1 プロローグ~女賢者は転生する~
新連載はじめました。
「ふぅ、生きている間になんとか間に合いそうじゃな…」
人里離れた狭い小屋の中で、今まさに老婆が息絶えようとしていた。
彼女は、この国では知らぬものはいないという偉業を成し遂げた大賢者だ。
女の癖に、という台詞を彼女に向けて言ったものは全て吹っ飛ばされたという伝説を持つ。
彼女の活躍のお陰で魔法技術はもとより、女性の社会進出が100年分は進んだ、と後の歴史学者は分析したほどだ。
そんな彼女は、華々しい経歴に似合わずたった一人で黄泉への旅路に向かう途中だった。
「いやいやいや、死なぬからな!? 絶対死なん!
そのために人を遠ざけて秘術の研究に挑んできたんじゃから!」
大賢者は魔方陣を描き終え、どっこらしょとその陣の中央へ腰かける。
これで、準備は整った。
「さて、わしの最期の魔力を使って転生の秘術をおこなうぞ!」
彼女にはこの人生の中で一つ、死んでも死にきれない悔いがあった。
それは…
「どんな手を使ってでも美少女に転生し、物語のような大恋愛をしてみるのじゃ!」
大賢者は、彼氏いない歴イコール年齢のバリキャリだった。
そもそも、彼女の若い頃は「女は嫁いで子供を産むのが幸せ」とかいう価値観がまかり通り、花嫁修行以外の研鑽を積もうと思ったら白い目で見られる時代だった。
実際に、彼女に向かって「女の癖に」と言った男は散々な目に遭わせてきた。もちろん、背中を撃ってくるような女にもそれなりの報復はしてきた。
そのせいで気がつけば結婚適齢期はとうの昔に過ぎ去り、近寄ってくる男は挑戦者ばかりと成り果てた。恋愛できるような相手などこれっぽっちもいなかったのである。
余談だが、彼女が気づかなかっただけで稀に「勝負に勝ったらプロポーズするんだ」と修行していた男も若干名いたのだが、そのことに彼女は気づけていなかったりする。また、彼女自身ずっと「私より弱い男なんて願い下げ」と豪語して憚らなかったせいもたぶんにある。
魔法使いだろうが戦士だろうが、挑戦してきた全ての人間をちぎっては投げちぎっては投げしてきた人生だった。
しかし、それも今このとき限り。
来世の大賢者は、物語の主人公にふさわしい美少女に生まれ変わり、物語のような大恋愛をすることだろう。
「…残り魔力が少ないのがちいと不安じゃが…魔力の回復を待ってたらお迎えがきてしまうわい。
さっそく、美少女に生まれ変わるとするかの」
来世に望むのは、一も二もなく美少女。できればそれなりに裕福で生活に苦労しなければなおよし!
それと大恋愛…は、相手があることなのでどうしようもないが、それは自分で勝ち取るのじゃ!
そんな気概を持って大賢者は命を賭けた転生魔法に挑んだのだった。
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