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7令嬢のデザート作り


「えっ…あんな苦いものでデザート、ですか?」


 クヮクオを使ってデザートを作るというとジェーンが信じられない、と言った表情をする。それはわからなくもない。クヮクオ単体は激苦なのだから。先ほど出されたものもえづきそうなくらいには苦かった。

 というかそのままだと激苦なクヮクオをそのまま食ってたんかい、という気持ちで一杯になる。

 だが、材料の組み合わせ次第ではとてつもなく美味しく、ついでに貴族のデザートにふさわしい高い一品が出来上がる。


「乳酪、牛乳、はちみつ、あと砂糖があれば基本となるものはできる。砂糖やはちみつも高級品なのじゃろう?」


「えぇ、おっしゃるとおりです」


「ただ、成分が濃すぎると一部のものは酔うかもしれんからのう…分量注意じゃ」


「それは今さらかと思いますよ。クヮクオは貴族の見栄料理の中でも定番でございますから…」


 ジェーンに材料を用意させ、記憶の中にあるレシピを辿りながら試作する。大まかな作り方さえ教えればジェーンがなんとかしてくれるだろう。

 付き合いは短いが、シェリルは彼女の料理の腕には多大なる信頼を寄せている。毎日毎日美味しい料理を作ってくれているので、太ってしまわないかという問題が浮上してきたが。

 そんなジェーンがいるからこそ、貴族の胃袋を掴もうとかいう作戦が思い浮かんだのだ。


 思いつくままにクヮクオを使った甘味をジェーンに教えながら、基本となるクヮクオソースを作る。

 トロトロとした甘いクヮクオソースが出来上がったが、これだけではデザートとは言えない。

 はじめはカンタンに、そこらにあった果物につける。


「冷えると固まるのですね」


「うむ。冷えるとそれなりに固く、暖かいとトロトロのソースになるな。その特性を生かした温かなデザートもあったはずじゃ。逆に冷えた菓子をクヮクオでコーティングしたり」


「温かなデザートというのは、貴族の皆様方の意表をつけるかもしれませんね。その場合ソースは何に閉じ込めておくのでしょう?」


「甘いパンとかかの? 乳酪が多い方がいい感じになると思うが…。

 とりあえず、試作品を食べてからにするのじゃ」


 早く味見がしたいので、風魔法と氷魔法を駆使して冷やす。


「んーうまい。やはりクヮクオはこう使うのが正解じゃろうて」


「確かにクヮクオとは思えない美味しさです。

 ですが、こうなると果物は甘すぎない方が良いかもしれませんね。酸味が強いものの方が…」


 ジェーンがブツブツと呟き始める。

 そんなジェーンを見てセバスは苦笑してフォローに回った。


「ああなると妻は少々長くなりますのでお気になさらず」


「料理好きなんじゃなぁ」


 真剣にああでもないこうでもないと悩み始めるジェーンをよそに、今作ったばかりの試作品をセバスと食べる。

 一応は食べられるものになっているが、これではまだまだ貴族に出せるレベルではない。所詮料理は素人のシェリルが作ったのだから仕方ないだろう。

 しかし、クヮクオがデザートになるということは二人にとっては目から鱗だったようだ。特にジェーンは新しいおもちゃを見つけた子供のように楽しげにしている。この分だと、きっと全員が満足するレベルのものを仕上げてくれるだろう。


「このままいけば貴族の名に恥じない金額を使った、しかも美味しく食べられる料理で日程を変えずにもてなせそうですね」


 クヮクオには気分が高揚するちょっとした媚薬成分があるのだが、貴族ともなると慣れっこなようだ。まぁシェリルの前世では慣れまくって子供でも食べていたから大丈夫だろう。食べ過ぎると鼻血が止まらなくなるが。


「そういえば…お前、さっきさらっと見栄料理とか抜かしおったな」


「まぁ、事実ですので。

 では、今言われたものを手配して参ります」


「お嬢様が作られたものを更に改良する場合があるから、仕入れは多目にお願いね、あなた」


 詳細な事柄は夫婦できちんと打ち合わせをしてくれるだろう。

 料理好きなジェーンの手が入ったクヮクオのデザートは今からとても楽しみだ。

 思い出したレシピがあればジェーンに片っ端から渡してもいいかもしれない。これからの食が一層豊かなものになりそうだ。


「あのアホ臭い見栄料理に比べれば美味いが、洗練されてるかどうかはまた別問題じゃからなぁ。

 そのあたりはジェーンに一任する」


「お任せくださいませ、お嬢様。

 これらの料理と、メイン料理、それと先程のダンダンコーヒーを出せば格好はつきます」


 こうして、新領主お披露目パーティのメニューはなんとか食べられるものでまとまったのだった。


「しかし、ジェーン。

 料理だけに関わるわけにはいかんぞ。もう一つ大仕事があるのだから」


「大丈夫よ……たぶん」


 大丈夫とたぶんの間に妙な間があった。

 しかもその間は、疑わしそうな目でシェリルを見ていたからに他ならない。

 なんなのだろうこの心配そうな不安そうな視線は。


「お嬢様…信じておりますわよ」


 お披露目パーティまであと数日。料理以外にも揃えなければならない重要なものがあった。



閲覧ありがとうございます。

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