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少年と鍛冶師と元勇者

「暑っちぃ……」


 目を覚ますと、工房の炉には煌々とした火がたかれていた。

 どうりで暑ィはずだ。

 寝ぼけ眼のまま汗をぬぐうと、大きなあくびがもれる。


「父ちゃん、剣打つのか?」

「……まあな」


 早速工房にやって来たアレンが、どんなものを作るのかと親父さんに期待の目を向ける。

 神妙な顔をした親父さんに。すると。


「おい鍛冶屋ァ。今日こそ剣を打ってもらうぞ」

「ッ!?」


 不躾な闖入者に、アレンが身体をびくりとさせる。

 やって来たのは予想通り、昨日の男だ。


「しつけーんだよ! 父ちゃんはお前らみたいな悪者に剣は打たねえんだ!」


 アレンは真っ向から男に言い放つ。しかし。


「…………ミスリル鋼は持って来たのか?」

「父ちゃん……?」


 予想外の言葉に、アレンが目を見開いた。


「この仕事、受けてやる」

「なんでだよ! こんなヤツらの仕事なんて受けないって言ってたじゃないか! それなのにどうして!」

「決めたんだ」

「なんでだよっ!?」


 詰め寄るアレン。

 理由を言わないのは、責任を感じさせたくないからだろう。


「……いいから。お前はもう黙ってろ」

「父ちゃん!」

「黙ってろ!」

「ッ!!」

「そういうことだ、ガキ。鍛冶師なんか黙って客の言う事聞いてりゃいいんだよ」


 男は偉そうに笑うと――。


「ミスリルの剣なんてたまんねえよなぁ。すぐにでも試し斬りが必要だ。モンスターかそれとも……ヘッヘッヘ」

「……出てけ」

「ああん?」

「お前なんか出ていけっ!」

「うるせえんだよガキ! いい加減にしろ!」


 飛び掛かろうとするアレンを突き飛ばした男は、腰に下げた剣を抜き払う。


「…………何しやがる」


 男の腕をつかんだ俺は、静かに応える。


「冗談でも子供相手に剣なんか抜くんじゃねえよ。それに……」

「それに、なんだ?」

「依頼人を守るのも、仕事のうちなんでね」

「仕事だぁ? ハッ、なんだテメエ傭兵の真似事でもしてんのか? そんなら……斬られても文句は言えねえよなぁ」


 男は威嚇するように、その目を鋭くとがらせてみせた。


「……まーな」


 短く答えると、男はあごで「表に出ろ」と合図した。


「お、おい、アンタ……」


 心配そうな顔をする親父さんと、顔を青くするアレン。


「これ、前借りさせてもらうぞ」


 俺はそう言ってアレンの剣を取り、外に出る。


「バカだよなぁお前。俺たちにケンカを売るなんてよォ」


 そこには同じく剣士が五人と、魔術師らしき男が四人。


「いい見せしめになんじゃねえか? ここで勘違いヤローを叩いとけばよ」

「こんな腑抜け面の雑魚を殺ったところで、腹の足しにもならねえだろ」

「できりゃあミスリルの剣でやりたかったんだがなぁ。いや、こんなマヌケにはもったいねえか。ハッハッハ!」

「……前置きは、それだけか?」


 男たちの嘲笑を無視してアレンの剣を構える。すると。


「ッ!!」


 魔術師の一人が突然、問答無用で炎の魔法を放った。

 直後、恐ろしい勢いで飛来した球状の火炎が爆散する。


「おいおいマジでザコじゃねえか! この程度で俺たちに――――ッ!?」


 得意げにする魔術師が何やら言い終わる直前。

 それは俺の一撃で破裂した炎球がまだ、まばゆい光を残す中。

 手前にいた剣士を斬り、次の踏み込みと同時に返す剣で剣士の背後にいた魔術師を斬る。

 さらにもう一歩、大きく踏み込んで放つ一撃で三人目を斬り伏せる。

 まさかの展開に驚く男たちの隙を突き、照準を合わせられずにいた魔術師がようやく突き出した手をつかむ。

 その標準を少し変えてやれば――。


「ぐああああ――――ッ!!」


 離れたところにいた剣士二人が、味方の風魔法に吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。

 魔術師には膝蹴りを腹に一発。


「なんだこいつ!? どうなってんだ!? つ、強すぎる……っ!」


 崩れ落ちる仲間たちを見て、慌てて襲い掛かって来る三人の剣士。

 魔術師はもういない。あとは捌くだけだ。

 一人目の振り降ろしを足を引くことでかわし、そこから一気に三連撃。

 鍛冶屋の店先は、すぐさま静まり返った。


「……冗談じゃねえぞ。魔王が生きてた頃からの腕利きが十人いて、手も足も出ねえなんて」


 唖然としていた男が、怒りの視線を向けてくる。


「テメエ、一体何モンだ」


 俺はゆっくりと――――剣を構え直す。


「剣を打つのは大切な物を守るため。だから、家族を守るためなら剣を捨てちまったっていい……」


 始まる一騎打ち。

 俺は強く、そしてただ真っすぐに踏み込んだ。


「そんな男の思いに”打たれた”――――ただの無職だよ」


 勝負は一瞬。

 倒れゆく男にその言葉が聞こえてたかどうかは、分からない。



   ◆



「回収しに来る時だけは早えんだな……」


 鍛冶屋の陰で、思わずつぶやく。

 元傭兵たちが倒されると、騎士団は男たちをこれ見よがしに回収していった。

 モーリスのやつも浮かれてたし、やっぱ余罪は結構あがってたんだな。

 まったく、ひでえ話だ。


「……レージって、めちゃくちゃすごかったんだな……」

「そうでもねえさ」

「だってあいつらは誰も手出しできないくらい強くて……それに、レージが戦ってる時の顔は別人みたいで、すげー……カッコよかった」


 唖然としていたアレンは、肩を落とす。


「ごめん父ちゃん。アイツに剣を打とうとしたのは……オレを守るためだったんだな」


 親父さんは、泣きそうなアレンの頭を何も言わずに撫でた。

 それからゆっくりと、俺に視線を向ける。


「ありがとう。君のおかげで守れたよ。剣も……アレンも。まさかアルテンシアで君に再会できるなんて思わなかった」

「……再会?」

「人間離れした強さもそう。だが何より、剣の構え方が同じなんだ。あの日見た――――勇者と」


 ……なるほど、そういうことか。

 あの頃とは、身長も髪型も服装だって違う。

 それに魔王討伐以降は、正体を明かさずにやってきたんだけどなぁ。

 構え一つで見抜いちまうなんて、さすが鍛冶師だ。


「まぁ、今はなんてことないただの無職っすよ」

「それでも……君に会えて本当によかった。そうだ、何か礼をさせてくれ」

「そんなの別にいらねっすよ。仕事も終わったんで……俺ぁ帰ります」


 頭をかきながら、俺は歩き出す。


「だ、だが!」

「……ああそうだ」


 ふと、足を止める。


「アレン、約束通り依頼料はもらって行くぞ」


 そう言って背中越しにアレンの、親父さんの打った剣を掲げてみせる。


「そうそうお目にかかれないからな、こんな名剣。そうだろ? アレン」

「ッ! ああ! もちろんさっ!」


 聞こえて来た元気な声に押されるようにして、俺は鍛冶屋を後にした。

21時にもう1つアップします。

お読みいただきありがとうございました!

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何卒よろしくお願いいたします!

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