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4セバスとジェーン


「先程は世話になったな」


「いえ、当然のことでございます、お嬢様」


 目の前には執事服を着た初老の男と、同じくらいの年齢のメイド服を着た女性が一人ずつ。執事服の方は、先程会話に入ってきた人間だ。

 領地を治める人間にはそれなりの屋敷が与えられていると思ったが、それがこことは思いもしなかった。もしかしたらあの豚人たちはそのままここに住み着く予定だったのかもしれない。残念ながらここは厩舎ではないのだ。


「しかし…。

 もしかして、使用人はおぬしら二人だけか?」


「左様でございます、お嬢様」


「ふぅん…。

 大方ここの本来の主たちが亡くなったのは数年前で、唯一の傍流であるわしが一応の成人をするまでほっておかれでもしたのじゃろ」


 あの豚人たちが合法的に領地を手に入れるためには、この領地を治める貴族に依頼される、という形が最も外聞が良い。それを狙って多少の援助はしつつも、領地の経営は建て直せるギリギリのところで踏みとどまらせる

 もし、そうだとしたらあの豚人たちは腹芸は下手くそだが、領地経営の面では敏腕なのかもしれない。


「…よく、おわかりで」


「して、ぬしらは先代どのに後を託された有能な執事とメイド、といったところか?」


「有能かはわかりかねますが、お嬢様の身の回りのお世話であれば全力で努めさせていただきます」


「同じく…。お嬢様が非凡な方で正直安心いたしました」


 そう言って二人は小さく笑みを浮かべる。

 執事の方はセバス、メイドの方はジェーンと名乗った。二人は先代領主に仕えていた夫婦だという。

 現在、味方と言えるのはこの二人だけ。シェリルはといえば、領地経営など前世でさっぱり関わったことがない。


 それでも、やらねばならないのだ。


 あの豚人たちの思うように動くのが癪だったというのもあるが、何よりもシェリルの野望のためにはこの降って湧いた領地経営の話は必要不可欠だった。


 なにしろ、この辺りの生活水準はシェリルの前世よりも数段劣る。

 何が起きたのかはわからないが、文明が崩壊するような戦争なり魔力暴走なりが起こったのだろう。そこは良い。おいおい調べればわかることだし、あまり興味もない。


 問題なのはそんな文化水準ではいい男が育たない、ということだ。


 シェリルがこんなにも美少女なのだから、それに見合ったいい男でなければ物語のような大恋愛とは言えない。故に、シェリルは自分の結婚適齢期までになんとしてもいい男が育つ土壌を作り上げなければならないのだった。


「まずは現状を把握するのじゃ!」



●●●●●



「お嬢様が治める領地、ヴァイルト領はあまり特色のない平凡な土地でございます。

 これといった特産品がない代わりに、気候は安定しています。そのお陰で農作物は安定供給ができており、領民が飢えることは滅多にありません。

 また、領地の南側は海に面しており、塩や海産物もそちらで生産しております」


「うむ…特産品があればもっと潤うのじゃがなぁ」


 馬車で近隣の領地を視察がてら、シェリルはセバスからの報告を受ける。シェリルがこれから治めるヴァイルト領は特産品こそないものの、肥沃な土地に恵まれた一次産業中心の田舎町のようだ。

 ただ、セバスの報告によると近隣領地の中では、栄えている方らしい。とはいえ、シェリルの前世の文化水準には達していない。

 まず、魔法を動力とした様々な機器が一切ない。生活に使う基礎魔法であればそれなりに使うらしいが、機器として扱うとなると難しいらしい。

 魔法を使いこなせれば一生安泰と言われるくらい上位の魔法使いはレアだそうだ。

 わざわざ公言することでもないが、周囲に合わせて魔法という便利なものを使わない選択肢はない。健全な領地経営のためにも、これからも使える手段はバンバン使わせてもらう予定だ。


 セバスの報告に耳を傾けながら、町行く人間を観察する。

 やはり、いい男があまりいない。磨けば光るかもしれないが、どうしてもダサさに目がいってしまう。芋っぽいのだ。それは女性も同じである。


「特産品もそうですが…まずは、新領主お披露目のパーティをしなければなりません」


「なんじゃそれは…必須なのか?」


「貴族として当然の勤めでございます。例え本当は懐事情が苦しくても近隣の貴族を招き経済を回さなければなりません」


「んーまぁよかろう。その辺りの貴族の機微はわしは詳しくないので任せる」


 もしかしたら、近隣貴族にいい男がいるかもしれない。

 出会いの場をむざむざ潰すことはないだろうというのが本音である。


「では早速帰宅後、貴族流の食事に慣れていただきます」


「…なんじゃ。不穏な雰囲気じゃのう」


 食事に慣れる、とはどういうことだろう。金がある貴族の食事は胃にもたれる、ということだろうか。それならば今から胃薬を調合しておくのだが。

 しかし、セバスは含みを持たせたまま多くは語らなかった。


「…実際に食していただければわかるかと。

 では、そろそろ屋敷に戻りましょうか」


「!? ちょっと待つのじゃ! 馬車を止めよ」


 セバスの不穏な空気は一旦置いておいて、道の端に気になるものを見つけたシェリルは馬車を止めさせて降りる。

 農地の脇に、山のように積まれた雑草があった。


「これは…」



閲覧ありがとうございます。

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