上司の秘密。
ライオンのテオさんがいない・・・。私は金髪の青年をじっと見る。
「・・・私だ・・・」
低い声は確かにテオさんだった。
え?どゆこと・・・???
「え?テオさんって、ライオンじゃなかったんですか?」
「・・・獣人だ。人間にもなれる」
「便利ですね・・・、あ、でも普段はその姿なんですか?」
「なぜ・・?」
「ジスさんがなんでライオンって聞いてたから・・」
ジスめ・・・小さい声でちょっと呟いてから、立ち上がって、私の手を取って立たせてくれた。人間になっても、気遣いのできる百獣の王。
「・・・人間だと、警戒するかと・・。君は動物が好きなようだし」
「よく動物が好きって、わかりましたね」
「・・・それは、まぁ・・」
あ、そうか肉球!って言って、めちゃくちゃ手を触ってましたね・・。気を使ってくれたのか・・。
「ちょっと驚いて、獣化が解けてしまったけど、まぁ・・普段はこの出で立ちだ」
ちょっと困ったように笑う姿は、なかなかに様になる。
百獣の王が人間になると、こんな感じか・・。
「そうですか・・、ちょっと安心しました」
「なぜ?」
「ご飯食べる時、どんな風に食べるんだと思ってたんです・・・。目の前で、生肉食べるのかな・・と、思ったら楽しみ半分、ちょっとドキドキで・・・」
そう言うと、ハハっと笑った。
おお、笑っても格好いい。
「さすがに昼前には教えようと思ったんだが・・、そうか、心配かけたな」
「あ、お気遣いありがとうございます」
テオさんが少し小さく笑うと、頼まれた薬を作るから、手順を見て欲しいと言われた。確かに・・、覚えておかないと!なにせ明日からお仕事だ。
薬草の管理や、手順、魔力がなくてもできる・・など教えてくれた。私は多分、魔力ないだろうし・・、魔法薬が仕事にできるといいかも・・。いずれ私は自立してここの世界で生きていくんだから。
後でメモしておきたい・・と言うと、紙とペンをくれた。
百獣の王・・優しい。
魔法薬ができると、早速紙袋に入れて事務所に届けに行く。
「届けたら、ちょうどお昼だ。生肉でも食べるかな」
そうテオさんが言うので笑ってしまう。
ライオンのテオさんも好きだけど、人間のテオさんは面白い。
扉を開けて、一歩出ると、手を差し出されて、へ?とテオさんの顔を見てしまう。
「・・また転ばれては困る」
「あ、ああ〜・・・」
でもさ・・人間のテオさんは、ちょっと・・・どころか大変見目麗しくて、照れくさくて・・手を繋ぐのをためらってしまう。
「・・・・・あの、肉球を握るのはダメ・・・ですかね?」
ライオンのテオさんならば、心は穏やかだ。
テオさんは、ちょっと目を丸くしてから、シュウ・・と音を立てたかと思うと、ライオンの姿になる。
「これならばいいか?」
「テオさんだ!!!」
「・・いや、うん・・、こちらも確かに私だが・・」
あ、そうだった。でも、肉球の手が可愛くて、ぎゅっと握ってしまう。
「肉球・・」
ニマニマ笑いながら、手をモミモミと触る。爪尖ってるなぁ〜。
「・・・ヨル・・・」
ライオンのテオさんは、ちょっと困った顔をする。
と言っても、表情は分かりづらいけど。
「あ、すみません・・・」
ちゃんと肉球の手を掴むと、騎士団の方へまた歩き出す。
「テオさん・・、後でたてがみとか触りたいんですが・・」
「・・・ヨル、普通に髪を撫で回される姿を想像してくれ」
想像した。あかん・・。
「すみません・・・、諦めます。でもいつか撫でたいです」
「・・・ヨル・・・」
テオさんのちょっと困りきった声が面白かった。
事務所に魔法薬を渡して、食堂へ行ってお昼を食べた。もちろん、その時は人間のテオさんだけど。
「生肉は、ちなみに食べないぞ」
と、言われた。・・・・わかりますよ〜・・・さすがに・・。