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魔導士のお仕事

カオリは、小型の丸テーブルに桜色のテーブルクロスを敷き、お気に入りのベーグルとヨーグルト

─ ヨーグルトには甘いはちみつで漬けたレモンを細かく切って入れる─ を並べ席につく。


白いブラウスに、タイトな黒い革のパンツに履き替えた少女は、背筋正しくとても行儀が良い所作で食事を準備し終えた。


少女が食事をするには広すぎる程の広いダイニングで一人で食事を始める。


カオリは程よく温めたベーグルを一口かじると、少しずつ目が覚めていくのを感じて、表情が和んでいく。


べーグルは予め部屋の片隅にある調理器ですこし加熱していた。

温めたベーグルは香りが増して寝ぼけた脳を程よく刺激してくれる。


「マリアンナさんのベーグルおいちぃ。」

カオリは自然と表情が和んでいく。


このベーグルを温めたのは、魔力を蓄えた調理器具。見た目はフライパンのようだけど、食材を載せてボタンを押すと調理器具がベーグルの表面温度を感じて程よく温めてくれる。


この世界に魔法使いが絶えてから、このように魔力を使用する器具貴重な物で、さらにこの様な器具を作れる人は少ない。

カオリは、その少ない人の一人であり魔導士と呼ばれている。


魔力を操る能力のない現代の魔導士は、単に魔力を感じることができるだけで、正確には道具の力を無くしては魔力を操ることは出来ない。

しかし魔導士と呼ばれ大切に扱われている。


なぜなら、魔力を感じ取ることができることで、太古に作られた魔法器具を模倣して作ったり、修理することができるから。

魔力の恩恵を導き出す人。魔導士と呼ばれている。


魔導士はこの国には3人しかいないため、一般人とは区別されている。つまり保護されている。


だから、このベーグルを温めた調理器具も、実は大変貴重な品だ。


「うん、このコもう安定したわね。」


”このコ”はベーグルかパンかエッグかを判別して最適な調理をしてくれる賢いコよ。カオリオリジナルの魔法器具の一つよ。


「なんて私得。」


ヨーグルトはミルクで割ってあり、飲みやすい。

甘酸っぱいよりも少し甘い寄り。


いつもの食事を終えると、下の階へ降りる。

この家は3階建てになっており、幅の広い階段で

3階の居住フロアから2階のオフィスへ移動する。


階段の手すりは樫の木磨いて作られた立派な造りで、この屋敷が随分と古くから使われていることが窺える。


大きな仕事用のデスクには、昨日はなかった書類が3つ増えている。

仕事かしら?


でも今日は休日、仕事は忘れて買い物に行くのよ。

miumiuの新作のお財布を買うんだもん!

そう心でつぶやき、頭を横に振る。


「そうだ、手紙をついでに出していきましょう。」

デスクの前に寄ると、昨日書いた手紙とその横の3つの書類から青い帯のついた書類だけを手にとり、階段を下りた。


さて、出発。


1階へ降りると、朝のメイド服を着た小柄な少女が、優しく声をかける。

「おはようございます、カオリ様」

「おはよう、マリアンナさん、出かけるわ。」


マリアンナさんは、私の身の回りを見てくれるメイドさん。

16歳なので、私とそんなに離れていない。

美味しいおやつを作れる超優秀なメイドさんよ。


「本日もお仕事ですか?少しお休みになってはいかがですか?」

「今日はお休みよ?お買い物にいくの。」

マリアンナさんはどうして仕事に行くと思ったのかしら?

少し首を傾げ、自分の身なりを見直してみる。


モナリザのフリル付きブラウスはどう見てもお出かけ用の洋服。

「あ、」

いつのまに、片手には手紙と一緒に、書類をもっていた。

表紙には、「依頼書」と書かれている。


いつの間に、、、体が勝手に動いていたわ。

この歳にしてすでにワーカホリックなのかしら。


まあいいわ、ついでだから、私の仕事のお話をするわね。


まずはこの依頼書を開いてみましょう。

3部の書類から、急用を意味する青い帯がついた一つを手にとったのは無意識だった。


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HD.5043年3月12日

題名:カーク市街地水道局のトラブル。


昨夜未明、カーク市街地水道局の中央配水棟から水が流れない問題が発生。

カーク市街地の半数の家庭に水の供給がとまる問題が発生。

速やかな復旧が必要であり、白銀の魔導士様のご尽力を賜りたい。


カーク市長 アルバート・フォックス


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簡単な依頼文だわ、でも急がなければ問題になるわね。


この国、神聖共和国のアール国では水道が発達している。

この水道は、大昔に魔導士たちが強力な魔法で作ったシステムで動いている。そしていつまでもきれいな水を供給することができている貴重な公共インフラの一つだ。


このきれいな水のおかげで、医療や工業が発達して人々の寿命も伸びた。平均寿命は180歳ほどだ。


「きれいな水を必要としているのは、主に水道局に隣接する薬師館と工業団地だわ。

でも長引けば一般家庭でも困る事になるわね。」


そうつぶやくと、マリアンナさんを呼んだ。

「マリアンナさん、」

「はい、表に馬車をご用意いたしました。」


私をよどみ無く仕事へと導くこの感じ、さてはこの書類を手紙の隣に置いたときからマリアンナさんの仕事は完成されていたのね。


まったく、どこまで働かせるのよーー!この国は!


私はこの国の魔導士として魔導府や内閣府からの依頼に基づいて、魔法に関する研究と調査を請け負っているの。


魔力を感じる事が出来るのは魔導士だけ、この国には3人しかいないの。

だからとっても忙しいの。

でもね、私は魔法器具を作ったり治すのが好きなの。

こういう仕事、そう現場仕事には助手が居ないと、一人ではとても疲れるのよ。


「もう…」


カオリは何か言いかけたが、その独り言を思いとどまって飲み込んだ。


「いいわ、早く終わらせてきましょう」

カオリはマリアンナさんに手を添えてもらい、スラリと馬車に乗った。

その時マリアンナさんが小さなハンカチに包まれたものを手渡してくれた。


「ありがとう」


これはおやつね。開けなくても匂いでわかる。

大好きなレーズンバターサンドよ。


やった!


すこしウキウキしながらマリアンナさんに笑みを向けたところで馬車は走り出した。


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