金色。
「なんつーすばしっこいガキだ」
「人の顔に土をかけるとか、手慣れてんな〜」
ニタニタと笑って、こっちへ近付いてくる男の人達から少しでも離れたくて、壁に張り付く。
あの男の人達の隙間からなんとか抜け出せれば・・
「こいつ、まだ逃げる気でいるぞ」
当たり前だろ!
思わず心の中で毒づく。顔を殴られると、腫れが引かないんだよな・・そう思いながら、どうやって切り抜けようかと考える。うん・・・、こんなの経験済みな女の子なんてきっといない・・。もう、やだ・・。
「テオさん・・・」
せめて一目くらい会いたかった。
そう思って、目を瞑った瞬間だった。
『這え』
耳に聞き覚えのある低い声。
ハッと顔を上げると、3人いた男の人達は、突然ベシャリと体を地面に這うようにぴったりとくっつく。
その男の人達の後ろに金色の瞳の人間のテオさんが立っていた。
『眠りの檻』
そういうと、3人の周りに一本の鉄の棒が地面から出てきて、ぐるりと素早く囲むとたちまち檻になって捕らえてしまう。
テオさんはそれを見ると、立ち去ろうとするから慌てて追いかける。
「待って!!!待ってください!!」
駆け足が早くて良かった・・。
テオさんのローブを強く掴む。
「行かないでください!!」
テオさんは、こっちを向かない。
止まってくれたけど、ものすごく拒絶されているのはわかる。
ローブを掴んでる手が震える。
「・・・・・・私、また捨てられるんですか・・・・?」
テオさんが、びくりと体を強張らせる。
「・・・拾ったら、ちゃんと面倒をみるものです」
「・・ヨルは動物でないだろ?」
ゆっくりテオさんがこっちを見る。すごく傷ついた瞳をしている・・。奇遇ですね、私もです。
「私を傷つけたら・・って思っているんですよね?」
テオさんが苦しそうな顔をしている。
ほら、やっぱり!
「それで、私が怖がったり、嫌がったら・・って思ってるでしょう?」
「・・・・ヨル」
あーー、ダメだ。また涙が出てくる。泣きたくない。泣いたら、この人その分傷ついちゃうってわかってるのに、泣けてくる。
「どこかへテオさんがいっちゃう方が、私は嫌です」
「・・・・ヨル」
どうしたら信じてくれるんだろう・・この人。優しいくせに臆病なこの人。
じっと金の瞳を見る。
信じて欲しい。
テオさんの首元を思いっきり引っ張って、キスをした。
驚いた目が私を見る。
私も金の瞳を見る。
グッと唇を押し付けてから、ゆっくり離した。
赤い顔をして呆然とこちらを見るテオさんの首根っこを、逃すまいとぎゅっと握ったまま目を逸らす。
う、うぅぅ・・・めちゃくちゃ恥ずかしい。
とんでもないことをしたのはわかってる!!
「・・・・・初めてのキスをあげたんですから、信じて下さい」
もーこれ以上はどうしたらいいかわからない!!
信じてもらうって、どうすればいいんだ!?
ちょっと震える手に、テオさんの手がそっと触れた。
見上げると、テオさんの金の瞳がやっぱりまだ、ユラっと揺れているけれど、こっちを見ている。
私を見ている。
「・・・・・・ヨル・・」
「もう一回しないと信じられませんか?」
ボッとテオさんの顔が赤くなる。
・・・これは、ちょっと楽しいぞ。
「私はテオさん怖くないし、嫌じゃないです」
「・・・ああ」
「・・・あ、でも自分をもっと大事にはして下さい」
「・・・ああ」
「・・・あと、ずっと側にいて下さい」
テオさんの金の瞳に薄い水の膜がはっている。
キラキラ太陽の光が当たって、輝いている。
「私が夜ならテオさんは月なんでしょう?」
私は、首根っこを捕まえていた手を離して、首に腕を回す。
どうだ、捕まえてやったぞ。
テオさんの目から涙が一粒流れたけど、綺麗に光っていて・・、私はそれを捕まえるように頬にもキスしてみた。
テオさんは、また真っ赤になった。可愛い。




