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鷹と白いハヤブサ

ワシの名前はホーキングや、鷹やけどな。

ワシはワシのことをワシ言うてるけどワシは鷹や。

まぁええわ。


今日も上司の命令で偵察にきとる。

上司の命令は簡単でな、ある男の跡を追ってるんや。

なんでかって?

上司の命令やからや。決まっとるやないか。


そう、独り言をボヤきながら青空をゆっくりと舞っているのは、翼長220cmのオオタカである。


ホーキングが眼下を見下ろすと、大きな緑の豊かな敷地が見え始め、馬車が猛スピードでその敷地にむけて走っているのが見えた。


これは、白銀の魔導士邸にシング・ウエールズが訪れた日の鷹の話である。



オオタカのホーキングが飛んでいるのは高度約1200m付近、この鷹よりも高く飛ぶことができる鳥はまずいない、だからこの高度はホーキングの世界だ。


ホーキングは高空を舞いながら地上を見ている。暖かい日差しで気持ちの良い上昇気流サーマルを大きな翼に受け、優雅に舞っている。彼の目はこの距離からでも地上を走るウサギを鮮明に捉えることが可能だ。ウサギがどちらを見ているか、その眼差しの向きまで見分ける事ができる。

しかし、彼は今、ウサギではなく1台の馬車を監視している。


その時、ふと、ホーキングは背筋に寒気を感じた。


なんや、だれかに見られてる?嫌な予感がするな…

ホーキングは方角をやや西へ変え、念のため高度を少し上げ、1500m付近から監視をする。


「今の視線はもしかして、誰かに見られてたのか?

屋敷の方、もしかして…って、おいおい、ここは魔導士の家やないかー。まずい、領空侵犯しとる。今のは魔導士やろ。うちの上司もずるいなぁ、目的地くらい教えておいてくれよ。」


ホーキングは進路を変え、屋敷の敷地上空より南側へ外れ、少し遠巻きに監視を続けた。


監視を続けているが、馬車から降りた男たちが屋敷の南門にある建屋に入ってから特に動きは見られないまま、10分が経過した。

その時、建屋から白い鳩が飛び立つのが見えた。一瞬何か光る。


「白い鳩か、平和の象徴やな。今日も平和な一日やなぁ。え?こっちくるの?」


白い鳩はおおよそ、鳩とは思えない速度で急上昇してくる。100m、200m、300m、400m…

いや、鳩はその辺までやろな。

500m、600m、700、800m…


異常を感じたホーキングは、監視をあきらめた。

ゆっくりと高空を舞っているホーキングは、その白い鳥を再度観察した。この高度まで上昇できる鳥はまず居ない。


白い鳩、足に白銀の指輪リングをはめている。


「あかん!魔導士の鳩や!」


ホーキングの目は間違いなく、これは鳩だと認識していた。しかし、ホーキングの周りに冷たい空気が流れヒヤリと背筋をなぞった、もう一度鳩を見やると、そこで翼を勢い良くはばたかせているのは、一羽のハヤブサだった。


ホーキングはすでに事態を理解していた。魔導士に見つかった。


南西の風、この一帯は上昇気流が発生している。ホーキングはソアリングをやめ、上昇気流の領域の外を目指して西へ進路を変え、そして追い風を捉えられるように次第に北へ進路を向けていた。

上昇気流で上昇するソアリングから速度を上げて飛翔する準備に入る。


ホーキングの判断は正しいが、少々遅かったようだ。白いハヤブサは上昇気流を捉えて、急速に高度を上げ始めていた。

上昇気流の少ない領域へ移動すれば、この高度へ上がってくることはできないだろう。という考えは外れ、そのハヤブサは既に1200mまで上昇している。


上昇速度だけをとれば、翼長の長いホーキングの方が上であるが、ハヤブサの方が小回りは利く。

だが敢えてホーキングは、ハヤブサが自分と同じ高度まで上がってくるのを待った。

この上昇気流の切れ目でこの高度を目指すなら、ハヤブサの速度が落ちるはずだ。その隙に、こちらは降下して速度を稼いで逃げ切る。


「?なんやて!?」


ホーキングの予想は再度外れた。


ハヤブサは、高度1200mのまま、ホーキングよりも速い速度で北を目指し始めた。

このままでは、ホーキングは高度を下げる隙を待ち伏せされてしまう。


「やるな!お嬢ちゃん!でもワシをなめるなよ!」


ホーキングは右の翼を折りたたみ、急旋回して進路を北東に向ける、体は地面に向けて降下を始めた。

左の翼は気流の壁をこするようにして、体を急旋回させた。

尾羽をねじれさせ、上昇気流を切り裂いて素早く真下に向けて方角を変た。そして、すべての羽根を折りたたみ急降下を始めた。


速度は徐々に上がり、弾丸となってハヤブサの脇をすり抜けていく。


ホーキングが脇をすり抜けるよりも、やや早く、ハヤブサも翼を折りたたみ急降下を始めた。

ホーキングの後を追う。


先に降下を始めたホーキングの方が速度が少しだけ早いが、ハヤブサは急速に速度を上げ、徐々に同じ速度に並び始めた。急降下ではハヤブサの方が速い。


2羽の距離は12m

「へ、伊達に50年生きとらんで、歳の候ってやつを見せてやんよ、お嬢ちゃん!」


ホーキングは直角に地面へ向けて降下を続ける。

800m、700m、600m…速度は、280kmに達している。


この速度で地面にかすりでもしたら、翼は折れて二度と飛ぶことはできないだろう。

進入角度は直角、ここから水平飛行に移るには高度は80mは必要だろう。

しかし、ホーキングは進路を変えない。チキンレースをするつもりだ。


300m、200m

速度は350kmに達し、この速度では後ろを見る余裕はない。


100m、80m、限界に近い。だが進路は変えない。50m、30m

ホーキングは両の羽根を一瞬広げ、方向を変え北東に向け水平飛行に移った。

肩の骨にズシリと思い空気の圧力がかかる。220mある翼は、大きく空気を囲い込み、その一瞬でホーキングの飛翔方向を変えた。ブレーキは最小に抑え、さらにホーキングは加速をする。

強力な筋力と、痛みに耐える精神力が必要なホーキングの飛翔技術は、普通の鷹ではまねをできない。


この大きな鷹の持つ筋力と、訓練された飛翔技術によってのみなしえる高度な飛翔技術に加え、

おおよその鷹は本能によって、この危険な行動は許されない。


「ドヤ、お嬢ちゃん!」

ホーキングはドヤ顔で一瞬振り返ると、そこには、白いハヤブサが5mほどの距離まで迫っていた。


「なんやて!お嬢ちゃんやるねぇ、そんなら、これはどうや!」

ホーキングが向かっているのは、深い森。

この森には森林が密集している。


今のホーキングの速度は180km程度、しかし、この速度で森に入れば必ず木にぶつかる。

なぜなら、この密集した森には、220cmの幅の空間など存在しないからである。

それは、後ろをついてくる、200cm近いハヤブサにとっても同じであろう。


ホーキングはさらに速度を上げ森へ進入した。

森に入ると木々が折り重なり、速度を落とし枝を躱さなければ長大な羽根はまずぶつかる。


しかし、ホーキングは魔法を使った。


ホーキングの体は速度を落とすことなく、木々をすり抜け、その進路はぶれることなく真っすぐに森の北を目指している。

その様は、まるで鷹の幽霊が森の中をすり抜けるかの様だ。


いや、ホーキングは魔法を使ってはいない。

これは、高度な飛翔技術によるものだ。


枝の間にわずかに生ずる隙間を、長大な翼を一瞬縮めて身をかわし、次に、右のつばさを畳んで幹の脇を通り過ぎ、そのついでにはばたき加速する。また、体を縦にして幹と幹の間をすり抜け、体を元に戻しさらに枝の間をくぐりまだはばたく。


その目は、目的地の森の北端の出口を目指して、1cmとぶれることはない。

さらに、ホーキングはその長大な翼を巧みにはばたかせて、速度を上げる。


森の北端まで、約300mの距離を全く速度を落とすことなくすり抜けた魔法は、ホーキングの技術と経験と勇気による賜物だった。


「どや!」

ホーキングは二度目のドヤ顔で後ろを振り返ろうとした時、尾羽に痛みが走った

「キーー!」

まるで鳥のような叫び声をあげたホーキングは、自分の声に驚いた


「なんや、まるで鳥やないか!」

自分で突っ込みをいれつつも、振り返ると、そこにはホーキングの尾羽を嘴でつまんで引き抜いているハヤブサが居た。


ホーキングは翼を大きく広げ、高度を上げた。

逃げることをあきらめた。


この状況で高度を上げて速度を落とすことは既に逃げる術を失うことを意味する。

この高度は既に鷹よりも小回りの利くハヤブサの有利な領域だ。


その証拠に、ハヤブサは先に高度を上げたはずのホーキングの真上に既に陣取っている。


「参ったよ、お嬢ちゃん、ってお前はレナばばあの所の鳩ポッポ!?ワシと同い年やないか…

わっ!いたたいたた!ごめん、ごめ、ごめんって…」

「誰が同い年よ、私は47よ!失礼ね!」


四捨五入したら一緒やろ…でも謝っとこ。


「ごめん、間違えた。」

「あんたが何しに来たかは知らないけど、さっさと内閣府おうちへ帰りなさい。今度覗いたらハゲタカにするわよ!」


「わかった、わかった。帰るよ。」

おーコワ、ハゲタカは嫌や。

それにおばはんに見つかったんじゃ、仕事はここまでやね。仕方ないよね。できることはやったよ。ワシは。鷹やけど。


そうブツブツとつぶやきながら、鷹は進路を西へ向けて羽ばたいた。

「ほな、さいなら。」


白銀の指輪リングを付けたハヤブサは、ホーキングから毟った羽根をくわえて、白銀の魔導士邸へ向けて飛び去って行った。



~~~


内閣府副官房長官秘書のオズワルドは苛立っていた。


「くそう、魔導士の館に派遣した鷹は追い返されてきた。なんでだ?まったく役に立たない鷹だ!」


鷹は、窓際に留まっている鷹は首をかしげながらこちらを見ている。


「よし、お前はもういい!次の仕事だ、南の島嶼地帯にある拠点に、この手紙を届けろ。急げよ。」

そう言って鷹の足に手紙の筒を括り付けた。


鷹は、少々羽根が乱れているようだった。

「お前、もうすこしきれいに毛繕いしろよな。まったく、もう年かな?この鷹は。

まあいい、行ってくれ。」


そう言ってオズワルドは鷹を解き放った。


南の島嶼地帯の一角には、オズワルドが指揮する海賊隊の基地がある。

手紙には、「5日後にそちらに行く、出迎えよ。」

と書かれている。


そろそろ行って、報酬の分配をしなければな。しかし、随分と稼いでくれたもんだ。

そう言って、口元を緩めたオズワルドは、窓をゆっくりと締めた。


この後、オズワルドは事故により亡くなったと聞いている。

鷹のホーキングは、島嶼地帯へ伝書の為に出た後、内閣府へは戻っていない。

鷹にも、上司を選ぶ自由があったようだ。



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