね〜」
テオさんの足が、わずかに止まる。
「・・・綺麗・・・?」
「はい、どっちもお日様の色で!綺麗です」
にこーっと笑って、テオさんを見ると、なんだか驚いたような顔をしている。・・・ライオンの顔って、わかりづらい。
「私は髪も目も、どっちも真っ黒なんで・・、あ、私が夜でテオさんが朝・・、いや月とかいう設定も捨てがたい・・。どっちがロマンを感じますか?」
「ロマン・・」
「どっちが、こうドキドキしますかね?」
考え込むテオさんを見て、はた・・・と、気付く。
ああ、やっちゃった・・・。いつも、こう夢見がちな事を考えたり、言っちゃうものだから、笑われたり、現実を見ろって馬鹿にされちゃうんだよね・・。萎んでいくように、小さくなる私に、テオさんが私の指を掴む。
「夜と月・・がいいな」
「っへ?」
思わず顔を上げて、テオさんの金色の瞳をじいっと見る。
「朝だと離れてしまうが、月だったらヨルの側にいられるだろ?」
う・・・・・・・・・
うわーーーーーー!!!!!
私は、そんな甘い言葉をかけられた事がないので、驚いてしまう。
「すごい破壊力のある一言、ありがとうございます・・・はい、すごくロマンを感じます・・・」
「・・・?・・・・そうか?」
私が思わず赤面すると、テオさんは不思議そうに顔を傾け、やがて自分が言った言葉の内容を理解したのだろう・・・、もう片方の手で顔を隠した・・・。
「・・・・本当だ・・・」
「天然なんですね・・テオさん」
「いや、普段は違う・・」
「いえ、できれば面白いのでそのままでいて下さい」
私は、もうおかしくて堪らなかった。
ライオンが照れている・・・。
あんまり笑っちゃいけないかと思って、必死に笑いを噛み殺すが、ライオンのテオさんがじっと見る。
「・・・笑えばいい」
ちょっと拗ねた低い声に、ついに笑ってしまった。
うん、きっと今日は良い一日になる。
そんな確信に満ちた朝であった。