おやつの時間です
さて、おやつの時間ね。
壊れたパーツは技師であるポールに修理方法を伝え、カオリは水道局を後にした。
ここからは魔導士の仕事ではないわ。
中央公園はとても広い公園で、緑が豊か。
子供が遊んだりジョギングをしたり、恋人とピクニックを楽しんでいたりと
市民にも人気のある公園だ。
特に、桜の樹がたくさん植えてあり、春はきれいな桜の花を咲かせ、夏は木陰を作り、おやつにはとても心地の良い公園だ。
今の時期、桜はつぼみの状態で桜の枝を濃いピンクに色づかせている。
自宅にはよらずまっすぐ中央公園に向かい、今、カオリは中央公園の庵でダージリンティーを飲みながら、レーズンバターサンドをほおばっている。
「おいちぃ」
カオリの顔はにこにこだ。
「カオリ様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「いただくわ、とってもおいしいお茶ね。」
「ありがとうございます。親方、いえ、市長からの差し入れです。それと、本日は助かったと、おっしゃっておりました。」
そう話してくれるのは、アルの古い友人でカーク市の市長補佐官である、ホノカさんだ。
ホノカさんはアルといつも一緒にいて、アルの補佐をこなしているスーパー補佐官だ。
だって、あのアルと一緒に仕事が続けられる何て稀有な存在よ。
カオリが水道局からまっすぐに中央公園に行くと、ホノカさんは庵にカーペットを敷き、テーブルには桜色のテーブルクロスを敷いて、出迎えてくれた。
アルが憎めないのは、こういうところね。気遣いがとてもうれしいわ。
「本日のお仕事はこれにて終了」
そう言って、カオリは頬にかかる黒い髪を指で耳にかけなおしながら、ティーカップを唇へと運ぶ。
白く、透き通るような白い横顔が、つぼみを湛えてピンク色に染まる桜の樹を前に浮かび上がり
公園に白銀の花を一輪咲かせた。
~エピローグ~
自宅へと戻ったカオリは、事務室の机で頭を掻きむしっていた。
机に向かうカオリの後ろには、3人の男が腕を組んでソファーに座り、カオリを待っている。
カオリは、報告書を書いていた。
男たちはカオリの報告書を受け取りに魔導府から来た政務官たちだ。
水道局のシステムはカオリの魔導士としての能力と知識により、故障の原因を突き止めた。
あとは、誰にでもできる修理がのこるだけ。それもすでに終わっていることだろう。
しかし、魔導士の仕事は報告書を書くまで終わらない。
ここで、報告書にカオリが調べた情報を書き留めなければ、同じ問題の解決にまた魔導士が必要となってしまう。
魔導士は3人しかこの国にはいないのだ。
「あーん、遊びに行きたいー。字を書くのは無理なのよ。だってほら、書いても書いても紙が埋まらないのよ。これは何かの魔法よっ。ねぇ明日にしません?」
後ろを振り返るが、3人の男たちは、同時に首を横に振る。
「あ~ん、もうむりぃ。」
まだ1行しか書いていない。
ため息をついたカオリは、少し窓の外を眺めた。大きな窓から夕陽が射し込んでいる。
レースのカーテンが赤い太陽光に当たり、その光を優しい乳白色に変えている。
このカーテンも普通のカーテンではない。
”このコ”もカオリのお気に入りだ。
ふとカオリは報告書に目を戻し、勢いよく報告書を書き始めた。
やればできるのよ私だって。
男たちは安堵のため息をついた。
この後、精巧なおやつの挿し絵が付いたカオリの「本日のおやつ絵日記」を渡されて、絶望することになるとは、まだ誰も気が付いていない。
カオリの一日は結構長い。
これが天才美少女 天馬カオリのお仕事の一日。
本当は休日なのに、仕事で終わったけれど、今度はもう少しゆっくりできるといいですね。