転移者と騎士団追放
「レージ・クドウを、騎士団から除名するよう進言いたします」
「……はぁ?」
王城内サロン。
モーリスがアルテンシア宰相に向けて放った言葉に、俺は耳を疑った。
「急に何言ってんですか」
「フォーゼル家はメンツを潰されたってたいそうお怒りだそうだ。責任を取るのは当然のことだろ」
「待ってくださいよ。俺はモンスターの攻撃から守っただけじゃないですか。それがどうして除名なんかに」
「演習は失敗、その上お前みたいなヤツに守られたのが気に入らなかったんだろ」
「そりゃーしょうがないでしょ。命がかかってたんだ。助けに入らなきゃ今ごろどうなってたか」
「勝手に割って入ったんなら、花を持たせる形で勝たせねーといけねえんだよ。しかもだ! 逃げ出したモンスターは魔術師団によって倒されたそうだ……まったく忌々しい」
そんな無理を平気で口にして、モーリスは顔をしかめる。
アルテンシアには俺たちみたいに剣で戦う騎士団の他に、魔法の使用を主とした魔術師団が存在する。
そして両者は仲が悪い。
魔術師団は貴族の中でも聡き者たちの集まり。
そんな空気を出す魔術師団に、騎士団が反発してるせいだ。
「お前みたいな『よそ者』のせいで、師団の連中に借りを作るなんて冗談じゃねえ」
「……君は、転移者だったね」
年のころは六十過ぎか。
後ろに流した白髪に、つややかな黒のローブをまとった宰相がたずねてくる。
「はい」
転移者。それはまだこの世界が魔王の脅威にあった頃、別の世界からやって来た者たちのこと。
その人数は分からないが、戦う者もいれば、新たな技術や文化を持ち込んで世界を発展させた者もいる。
俺も、そんな転移者の一人だ。
「宰相殿。確かにこいつら転移者たちが持ち込んだ知識や技術で、この世界はずいぶん様変わりしました。ですが、それだってもうとっくに停滞しています。そのうえ魔王が倒れて十年も経つんだ。多少剣が振れるくらいのヤツにもう、価値はないんですよ」
モーリスはさらにまくし立てる。
「しょせんはどこの者とも分からない人間。これからはまた、この世界の貴族が威厳と威信を持って国を守る時代なんですよ。要するにもう、偉そうな転移者なんていらないんだ。そうですよね? 宰相殿」
……なんだ? 騎士団も貴族だけで固めようってのか?
それじゃ魔術師団と同じじゃねえか。
あまりに酷いモーリスの言葉に呆れる。しかしどこか頼りなさそうな顔をした宰相は。
「そういうことなのかも、しれぬな……」
深く一度うなずいた。
それからあらためて、俺の方へと向き直る。
「レージ・クドウ」
「……はい」
「本日を持って、そなたを王都騎士団から除名とする」
「ちょっと待ってくださいよ。そんな強引な話――」
「君のためにも、このことは口外せずにおこう」
宰相はそう言い残すと、早々に踵を返した。
「だから待ってくださいって」
「そういえば宰相殿!」
俺の言葉を遮るように、モーリスが宰相の後を追いかけて行く。
「実は剣技に優れた貴族にアテがありまして。フォーゼルのガキなんかよりよっぽど使えます」
「……ほう」
「人員の補充にはぴったりかと思います。ぜひ今回”空いた”ところにでも」
「君に任せよう」
「ありがとうございます! もしその者が活躍した暁にはぜひ、副団長の件もお考えいただければ」
「いいだろう」
宰相と共にサロンを去って行くモーリス。
その足を、思い出したかのように止めた。
「ああーそうだ、忘れてた」
立ち尽くす俺のもとに、そう言いながらやって来る。
「お前にもう剣は要らねえんだ。エルフリーデは置いていけ。良い剣は俺……騎士団が使う方が有意義だろ?」
モーリスが俺の愛剣を、ひったくる様にして奪い取る。
「転移者どもは色んな才能や武器を持ってやって来た。お前はこのエルフリーデだろ? 要するにこいつの力がなければ、お前はただの雑魚。大した力を持つわけでもないお前なんかいなくても問題ないってわけだ。じゃあな、レージ」
宰相も、俺の方を振り返りすらしない。
こうして俺は、約十年という時間を過ごした王都騎士団を突然追放されることになった。
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