元勇者と帰って来た橋の上
……勇者か。懐かしい響きだ。
魔王を倒してしまえば、もう勇者なんて肩書に大した意味はない。
魔王討伐を祝した国を挙げての祭とパレード。王城を使った式典に勲章の授与。
そんな行事が待ち構えてると聞いた俺は、それらをまとめて辞退。
基本仲間たちもそんな感じだったから、長い時間を共に過ごしたパーティはそこで解散となった。
その結果。魔王を倒して姿を消した俺たちは、今や一つの伝説みたいになってる。
正解だった。勇者様なんて呼ばれる生活は、俺には向いてねえ。
アルテンシアに帰って来た俺は、当時の団長に招かれてそのまま騎士団に入ることにした。
幸いこの世界に転移者はそれなりにいたし、魔王討伐には何年もの月日がかかったこともあって、俺が勇者だと知る者はほぼゼロ。
それからは勇者・風藤英士じゃなく、転移者の騎士団員レージ・クドウとして仕事をしてきた。
「……あいつら、今ごろ何やってんのかねぇ」
古い仲間たちを思い出しながら、橋の上に戻る。
そのままゴロンと横になると、おじさんがノドを鳴らしながら声をかけてくる。
「そ、それで、どうだったんだい?」
「まあ、なんとかなりました」
「本当かい……っ!?」
「いや、そんなに驚かなくても」
なんだ? おじさんは相手が元傭兵たちかもしれないって知ってたのか?
「そうか。少年は無事……」
「はい」
「性に目覚めてしまったんだね」
「はい?」
「でもその相手が君となると、いろいろと歪んでしまいそうだよ……酒場のイタズラなおねえさんとかならいいけど、無職になり立ての青年が相手だなんて……」
「あー、違う違う。そういうことじゃねえっす」
ていうかその流れで俺がアレンについて行ったと思ってたのかよ。
そうなるとこのおじさんは、昨日から何を考えて過ごしてたんだろう……。
「ねえ、ちょっといい?」
あん?
勘違いを続けるおじさんに説明をしていると、誰かが俺の前に立った。
顔を上げると、そこにいたのは金髪碧眼の美少女。
装飾的に結った長い髪と、凛としたたたずまい、そして羽織ったローブから醸し出す気品。
スラリとした体形に覚える、圧倒的ヒロイン感。
……ついに来たか。
そうだよ、出会いのターンはまだ終わってねえ! 俺は、俺はこの瞬間を待ってたんだ!
「貴方、本当になんでもしてくれるの?」
少女の問いかけに身体を起こした俺は、クールに応える。
「ああ、当然だ」
すると少女は、その細く綺麗な手を伸ばして――。
「それなら……」
「ああ!」
来い! 何でも来いっ!
「――――その看板もらうわ」
「…………はい?」
俺の『なんでもします』看板を奪い取った。
「あと、その『お恵みポイント』も譲ってもらいたいの」
「はい?」
なにこれ。
さらに少女は困惑する俺をどかして、『お恵みください』茶碗まで置き直すと、その場に行儀よく正座する。
それから満を持して俺の看板を掲げてみせた――――死んだ目で。
おい、肩を震わせ出したぞ。
え、なに? もしかして泣きそうになってる?
橋の上には俺、おじさん、死んだ目の少女が並んで座るとかいう異常な光景。
なんだよ、これ。
なあ、なんなんだよこれは!? 今度は一体なにが始まったっていうんだ!?
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