8美少女を引き立てる服がない!
「ダサすぎる!!!!!!!」
ヴァイルト邸に美少女の嘆きが木霊した。
料理以外にも揃えなければならない重要なもの、それはパーティ用のドレスだ。
しかし、シェリルが見たドレスはどれもこれもが芋どころの騒ぎではなかったのだ。
「どいつもこいつもフリフリふわふわさせおってからに!
しかもなんじゃ! なんで胴の部分だけチェーンメイル仕様なんじゃ!
重くてかなわん!」
「貴族の子女ともなりますと、命を狙われることもありますので」
シェリルの部屋にはメイドのジェーンがいた。流石にシェリルが着替えなければならないとあっては男のセバスがついて回るわけにもいかない。しかし、そんなことは些細なことだ。この、目の前に広がるダサすぎ博覧会のようなドレスの数々に比べれば。
お披露目パーティのための服を選んでいるのだが、その服がことごとくダサかった。それもそのはずで、どこかしらに武装要素をいれていないと侮られるという風潮がこの時代の貴族にはあるらしい。
そのせいか胴部分には一般の防具に使われる武骨な素材が使われることが多く、ゴツくなりやすい。しかもそれを隠そうと努力しているのかフリルやリボンをゴテゴテと飾り付けるため全体的に膨張して見える。
シェリルの美少女要素は顔面だけではないのだ。まだまだ成長途中なため、抜群のプロポーションとまではいかないものの、年齢相応の健康的な愛らしさがある。それを覆い隠すような服は美少女の名に懸けて着るわけにはいかない。
「こんな服じゃ、わしの可愛らしさが半減してしまうのじゃ…。
せっかくの美少女なのに…大恋愛のチャンスかもしれんのに」
「もしや、お嬢様は恋愛がしたいのですか?」
「なんじゃ、悪いか? 美少女が物語のような大恋愛に憧れて何が悪い!」
あまりにもダサい服によるダメージが酷く、ついつい喧嘩を売ってしまうような顔になる。美少女が台無しだ。
「いえ、男避けのためにババ臭い喋りをしているのかと思いましたので。時折わたくしよりも上に感じることもありましたから」
「ば、ババ臭いじゃと!?」
事実、中身はババアなのだから、ジェーンの指摘は的を射ている。
「もし、大恋愛とやらをお望みであれば少なくとも一人称を「わたし」になさいませ、お嬢様。
世間には「のじゃロリ」というジャンルもあるにはありますが、ロリというには成長しすぎておりますし…」
「おぬし、なんの話をしておるのじゃ」
「ちょっと話が逸れただけでございます。まず貴族のパーティでは一人称をどうにかなさってくださいまし。
口調が変わるだけでも男性の目は変わるものでございますよ」
「そ、そういうものか」
恋愛経験値0どころかマイナスのシェリルは大人しくジェーンのいうことを聞くことにする。しかし、長年染みついた癖はそう簡単に変えられない。
「しかし、わしとてな…」
「わ・た・し、でございます、お嬢様」
「…私とて、公的な場ではきちんとした言葉遣いくらいはできるのじゃ。
しかしのう、プライベートでもそれは疲れるじゃろうて」
大賢者ともなればお偉方に意見を求められることも少なくなかったし、なんたらのパーティとかいう堅苦しい会にも出席した覚えがある。『女の癖にがさつ』などと抜かした輩に魔法制裁を下した上で、完璧なレディとして振る舞っていた。
なお、そうやって振る舞いを完璧にしても、どこからともなく決闘を申し込むものが現れて台無しになったことは言うまでもない。
「普段の言動からすると正直信じられない思いでございます、お嬢様。
それと、確かに現在はわたくししかおりませんが、恋愛の種はいつどこで芽吹くかわからないもの。いつでも深窓の令嬢らしい振る舞いをしておく方が得策かと」
シェリルが「物語のような大恋愛」に並々ならぬ情熱を抱いていると感づいたジェーンがさりげなく誘導する。実際、今のままの言葉遣いでパーティに挑んだらいい笑い者になってしまう。
「な、なるほどのう!
では、人前ではそのように過ごすとしよう。
それよりもこのダッサい服じゃ! なんとかならんのかえ?」
「言葉遣いが全く直っておりませんが」
「うっ…いやまぁ、それはおいおい…」
シェリルに厳しいツッコミを入れつつ、ジェーンはパーティの日程を思い浮かべる。どう考えても一から仕立てるのは無理だ。
「…今からデザインをしたのではさすがにパーティには間に合いません」
「確かにのう。
では、ドレスのリメイクというわけじゃな。やってやろうではないか」
仕立てるのが間に合わないというのはシェリルにも薄々わかっていた。ならばやることは一つである。
このダサ服をどうにかしてまともに着られるようにするのだ。ふんすと立ち上がり、使えそうなものと無理そうなものに仕分けていく。
「ちょ、お嬢様!? お嬢様~!!」
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