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少女と魔術師団

「まあアニエスさん、たくさん採れましたわね」

「はい。少し向こうの木々の裏手に密集してたんです」


 アニエス・フェリックスは、カゴに詰め込んだたくさんの薬草をうれしそうに持ち上げてみせた。

 アルテンシア魔術師団。

 そのほとんどを貴族の令嬢で固めた、王都における魔法の研究や戦闘をつかさどる一団だ。

 その中から四人。

 薬草狩りの当番である彼女たちは、アルテンシア北西に広がる森に来ていたのだった。

 これは魔術師団の団員たちの仕事として、恒例のものとなっている。


「これだけあれば、しばらくポーション製作には困りませんね」

「はいっ」


 同僚たちの言葉に、アニエスは碧い目を輝かせる。


「アニエスさんは、いつもがんばっていますね」

「はい。まだ未熟ですけど、魔術をたくさんの人のために役立てられたらって思ってます」

「それでこそアルテンシアの魔術師ですわね。さあ、そろそろ帰りましょう」


 仕立ての良いローブを翻し、師団の四人は歩き出す。

 やがて森の間を抜けていく道に出ると、猛烈な勢いで一台の馬車がやって来るのが見えた。


「……何かしら」


 明らかな異常事態。

 砂煙を上げて走る馬車の背後には――。


「モンスター!?」


 アニエスが思わず声を上げる。

 馬車を追うのは、長いたてがみを生やした巨大な猿だった。


「どうして、こんなところに」


 アニエスが知る限り、この付近に生息する種のモンスターではない。

 それもそのはず。

 とある貴族に騎士団入りへの実績を持たせるために持ち込まれ、逃がしてしまったモンスターだからだ。

 その無理な速度に車輪が外れ、馬車が横転する。

 衝撃で手綱が切れ、馬が逃げ出していく。


「助けましょう!」


 乗合馬車から出て来た人たちの姿を見て、アニエスが叫ぶ。


「……いえ、わたくしたちの仕事はあくまで薬草集めですから」

「……え?」


 返された予想外の言葉に、耳を疑う。


「でも、あのままじゃ馬車の人たちが……っ!」

「それにあのモンスター、どこか様子がおかしいように見えます。こういう荒事はまず戻って連絡、そのうえで士団に向かわせればよいのです」

「そんなの間に合うわけないっ!」


 それでも、彼女たちは首を振る。


「わたくし達は優雅に魔術書の手入れでもしていればいいの。それに」

「それに……?」

「あんな大きなモンスター、危険でしょう?」

「そんな……それなら私が行きます!」

「ちょっとアニエスさん! 待って! 待ちなさい!」


 居ても立ってもいられず、アニエスは飛び出した。

 そのまま馬車の乗客たちを見送って、モンスターの前に立ちふさがる。


「アニエスさん!」


 呼びかける同僚たち。

 モンスターが突然現れた少女に、血走った目を向ける。


「……相手の強さは未確認……本気でやるしかない」


 相手は巨躯を持ちながらも動きの速いモンスター。一撃で勝負を決めなければ危険度が跳ね上がる。

 よって、先手必勝。

 そう判断したアニエスは息をのみ、真っすぐ右手を伸ばす。


「喰らいなさい! ――――エーテルバースト!」


 それはごく単純な魔力砲。

 アニエスの右手から放たれた魔力の奔流は、正面からモンスターに激突。

 巻き起こる盛大な爆発。

 辺りの木々を揺らすほどの暴風に、思わず顔を背ける同僚たち。

 その圧倒的な威力に、狙い通りモンスターは一発で打倒された。


「……良かった」


 安堵の息をつくアニエス。


「…………なに、あの魔力」


 一方同僚たちは、アニエスの放った一撃に茫然としていた。


「もしかして、師団長にも匹敵するのでは……」


 そしてその一言をきっかけに、同僚たちの目付きが変わる。


「どうにか馬車の人たちは無事みたいです。さっそく士団に連絡しましょう!」

「……そうね」


 息をつきながら戻って来たアニエスに、同僚の一人が素っ気ない返事をした。


「え? あの、皆さん……?」


 もはや薬草を摘んでいた時までのような和やかさはない。

 同僚たちはアニエスを残すようにして、来た道を足早に歩き出した。

お読みいただきありがとうございました!

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