表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/46

少女と魔術師団の裏側

「今日からアニエスさんには、書庫の整理をしてもらうことになりました」

「……書庫?」


 馬車を襲ったモンスターを討伐した翌日。

 アルテンシア城の一角に建つ、魔術師団の研究施設兼宿舎。

 小さな宮殿の様なその建物の一階最奥には、普段まるで使われていない書庫があった。

 アニエスが任された仕事の内容は、所狭しと置かれた本棚に限界まで詰め込まれた書物たちの内容確認。

 その記録を作成するというものだった。


「これを、どれくらい作ればいいんですか?」

「とりあえず、全部終わるまでね」

「全部……?」

「そういうわけだから、よろしくお願いしますね」


 そう言い残して、同僚は埃っぽい書庫を出て行く。


「あ、あの、一応昨日のこと調べてもらった方が……」

「その件についてはもちろん先日中に士団に責任を問いました」

「あ、そうではなくて」


 何か背後に不審なこと等がないかを確認した方がいい。

 そう言おうとしたアニエスを置き去りに、同僚はそそくさと書庫を後にした。

 一人残されたアニエスは、あらためて数千冊はくだらないであろう蔵書を眺める。

 その全てを内容まで確認してリスト化しろなんて、何年かけても終わりそうにない。

 途方に暮れるようにして、なんとなく手近な棚の本を手に取ってみる。


「これは、なに……?」


 おそらく他所の国の古い読み物かなんかだろう。

 いきなりの難題だ。

 読めない文字のものはどう分類すればいいのかを問うため、アニエスは書庫を出て同僚たちのもとへと向かう。

 すると、その途中。


「昨日の騒ぎ、士団が取り逃がしたモンスターが原因だったらしいわ」

「本当? まったく同じ貴族として恥ずかしいわね。野蛮だし、仕事もできないし」


 同僚たちの立ち話が聞こえて来た。


「それにしてもアニエスさん、無事閑職に移動させられたみたいね」

「ッ!」


 その言葉に、思わず身を潜める。


「あんな魔力、もし宰相様がご覧になったら……あの子を次の師団長候補にだってしかねないわ」

「それも書庫に入れておけば心配ない。これからはずっと日陰でがんばってもらいましょう」

「そうね、あの子が魔力を披露する機会さえなければ安心ですわね。しょせんは田舎貴族ですもの。誰かの推薦を受けるようなこともない」

「そもそも、もう魔王もいないんだから戦う力なんて必要ないのよ」

「下手に魔物と戦ってケガするなんて馬鹿らしいもの。危険な仕事は士団の連中にでも任せておけばいい」

「わたくしたちはこれからも、優雅に魔術の研究をしていきましょう」


 そう言って二人は、くすくすと笑う。

 アニエスは本を手にしたまま、書庫へと戻って来た。

 そのまま、デスクの上に力なく腰を下ろす。


「……別に、偉くなりたいなんて思ってないのになぁ。そもそも、私の性格的に団長なんて向いてないし」


 わずかに差し込んでくる陽光に、キラキラと舞うほこり。

 アニエスは書庫に並んだ資料の中から、魔術師団の仕事を書き残した記録の一冊を手に取った。

 それはちょうど、勇者が魔王と戦っていた頃に書かれたものだ。

 そこには今よりもずっと危険だったアルテンシアにおける、魔術師団の活躍が記されていた。

 アルテンシアの街を、そして世界を守るために戦っていたのがよく分かる。


「顔ぶれも今と、全然違うのね」


 憧れていた魔術師団と、現状の大きな乖離。

 ここにはかつての卓越した魔術と知識で悪と戦い、弱き者たちを守る誇り高き魔術師はもういない。

 読み進めるたびにその活躍に熱くなって、そして悲しくなる。

 アニエスは地方貴族であるフェリックス家の末女だ。

 何でもできる姉たちに比べて、得意は魔力の強さだけだった。

 そんな中でだった。魔族に立ち向かう者たちの話を聞いたのは。

 王都アルテンシアで人々の役に立つことに憧れて魔術師団を目指し、入団を決めた。


「それなのに、どうして……」


 十年も前にこの記録を書いた人と自分はこんなにも違ってしまっているのか。

 やがてアニエスは、立ち上がった。

 そのまま感情に任せて走り出し、魔術師団の拠点を飛び出した。

お読みいただきありがとうございました!

よろしければ、以下の★にてご評価いただければ幸いです。

何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ