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騎士団と今日の任務

「……やっぱ、やめた方がいい」


 王都アルテンシアの西門前。

 集まって来る人たちを見て、思わずこぼす。


「まーたそれか。しつけえんだよお前は」


 俺の言葉に、モーリスはこれ見よがしなため息をついた。

 年齢は俺より八つ九つ上か。短い茶髪をざっくり流した貴族。

 魔王が倒れた後。俺より三、四年遅く騎士団に入って来た男だ。


「鎮静薬と痺れ薬でモンスターは十分弱らせてあんだ。あとは普通に斬りゃあいいだけだろうが」


 腰に提げた剣に触れながら「フン」と鼻で笑う。

 俺たちの前には、実戦演習と称して連れてこられた大型のモンスターが一匹。

 その目的は、王都貴族フォーゼル家の三男坊に騎士団入りの実績を作らせるため。

 要は箔を付けさせたいわけだ。

 当然、戦う相手はそれなりの大物になる。

 だから、演習を手助けしろ。

 これが王都騎士団の一員である俺たちに与えられた、今日の仕事だった。


「実績があるから騎士団に入る。その実績を”作る”なんてマネ、危険を冒してやるべきじゃねえっすよ」

「これは俺が宰相から受けた仕事だ。お前は黙ってればいいんだよ」


 命令するように言い放ち、モーリスが手で合図を送る。

 すると鋼鉄製の檻の横に控えていた団員二人が、鍵を開いた。

 二本の角と、鈍い銀色の長いたてがみ。

 幻魔猿と呼ばれるモンスターが、ノロノロと檻から這い出して来る。


「さあ来い!」


 それを確認して、高そうな剣をこれ見よがし構える三男坊。

 ゆっくりとその身を起こした幻魔猿は、しばらく前後不覚のように身体をフラつかせていたが――。


「……様子がおかしい」


 俺がそう口にした、まさに次の瞬間。


「ゴギャアアアアアアアア――――――――ッ!!」


 全身に響き渡るような、強烈な咆哮をあげた。

 なんだ、正気を失ってるのか?

 幻魔猿が放つ予想外の気迫に、見物人たちが悲鳴を上げて逃げ出していく。


「な、なんだよお前っ!?」


 腰を抜かした三男坊はその場に転がった。


「おっ、おおおおい! 聞いてた話と違うぞッ!」


 慌てて叫ぶ三男坊。

 手にした剣を慌てて振り回し出したところに、半狂乱の幻魔猿が狙いを付けた。


「ひ、ひいいいいッ!!」


 振り上げられた前足。鋭い爪が三男坊に襲い掛かる。

 俺は動き出していた。

 腰を抜かしたままの三男坊に全力で飛びかかる。

 直後、頭上を爪が通り過ぎていった。間一髪。


「ふう、危ねえ危ねえ」


 その隙に抜きはらった剣を向ける。

 息の詰まるような一瞬の静寂。


「――――来い」


 一言告げて、にらみつける。

 すると幻魔猿はビクッと大きくたじろぎ、強く地を蹴った。


「ひいっ!!」


 悲鳴を上げ、三男坊が頭を抱える。

 幻魔猿は俺たちの頭上を、大きな跳躍で悠々と超えていく。

 そしてそのまま着地と共に、逃亡を開始した。


「とっ、捕らえろ!! 捕らえろォォォォ!!」


 モーリスの声に、慌てて動き出す同僚たち。

 しかし西門前に連なる丘を越えた幻魔猿は、すぐにその姿を消してしまった。


「だから言ったじゃねえか……」


 散り散りになった観客。逃げたモンスターを慌てて追いかけていくモーリス達。

 そんな惨憺たる有様も、運よくケガ人はなし。

 それでもガタガタと震え続けるフォーゼル家の三男坊を背に隠したまま、俺はため息をついた。

お読みいただきありがとうございました!

もしよろしければご評価・ご感想をいただけると幸いです。

何卒よろしくお願いいたします!

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