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旅路

「エレナから許可証と赦免状が出たわ」


 数日後、アイシャがエレナからきた手紙を見せてくれる。

とりあえずここまでは順調にきたのだが、エレナはきちんと油断してくれているだろうか。もっとも、俺に敵意がないと思っていたとしても、それでもエレナが俺を殺そうとしている可能性はあるが。


「いよいよですね」

「そうだな」


 ミリアとマキナの表情も緊張に包まれた。

 そんな二人に俺はもう一度だけ尋ねる。


「最後に確認するが、本当に一緒に来るのか? 場合によってはエレナ一派に囲まれて死ぬこともありえるんだぞ」


 が、それでも二人の決意は変わらなかった。


「大丈夫です。もしそうなる場合は、一人留守番して皆さんが帰ってこない場合の方が辛いので」

「わらわが人間ごときに負けるはずがない」


 マキナの場合は王宮の真ん中で力を使うことで周囲が混乱するという問題も起こるだろうが、とりあえずエレナを倒すことが先決だ。それに、俺たちはエレナさえ倒して石を直せば再び国外に戻ればいい。


「相変わらずアルスはモテモテだね。妬けちゃうなあ」

「俺がモテモテというよりはエレナが恨みを買っているということだろう。では早速出発するぞ。申し訳ないが、二人には俺の従者の振りをしてもらう」

「私、マキナちゃん用にメイド服を作ってみたの。どう?」


 真面目な話をしていたはずなのにアイシャが入ってくると、途端に空気が変わる。


「というかアイシャは適応が速すぎるな」

「これくらいじゃないとやってられないから」


 そう言ってアイシャはマキナ用に作ったというメイド服を見せる。マキナのイメージに寄せているが、どちらかというとゴシック寄りのデザインだ。あまり普通のメイド服っぽくはないが、マキナが目を輝かせているので良しとするか。


「おお、なかなか格好いいではないか」

「私、これでも知り合いに似合う服作るの得意だから。今度はミリア殿下のも作るね」

「あ、ありがとうございます」

「それと王国に入ったら『殿下』呼びも気を付けてくれよ」


 俺が戻っていく時に一緒に失踪したミリアが同行していれば怪しまれそうなのでミリアの正体は隠すことにした。色々考えたものの、長い髪を結び、顔を包帯で隠すことにした。帽子などだととって確認されることがあるかもしれないためだ。


「よし、行くぞ」


 こうして俺たちは家を出発して王国に向かった。




 最初に向かったのは国境にあるザンド砦である。これまでも会ったことある者たちが多かったが、正面から通行証を持って歩いていくのは初めてだった。もちろん普通に通してくれたが、一言だけ「気を付けてください」と言われてしまった。やはり王国中にエレナに対する恐怖が広がっているのだろう。


 それから俺たちはアイシャが借り切ってくれた馬車に乗って旅を続けた。



 一日目の夜、俺たちが宿に泊まろうとするとマキナが周囲の景色を物珍し気に見渡す。何の変哲もない宿だが、魔族領で暮らしていたマキナには珍しく見えるらしい。


「おお、ここが人間の宿というものか。なかなか珍しい仕組みだな」

「それ以上しゃべるな。宿は人間の社会では普通にある、珍しくない」


 俺は懸命にマキナを黙らせる。


「どうかされたんですか?」

「いや、彼女は田舎の出身でな、はは」


 俺は宿の主人の問いに苦笑いで誤魔化す。むしろミリアの方が追放前後に王都と俺の家を往復していたから普通の旅に詳しい。


 アイシャは十分な路銀をもらっていたので個別に部屋をとることも出来ただろうが、俺は彼女らを一人にするのが不安だったので四人部屋にする。


 部屋に入ると俺はほっと溜息をつく。


「わらわは自分が生まれた村と魔族の暮らししか経験がないが、人間というのは思いの他すごいものだな」


 ようやくしゃべれるようになったマキナは感心したように言う。


「珍しいのは分かるが、外であまりはしゃぐのはやめてくれ。変な目で見られる」

「すまない。もし今回の件が片付けば、普通に人間の街を観光してみたいな。これまで人間のことは敵視ばかりしてきたが、実際は思ったより素晴らしかった」

「マキナ……」


 俺はマキナの素直な言葉に少しほっこりする。何だかんだ視野が広くなれば考え方というのもおのずと懐が広くなっていくのだろう。エレナを片付けた後にそんな時間がとれればいいのだが。


「ところで賢者の石の効果範囲に入って大丈夫か?」


 魔王の血を引くマキナが賢者の石の結界内に入って大丈夫なのかどうかは密かに心配していたが、少なくとも表立っては問題なさそうだった。


「うむ、今のところは少しぴりぴりするくらいでそこまでの違和感はない」

「人間の姿をとっている時は人間に性質が近づいているからだろうな」


 賢者の石は暴走を続けているらしいが、効果自体はほぼ変わらずに作用している。しかしこれは逆に言えば、今後魔物と人間のハーフで味方する者が出たら石が効かないということでもある。


 とはいえそもそもハーフ自体が非常に稀だし、それを心配する前にまずは人間同士のいざこざをどうにかすることを考えるべきだろう。


「ちょっとやってみてくれないか?」

「分かった……はあっ」


 マキナが気合を入れて右手の先だけ変異させる。

 するとマキナは急に顔をしかめて慌てて手を戻す。少しでも変異した瞬間賢者の石の力を受けたということだろうか。


「やはり変異させるのは辛いようだ」

「まあ王宮でこの力を使うのはまずいからな。使わずに済むならそれが一番いいことだが」

「ああ。この姿でもそこらの人間よりはよほど強いはずだ」


 マキナは人間の姿をとっていてもそこらの人間を上回る身体能力を持つ。後れをとることはないだろう。


「と言う訳で今日は初日だし早めに寝よう。言っておくが、同じ部屋だからってもうハニートラップはするなよ?」

「はーい」


 俺の言葉にアイシャは少し不満そうに頷き、そんな彼女をミリアとマキナが白い眼で見るのであった。


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