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黒曜団の占い師

カーク市の西方には工業地帯があり、多くの鍛冶屋、材木屋、鉄や銅、金銀のインゴットを精製する工場が立ち並ぶ。


日夜、工場の煙突からは煙があがり、白や灰色の煙を吐き出している。

その、工業地帯の更に西側には、鉄や銅、金銀の採掘できる鉱山があり、今も採掘され続けている。


しかし、すでに採掘され尽くして閉山している鉱山も多くある。

閉山した鉱山は主にやや南側に集中しており、その一帯は暗く静まり返っている。

その旧鉱山地帯には、坑内採掘のために開けられた横穴がいくつもあり、その周りには、作業者が寝泊まりできるように作られたバラックが小さな廃村を作っていた。


今、有る一つの閉山した鉱山に、再び明かりが灯り、静かな廃鉱山に騒がしく人が行き来している横穴があった。


横穴は大きく曲がりくねりながら、下へ下へと緩やかな傾斜で掘り進み、奥深くから鉱石を採掘する音が鳴り響いている。


「おい!もっと岩を早く運びだせ!ここはもっと掘り進めるぞ!休憩まではまだまだだ!」


一人の大柄な男が、20人程の鉱夫に大声で指図をしていた。


「「へい!」」

鉱夫たちは、汗を流しながら掘り出された岩を運び出している。


「ちょっとまて!」

大柄な男は鶴橋をもって岩を打ち砕いている男達を静止させ、岩肌へ駆け寄っていった。


大柄な男は、こぼれ落ちた岩を探り、小さな黄色い光る欠片を拾って、目を細めた。

薄っすらと口元が釣り上がっている。


「この辺だ!!このあたりをジャンジャン掘り進めろ!」

「「へい!!」」


大柄な男は、黄色く光る欠片を改めて見直して、もう一度ニヤリと笑った。

「魔法石だ…。おい!ヤギ!おれは頭領に報告に行く、ここは任せたぞ!」

「へい!サージ様」


サージと呼ばれた大柄な男は、身長は200cm程もあり丸太のような太い足と腕をしている。

太くゴツゴツした指で光る欠片をつまみ、革の小さな袋にしまいながら坑道を登っていった。


坑道の外には護衛が2人立っている。サージを見ると護衛達は敬礼をした。


「おい、これを持ってろ。」

サージは黄色い石を入れていた袋を護衛の一人に手渡した。


「は、どうされましたか?サージ様」

「あ?ちょっと用を足す。」


そう言って、サージは坑道の入り口の脇に向かって小便をし始めた。

護衛は、黙って顔を背けた。


「ふぅーぃ。新月の夜は薄暗くて気味悪いぜ。」


サージが一息ついていると、背後で護衛の叫び声が聞こえた。


「あ!こら!ちょっとまて!!」

「どうした!!」


サージが後ろを振り返りながら声を掛けたが、その瞬間目の端に白い鳥が映った。

だが、一度出し始めた小便は中々止まらない。


「サージ様!カラスか鳩かわからねぇけど、鳥に袋を持っていかれました。すみません!!」


サージが小便を終え、護衛を問いただした時には、護衛がただひたすら謝るばかりで、預けた袋がなくなっていた。どうやら鳥が袋をさらっていった様だ。


「くそっ、まぁいい、また石取りに坑道に戻るのも面倒だ、このまま報告に行く。気にするな、鳥のイタズラだ。」


サージはそう言って護衛を慰めて、明かりの灯っているバラックの方へと向かって行った。

バラックの扉の前でサージは一瞬止まった。中から話し声が聞こえてくる。

扉をノックして、声を掛けた。


「サージです!入ります!」


サージは返事を待たずに扉を開けた。

中には、一人の髪の長い女と黒いフードを目深に被った頭領が居た。


「サージよ、ドアをノックしたら返事を待たんかい。」

頭領が細い声で、そう、それは病に侵された老人様な声でサージをたしなめた。


「すいやせん、頭領!」

「まぁいいよ。」

頭領は、シワの深い痩せた手を挙げてサージに合図した。


「そうだ、ちょうど良いから紹介するよ。ナタリーさん。」

頭領は髪の長い女に向かってそういうと、サージを指差した。

「この体の大きな男は、我が黒曜団の副団長のサージだ。よろしく頼むよ。腕は歴代ナンバーワン、この図体でも頭も切れる。」


そう丁寧に紹介されて、サージは少し照れながら挨拶をした。

「サージです。先程は失礼致しました。以後、お見知りおきを。」


「サージ、こちらの女性は、私達の子供の投入先を教えてくれた占い師のナタリー・テイラーさんだよ。魔法石の鉱山の場所もこの人のお告げだ。」


「はじめまして、ナタリーです。改めて、魔法器具やマジックアイテムを狙った盗賊団の中でも最も栄誉有る黒曜団へお迎えいただき、感謝申し上げます。」


そう言うと、ナタリーという女は黒い指輪をはめた手を差し出した。

黒曜石を嵌めた黒塗りの指輪は、我が黒曜団員の証だ。

その女の肌は気持ち悪いほど白く透き通っていて、まるで絹のように滑らかに部屋に掛けたランタンのオレンジ色の明かりを受けてなお白く浮き上がるほどのしろさだった。

目は丸くクリクリとしていて、その表情さえ普通の女のものであれば、きっと可愛らしい少女に見えたただろう。

黒く長い髪は腰の下まで届き、その瞳と同じ真っ赤な髪留めで束ねられていた。


そう、この真っ赤な瞳と凍るような冷たい表情が、この美しい少女から可愛さを奪っていた。


「宜しくな。鉱山からはまだ魔法石の鉱脈が続いて出てきている。」


サージはナタリーの倍ほどもある手を差出し握手をしたが、その時、ひどく冷たい手に一瞬身を硬くした。


なんだか、薄気味悪い。そういう物を見るようなサージの表情に気がついたのか、ナタリーはサージを見つめてニコリと笑った。

だが、その冷めた笑みが余計にサージの表情をこわばらせた。


ドアをノックする音が部屋に響き、サージは手を離して誰何(すいか)した。


「ナタリーの部下でナイアスと申します。報告に上がりました。」


サージはナタリーの顔を改めて見た。あまり見たくは無いが。


「部下のナイアスです。」

サージの視線に対し、そう答えたのでサージは扉開けた。


扉の前にはナタリーとよく似た、冷たい表情の髪の長い女が立っていた。

似ている。姉妹か?

その後ろに、サージの部下が一人立っていたので一緒に中へ入れた。

その部下は、今日、ルーデンドルフの工房に向かわせたチームの一人だ。結果が気になる。


「ナタリー様ご報告です。」

ナイアスという女が先に話し始めた。


「魔導書の入手経路を辿って私の足取りを嗅ぎつけた男がいましたので、始末しました。見たところシーフかレンジャーでした。」

そう言って、右手にはめた黒い指輪を見せた。


黒曜団の指輪の様に見えるが、黒曜石が嵌められていないのが妙だ。


「ご苦労。」

「はい」


「ルーデンドルフはどうした!?」

サージが部下に問いただし始めた。


「サージ様、申し訳ありません。どうも同業に盗賊団らしい連中に妨害されて取り逃がしました。ホーキングが追跡をしています。」


「ん?同業?」

「はい、手練が2人程居て、ハンマー使いのロックもやられました。それでルーデンドルフは工房の隠し通路から川沿いに逃げたようです。ホーキングが追跡を始めたのを確認しました。」


「ロックがやられただと!? おい、そいつらの特徴は?」

サージの表情が険しいものとなる。


「はい、全員同じ服を着込んでて、肩に龍のエンブレムなんかつけてました。」


「あら、私が始末した男は狼のエンブレムでしたわ。」

ナイアスが口をはさんだ。


龍と狼。まさか、AGRの連中か?

「おい、その龍のエンブレムの男は、バスタードソードを使うキザっぽい奴じゃなかったか?」

「あ、そうです!なんか騎士みたいに馬上からバスタードソードを使って襲ってきたんです!」


「そいつはAGRのリュウだぜ!」

サージは叫んで、報告した男を蹴り飛ばした。

「うぐっ」

丸太の様な足で蹴り飛ばされた男は、ドアに背中をぶつけ、その場で倒れ込み咳き込んでいる。

その男にサージは罵声を浴びせる。


「この馬鹿野郎!!よりによってAGRの野郎どもに邪魔されてきたのかよ!」

サージは顔を真っ赤にしながら床をドズッドズッと踏み鳴らし、声を上げた。


やがてサージは頭が冷えたのか、頭領に向き直り話し始めた。


「頭領すまねえ、邪魔してきたのはAGRの野郎どもに間違いない。あいつら魔導府にとっ捕まって解散したはずだが、生き残りが居たみたいだ。」


フードを被った頭領が、ひっそりと笑い声を上げ始めた。息が抜けるような、ヒューヒュー、という薄気味悪い笑い声だ。


「サージよ、慌てなくて良い。ふふふふ、AGRか、懐かしいじゃないかい。3年前はすっかりお世話になったからねぇ、あのクソ野郎のアルバートめ。紅の館の借りを返させてもらうよ。」


頭領は声を震わせながらそういった。


「ナタリーさん、ホーキングの追跡をお願いする。」

「はい、お任せください。ホーキングに持たせた魔法石の足取りを占います。」


そう言って、ナタリーは荷物の中から金属の丸い球体を取り出した。複雑な模様が彫り込まれたその球体に手をかざして目を閉じた。


「南南東の方角、距離80キロ。」


ナイアス地図を広げ、地図上に印を付けた。

そこは、港だった。


「どう言うことだ?奴ら船でどっか行く気か?」

サージはナイアスを疑い深く睨みつけた。


「サージ、占いを信じなさい。魔法石の採掘場所だって占っただろう?それより、ルーデンドルフを連れておいで、ホーキングが奪ってきた金糸では数が少ない。今日までに出来上がった装備は使って良いぞ。魔法石もな。」


「は、それでは。」


サージはドアを勢いよく開けて叫んだ。

「おい!お前ら!!狩りだぜ、仲間集めろ!装備の使用許可もでた。黒曜団復活狼煙を上げるぞ!!」

先程蹴り飛ばした部下に命令する。

「「「おおお!」」」


と大きな返事が返ってくる。

20人ほどの男たちの声が鉱山に鳴り響いた。


「ふっふっふっ、今度の魔法石は3年前のとは訳が違うぜ、待ってろよアルバート!!」


そうつぶやきながら部下を引き連れて坑道へと入っていった。


鉱山地帯は灯りが少なく、月の掛けている新月の今夜は薄暗い。

薄暗い鉱山の上空に一羽のハヤブサが音もなく舞っていた。

徐々に高度を上げたハヤブサは南南東へ向けて静かに飛び去っていった。


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