約束。
人間のテオさんは、あんまり見慣れてない上に、めちゃくちゃ格好いい王子様のような顔なので・・、大変ドキドキしてしまうが、私はとにかく逃すまいと手をぎゅっと掴んでいた。
「ヨル・・もう、逃げないから・・一旦手を・・」
テオさんは、ちょっと目が泳ぎながら私に訴える。
「さっき全力で逃げてた人が何言ってるんですか。説得力がまるでありません」
「・・・っ・・・」
何も言い返せまい。
大人しく手を繋がれていて欲しい。
やっと・・?ちょっと?私の事を信じてくれたんなら・・嬉しいけれど、どこまで本気にしているかわからない。
なにせ、この問題はテオさんにとって根深そうだから・・・。
とはいえ二人で真っ赤になって、路地で立っているのも、確かに恥ずかしいわけで・・。
・・どうしたものか・・・。
と、狼煙を上げた方から走ってくる音が聞こえて体がギクリと強張る。テオさんが気付いて「大丈夫だ」と言ってくれた。やってくる方を見たらジスさん達がやって来た。
本当だ〜。どうやってわかったんだろ・・。
ジスさんはすぐに騎士さん達に命令して、あっという間に捕まえておいた3人を縛って、詰所へと連れて行く。
私は3人が話していた事をジスさんに話す。
「ジスさん、この辺に頭がいるって話してました」
「ありがとう。今、そっちも捜索してる。テオドルさん、手伝い・・お願いできる?ヨルちゃんは、こっちで他の騎士に魔法庫まで送ってもらうから・・」
えええーーー?仕事に連れてっちゃうの?
せっかく見つけたのに・・・それに、また逃げちゃったら・・・。
思わず、テオさんを見上げると、テオさんは私の頭を撫でる。
「危ないから、仕事場で待っててくれ」
「・・・絶対、帰ってこないとダメですよ?」
「約束する・・・」
ちょっと照れくさそうにテオさんが私を見るので、そっと手を離す。
よし、信じたぞ?指切りげんまんとか、いまのうちにしておこうかな・・。
ジスさんが、テオさんと私を交互に見て、なんとも面白そうな顔をしている・・。わかってます・・・あとで話します。
「ジスさん、狼煙の玉ありがとうございました。おかげで助かりました」
「うんうん、こっちもアジトをずっと探してたんで大助かりだよ。じゃあ、ごめんね。テオドルさん・・借りてくね」
「・・・私は猫か・・・」
ちょっと突っ込みつつ、テオさんは小さく手を振ってジスさんと仕事へ行ってしまった。
うん・・・、約束したからきっと平気だ。
信じて欲しいなら、信じるのも大事だもんね・・。小さくなる後ろ姿をずっと見ていた。
私は、騎士さんに馬に乗せてもらって、一足先に魔法庫に帰って行った。
ガラン・・とした仕事場はやっぱりちょっと寂しくて・・。
お腹が空いたので、台所へ行くと・・、カウンターの上に食材とメモ書きが置いてあった。「げんこつしといた!」というおばちゃんの力強い筆跡があった。思わず目に浮かぶようで笑ってしまった。
感謝して、いつ帰って来てもいいように夕食を作っておいた。
夕食を軽く食べ、お風呂に入っても、なかなか帰ってこない・・。
帰って来なかったら・・、お風呂入っている間に帰って来たのかな・・と、隣の棟を見たり、玄関をウロウロしたり・・。
気になるので、玄関を入ってすぐの部屋のソファに座って待つ事にした。
大きめの膝掛けを持って、肩に掛け、時々通る馬車の音に立ち上がって窓の外を見たり、また座ったり・・。
そうこうするうちに、段々と昼間の全力疾走が効いてきて、私はいつの間にかソファで眠ってしまった。
金色のライオンのたてがみを撫でる良い夢を見つつ・・。




