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濡れ衣

 王宮に入ると俺はとりあえずすれ違った警備兵に尋ねる。


「クルトは今どこにいる!?」

「第一王女殿下の部屋に」


 俺が血走った形相で尋ねると警備兵は脅えた表情で答えてくれる。

 この時俺は「それなら話が早い」と思ってしまったが冷静に考えれば二人が一緒にいることの不自然さをもう少し考えるべきだった。錬金術に詳しいエレナと下手に話せばクルトの嘘は露見するかもしれない。

それでも一緒にいるということは。


 だが、この時の俺は興奮のあまりそこまで思考が回らなかった。


「クルト!」


 俺は叫びながら王女の部屋のドアをバタン、と開く。本来なら許されざる無礼だったが、今はそれどころではなかった。

 部屋の中で会話していた二人が音につられてこちらを振り返る。


 が、手柄を盗んだことがばれそうだというのにクルトの表情は意外なほどに落ち着いていた。そして不気味なほど落ち着いた声で言う。


「おやおや、師匠じゃないですか。そんなに慌ててどうしました?」

「どうしたもこうしたもあるか! お前、俺の賢者の石を自分の手柄にしたらしいじゃないか!」


 たまらず俺は怒鳴るように言う。

 が、クルトは相変わらず平然とした表情で答える。


「何を言ってるんですか? あれはれっきとした僕の発明ですよ。そうですよね、王女殿下?」


 そう言って彼はうすら笑いを浮かべながら傍らにいるエレナに目をやる。

 エレナは金髪碧眼の美貌の持ち主で、王族一の才女と名高い。プライドや向上心が人一番高く、勝気な性格というのがもっぱらの評判だった。そんな人物であれば必ずやクルトの嘘を正してくれるはず。俺も期待を持って彼女を見る。

 が、エレナは俺の方を冷たい目で見つめ返して言った。


「何を言っているの? 賢者の石をクルトが発明したのはこの私が認めたことよ」

「そんな馬鹿な! ちょっと調べればすぐに分かるはずだ!」

「無礼ね。王族に対する口の利き方がなってないわ」


 エレナの言葉を聞いてようやく俺は、クルトが思いつきで言っているだけではないということを理解した。王女までクルトの肩を持っているということは恐らく事前に何等かの根回しをしていたのだろう。自分の身近でそんな陰謀が行われていたのに俺は全く気付けなかっただなんて。


 その事実に気づいて俺は愕然とする。先ほどまでは何かの間違え、もしくはクルトが手柄に目がくらんで暴走しただけだと思っていたが、ようやく俺は事態の深刻さに気づいてしまった。


 とはいえ、エレナに認められなかったからといって、俺が正しいのは明白である以上、根気強く訴えていけばいつかは真実が勝つはずだ。

 とりあえず大臣にでも話に行こうか、そう思って俺は部屋を出ようとする。


「待ってくださいよ師匠……いや、元師匠と言った方がいいかな」


 唐突にクルトが変なことを言い出す。


「何だ?」


 俺は憮然とした表情で振り向く。

 が、そんな俺にクルトは口の端に笑みを浮かべながら止めを刺す。


「現在あなたには禁忌魔術に手を出した嫌疑がかかっている。まずはその捜査が終わるまで、大人しくしていてもらおうか」

「何の話だ?」


 全く身に覚えはないが、俺はじわじわと嫌な予感に包まれていくのを感じる。いくらエレナを抱き込んだとはいえ、こんな調べたらすぐばれる嘘をついて俺を野放しにしておくことがあるだろうか。

 思わずエレナの方を見ると、彼女もクルトの言うことを肯定するように頷く。


「すぐに分かるわ。もうすぐあなたの工房に抜き打ち調査が入る。そこで一体何が見つかるかしらね」

「おい、クルト、まさか……」


 俺の言葉にクルトはくくっ、と邪悪な笑みを漏らす。


「あはは、愚かだなあ。宮廷一の天才と言われたアルスも間近で弟子の僕が仕掛けた陰謀には何にも気づかないなんて。そんな間抜けに研究で劣っていたなんて恥ずかしいよ」

「おい、お前……」


 その先は口の中が乾いて言葉にならない。


「きっと今頃お前の部屋からは違法な研究を行った証拠が出てくるはずさ」


 言われてみれば俺の部屋は研究続きで散らかっていた。部屋の隅にクルスが違法な素材を紛れ込ませていたとしても、気づかなかったに違いない。俺は研究に夢中になりすぎてそういうことには無頓着すぎた。


「何だと……」


 俺は思わずその場でがっくりと膝をついた。この国では基本的に禁忌魔術に手を出した者は死罪だ。俺が生きていてはいつか露見するから、クルスは自分が手柄を簒奪した証拠を隠滅するために俺を殺そうと言うのか。


 まさか一番弟子が手柄のためにそこまでする人物だったとは。

 怒りと絶望で目の前が真っ暗に染まっていく。


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