12見た目は美少女!中身はBBA!な名探偵
「皆様、まず私がこのカップに触れた際、何かを入れたりなどの怪しい行動を起こしていないことはご覧になっていましたね?」
そこを確認すると、全員からの了承がとれた。
「では…セバス!」
「はい、お嬢様」
唐突に逃げたりしないように、犯人と思われる男の足にさりげなく重力魔法をかける。いきなり走り出そうとすれば見事にスッ転ぶだろう。
そんな小細工を仕掛けている間に、セバスが全員に向けてある紙を見せた。
「こちらの紙は、皆様もよくご存知のドクダメシ草の汁を吸わせて乾かしたものです。一般的な毒であれば、鮮やかな色に変わります。
では、失礼します。カップを…」
セバスがカップの中の紅茶に紙を浸す。少ししてから紙を引き上げると、その紙は綺麗な青色に染まっていた。
変わった色が紅茶の色や黄色であればまだ言い逃れ出来たかもしれないが、これではどうしようもない。それでも、男は認めようとはしなかった。
「そ、そんなはずはございません。わたしがご主人様のために心をこめて…」
「では、今、この場で飲んでくださらない?」
そう言うと男は凍りついた。自分がいれた毒を飲めと言われて飲める人間がどれほどいるだろうか。
「そもそも、だ…。
儂は紅茶を所望してはおらん」
毒を盛られた貴族が項垂れながら呻くように声をあげた。こういった場所に付き従う執事というのは、おそらく長年仕えてくれた友と言っても差し支えのないような人間だろうことは想像に難くない。
彼は、ほんの数分の出来事ですっかり老け込んだように見えた。だが、貴族の責務としてきちんと落とし前をつけるように話し出す。
他家の祝いの場をぶち壊した。それは紛れもない事実なのだから。
「確かに儂はコーヒーは得手ではない。しかし、ダンダンコーヒーであれば飲めると思っていたところだったんだ。しかも二日酔いに効くとなればなおさら…。
だが、儂の好みをよく知るお前が…気を効かせてくれたのだと、ばかり…」
命を狙われた貴族が、静かに嗚咽を漏らす。
「誤解です、旦那様! この者がわたしをハメようと…」
男が言い訳を述べている間に、シェリルは花瓶をつかみ、男の胸元に押し当てた。
花瓶は言い訳のしようもないほどに光輝いている。
「胸元を気にしていると思ったのでもしやと思いましたが…内ポケットには何が入っておりますの?
よければお見せしてもらえないかしら?」
男の顔面が蒼白になる。もはやこれ以上は必要ないだろう。
「これ以上は別室を用意させますので、そちらで…。ジェーン」
「はい、お嬢様」
もしもの時のために雇い入れた用心棒たちを呼び、その貴族とそれに連なる者たちの案内をジェーンに任せる。
その後微妙な空気にはなったが、シェリル側の落ち度は全くないまま食事会は終了した。
万が一のために作った魔道具が、思ったよりも早く役立ってしまった。
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「はぁー…めんどくさかった」
「お疲れさまでございました。
お見事なご采配でしたよ」
その後、あの花瓶は希望する貴族に持ち帰らせた。本来ならば古代アーティファクトなのでそれなりの値段がするが、お近づきの印、ということを言い含めて。何かと物騒な貴族社会では重宝されるだろう。
もちろん、これを恩に感じてくれればそれで良いし、もっと欲しいと言われれば次回からは高値で売りつけるつもりだ。
実際は、古代魔力アーティファクトなどではなく、前世が大賢者であるシェリルが、屋敷にあった大量の花瓶に魔術をかけただけの日用品であるが、それを知るのはこの場にいる者だけだ。
「ダンダンコーヒーと、毒物を検知する花瓶。これだけでも十分売り物にはなるでしょうな。特に花瓶は、これから貴族の間で情報が駆け巡ることでしょう」
「対応はめんどくさいから任せるぞ」
「了解しました」
いつもの着心地の良い地味な服に着替え、ソファでぐったりとしているシェリルにセバスは満面の笑みを浮かべる。
その表情から、今回のお披露目は大成功だというのがわかった。
「最初は、年端もいかない少女でしたので、どうなることかと思っておりましたが…」
「おぬしら二人、わしがどうしようもない愚か者であったらスタコラサッサと逃げるつもりじゃったろ」
「……」
セバスとジェーンは無言で微笑み返す。
無言の肯定というやつだ。しかし、シェリルに責める気は全くない。というか、いきなり14歳の上司が現れたら誰だって逃げるだろう。逆に二人はよく踏みとどまったと思う。おそらく先代が何事かを遺言でもしたのだろう。
「ま、わしでもそうするさ。
ところで、今のところわしは合格じゃろう? なんてったって可愛いからな」
「そうですね。お許しいただけるのであればこのままお仕えさせていただきとう存じます」
可愛いという部分は華麗にスルーされたが、それ以外は満足のいく回答だ。
「わしとしても細かい調整をしてくれる者がいた方が楽じゃ。頼んだぞ」
「ですが、お嬢様。僭越ながら申し上げます」
「なんじゃ」
いつになく真剣な表情のジェーンに、シェリルは姿勢を正した。
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