6貴族流の食事
日付越えちゃいました…
貴族とは、見栄を張り、経済を回すことが仕事である。
故に、高価な食材をふんだんに使うのが、最高級のもてなしとされる。
と、最初に言い出した愚か者を爆破したくなった。
「なんじゃ、この料理は! 素材に対する冒涜じゃろ!!」
不味い、とは言わない。味わえばきちんと美味しくなるように心配りがされているのがわかるからだ。
しかし、これはどう考えても素材への冒涜だ。
「何故パペーニョをこんなに使う! 辛すぎて何を食っても痛い!
ウラム漬けを何故まるごと使う! 酸っぱすぎてむせるじゃろうが!」
隠し味として少量使うものを、何故か主役に据えて食べさせようとする。これはもう悪意の固まりでしかないのではなかろうか。
セバスとジェーンが不穏な空気を出していた貴族流の食事、とは、完食したら賞金が出る罰ゲーム系の食べ物のコース料理のことだった。
ともかく味付けが過多。激辛激甘激酸etc…一つだけでも凶器となりうる味の料理をコースで談笑しながら食べなければならないらしい。
「貴族の習わしですので。
お嬢様が本番でむせるなど言語道断。これから毎食このような料理を出しますので、慣れてくださいまし」
「いやじゃああああ!!!」
「いけません、他の貴族に侮られてしまいます」
「そもそも! わしが庶民じゃったことはどうせ誰しも知っておろう!
精一杯背伸びをしたところでどちらにせよ笑われるわ!」
シェリル必死の抵抗である。
思いつく限りの言い訳を並べ立てて回避しようとするが、セバスにも譲れないものがある。貴族としての様々な責務を放棄することは許されない。
「それでも、経済を回すためにお金は使わねばなりません」
「限度を考えろと言うておるのじゃ!
って苦っ!? おま、これクヮクオじゃろ!? 甘党のわしへの冒涜じゃ!!」
クヮクオとは、暖かな地方でとれるとてつもなく苦い実のことだ。輸送料で馬鹿みたく高い値段がつくのだが、加工次第では頑固ジジイもとろかす甘味になる。シェリルの前世時代ではそれなりに安価に楽しめたものだ。
ちなみに、ダンダンコーヒーとの相性が抜群に良い。
「もてなしの心として高価な素材を使わねばならんことはわかった!
だが、美味しくないものは出さぬ! ジェーンがなんとか食えるようにと心を砕いたのはわかるがそもそも使い方が間違っておるのじゃ!
美味なものを食わせて胃袋をつかむ作戦に変更する!
厨房へゆくぞ、ジェーン!」
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「同じく香辛料をたっぷり使うとしてもこれなら食えるじゃろう!」
ダメデスイケマセンと壊れた人形のように繰り返すジェーンを引きずって、シェリルが腕を振るって作ったもの。それはカレーだ。
様々な香辛料をたっぷり使うので、一皿がそれはもう高価になる。今は時間がなくて出来なかったが、これに上等な肉のスパイス漬けでも使えば更に値段は跳ね上がるだろう。
「確かに…か、辛いですけれど食べられます」
試食させたジェーンが驚愕の声をあげる。
そりゃそうだろう。前世では様々な人間に好かれている人気メニューだった。
「セバス! おぬしも食え」
「いえ、わたくしはちょっと…」
「わしに食えと強要したくせに自分は食わぬと申すか! 少なくともアレよりはマシじゃい!」
「お嬢様、申し訳ありません。夫は少々辛いものが胃にくる性質でして、なにとぞ…」
「わしが胃痛持ちじゃったらアレは免除されたんか? あん?」
「……いただきましょう」
可憐な美少女という設定が台無しになるような顔でメンチを切るシェリルに押され、胃痛持ちセバスも恐る恐るカレーを口にする。
「っっ!! ……確かに美味しいです」
それでも、本当に辛いものが苦手なようでそれ以降口をつけることはない。シェリルとしては美味しいことを認めてもらえれば良い。もっと言えばあのチャレンジメニューを食わされなければそれで良いので、これ以上追求することはなかった。
「じゃろう? ちなみにウラム漬けも入っておる。金額だけ見れば頭おかしいくらいになっとるんじゃないか?」
ウラム漬けとは、ウラムという木の実塩漬けにしたものだ。塩漬けなので塩味も強烈だが、思わず顔がシワシワになるほどの酸味が特徴である。
「コースを組み立てなければならないのでこの料理だけではなんとも言えませんが…すくなくともこちらを出すのはアリでしょう」
「サラダは…めんどくさいから揃えられそうな高級な草つめこんどきゃええじゃろ。スープは…辛酸っぱいのが作れそうじゃな。こっちも香辛料と…エビは手に入るか」
「えぇ、ヴァイルト領ではご存じの通り海に面していますので…今年も豊漁とのことです」
「うむ、ならば用意するのじゃ。届き次第わしが作ってやる」
頭の中からレシピを引っ張り出して考える。多少手順が違ってもジェーンに教えればなんとか改造してくれるだろう。
「あとはクヮクオを使ってデザート作成じゃ」
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