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10いざ、お披露目


「本日はお集まりいただきありがとうございます。

 この度領主を務めることになりましたシェリルと申します。ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、平民の出ゆえ~~」


 セバスに叩き込まれた長ったらしい口上をつらつらと述べる。

 屋敷に招かれたのは十数人の近隣領地の貴族たちだ。もちろん、豚人貴族夫婦も招いている。顔に「失敗しろ!」とでかく書いてあるので、大変わかりやすい。なんなら彼らはちゃちな妨害くらいならしてくるだろう。

 そういったものの対策も、セバスやジェーンとともに入念に行った。

 貴族特有の厭らしい妨害行為は、貴族の機微に詳しい二人がいなければ思い付くこともなかっただろう。大賢者とはいうが、どちらかと言えばシェリルは(魔法)拳でねじ伏せてきた武闘派である。


 長ったらしい口上と、それぞれの貴族のご挨拶が終われば、基本的にあとはセバス任せだ。

 この日のための人手も雇ってある。できれば外部の人間はいれたくなかったが、世話人が二人だけだと何かと不都合も出てくる。そこで身元が確かなものを臨時で雇いいれた。ついでにちょこーっと幻惑魔法をかけてシェリルの不利益になるようなことは行えないようにしている。

 少なくともこれで使用人の落ち度がシェリルの落ち度、ということはなくなった。


(それにしても…)


 集まった面々を見てシェリルはこっそりとため息をつく。


(ごっついだっさい正装にあぶらぎった体を詰め込んだような者が多いのう…。

 大恋愛は全く望めそうもなさそうじゃ。やはり領地内の文化レベルを引き上げて若いいい男を育て上げる方が早そうじゃのう)


 年齢を重ねていればいるほど、物事への柔軟性はなくなっていく。

 事実、年配の人間ほど本日の料理やシェリルの服装に眉をひそめる者が多かった。その都度、セバスの口上が入り納得したようだが。


(嫌じゃ嫌じゃ。わしより若いくせに凝り固まりおって…。

 そもそもわしの服装もこの料理も500年前に流行しておったんじゃから「若者の破天荒」なんちゅう言葉は当てはまらんのじゃがのう)


 お披露目パーティの準備をする傍ら、シェリルはこの世界の歴史を少しだけ調べた。そこでわかったのは、前世の自分はおよそ500年前の人物であり、その当時の文化遺産はことごとく消滅している、ということだった。

 まれに古代遺跡と呼ばれる場所から、現代では考えられない高度な技術の道具が発掘されるとか。


(ルルンバとかただの全自動掃除機なのにのう)


 とある資料で見た用途不明の古代魔術道具とかいうものはルルンバという掃除機だった。他にも生活を便利にする道具の数々が全て用途不明として展示されていたりする。あれらは魔力を流さねば動かないし、そもそも武器ではないのだがどうも現代の人間は使いこなせないらしい。

 魔法が使えるだけで、それなりに重宝される人材というのがこの周辺での常識のようだ。


 そんなことを考えつつも、つつがなく食事会は進行していく。

 料理の方も最初は「こんなものを出すなんて」と言う態度をとった者もいたが、とにかく味が今までの貴族料理と比べ物にならないので文句は引っ込んでいった。おかわりを所望したものや、レシピを欲しがったものもいるくらいだ。

 おかわりは快く承ったが、レシピは秘蔵ということにしておいた。うまくすれば当家の評判をあげる足掛かりになるかもしれない。


 逆にダンダンコーヒーは材料を暴露しても、他の領地では手に入りづらいので勿体ぶらずに披露した。ついでにセバスがきちんと薬効をしかるべき機関に依頼して調べさせたらしく、貴族たちを唸らせていた。

 やはり、毒消しや二日酔い消しというのはいつの時代も需要があるものなのだろう。


 動きの早い貴族などは、購入したいと言い出したが、そこは少し焦らす。代わりに、ダンダンコーヒーの素は心ばかりのお土産品として希望者には持ち帰られるように手配した。


 ちなみに、豚人貴族は全く破綻しない食事会に悔しそうにしつつも、美味い料理だけは心底楽しんでいた。当然の顔でおかわりもしている。このまま妨害行為を働かずにいてくれればいいのだが。


 そうして食事会は最後のデザートに移行する。

 ジェーンとあーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返してつくった自慢の逸品だ。見た目はただの茶色い焼き菓子。見るものが見ればクヮクオを使ったデザートだとわかるらしい。あからさまに「あんな苦いものをデザートに」「しかし、今までの料理はどれも美味しかった」という期待と不安の入り交じった表情を見せている。


「こちらが本日最後の品になります。

 クヮクオを使用した温かなケーキです。ナイフをいれると中からクヮクオのソースがあふれますので、そちらを生地にのせてお召し上がりください。

 また、一度お出ししたもので恐縮ですが、こちらは大変ダンダンコーヒーと合いますので、お出しさせていただきます。ダンダンコーヒーがお口に合わなかった方はメイドにお申し付けくだされば紅茶をご用意いたします」


 このケーキはジェーンの力作だ。シェリルから聞いたイメージからほぼ完璧に再現した腕は本当にかなりのものである。

 貴族たちの驚く姿が目に浮かぶようだった。



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