旗艦ソードフィッシュ誕生
ソードフィッシュ号は帆を畳んで静に海に浮かんでいる。
島嶼地帯まではあと20海里の地点で、ソードフィッシュは錨をおろした。
船内は慌ただしい。
「おう、ギルバート船長さんよ、例の作戦を考えたぜ」
「アル、茶化すのはやめてくれ、出来たかい?」
ギルは30名の船員のうち21名を自分の息の掛かった手下で固めていた。
船長、操舵手、副船長以下9名は海軍の中でもエリート組でギルはこの作戦から外すことにした。
だから、今船長はギルとなっている。
AGRを立ち上げたのは俺で、こんな風貌なんで親方とかオジキとか呼ばれていた。
ギルのやつは頭が切れるんでいっつも作戦は二人で考えた。
こいつは、俺でも肝を冷やすようなスレスレの作戦を考えてきやがる事があったが、おれはそんなスリルのあるギルが面白くてAGRで一緒に暴れまくった。アール国の盗賊連中にも”やばい奴ら”といわれていた。
それも紅の館に盗みに入るまでだが…
あそこで俺はしくじって捕まっちまった。
俺の家族とも言えるコイツらを連れて逃げ、AGRを継いでくれたのがギルだ。
感謝してるぜ、ギルバート。
今、作戦室では元AGRのメンバーに、海軍出身の新顔も加わり20数名の新たなAGRがこれから始める”仕事”を聞くために集結し始めていた。
アルは懐かしい空気に感慨深くも、紅の館のこと思い出していた。
あの、玲奈のクソババアめ。
俺が市長なんぞに収まっているのは、魔導士玲奈から強制されたからだ。
魔導士玲奈の"紅の館"に盗みに入った俺たちはとんでもない事件に巻き込まれ、挙げ句に魔導士玲奈に捕まった。
俺たちの悪行からみて、当然打首のはずだが、玲奈のクソババアめ、おれの家族とも言えるAGRを見逃す代わりにおれに孫娘を押し付けやがった。今カーク市は白銀の魔導士の支配下にある。
まぁ、カオリは良い娘だがな、カオリは。
今じゃカーク市全体があの娘の庭みたいなもんだぜ。
魔導士の自由が利くように、市は法律も人員も変えていった。
ギルが船員に話を始めた。
「みんな聞いてくれ!本日 21:00時をもって、本船ソードフィッシュ号をアール国海軍から接収し”我々”のものとなったー!」
”オオオォォォ-ー!!”
と歓声が上がる。
ギルは皆を見渡し満足げに笑み浮かべると、真顔にもどり話をつづけた。
「本日より我々、海軍技術研究所所属 船舶技術隊はアール国海軍を脱退し、新生AGRことAGP(アルとギルの海賊団)として再結成をする!!」
”オオオォォォ-ーーーーーーー!!!!!”
ひと際大きな歓声が船室内に響く。
悪くない演説だ。みんな乗ってきたぜ。
ん?ちょっとまてよ、何で俺の名前が入っていやがる!?
「我々AGPの最初の獲物、本船ソードフィッシュ号をAGPの旗艦とする!!そして、次なる目標について我がAGP代表アルバート艦長より説明を受ける!!皆よく聞いてくれ。」
”オオオォォォ-ー!!親方!”
”親方ー!”
”オジキ!!”
様々な歓声が上がる。
おいおいおい、まじかよ、俺を代表?艦長にするだと?聞いてねぇ、嵌めやがったなギル!
俺はまだ市長だぜ、これじゃカーク市公認の海賊団が誕生ってことになるじゃねぇか、馬鹿野郎!
アルは、ギルをにらみつけ、文句を言おうとしたが思い直して口をつぐんだ。
今、俺はひな壇の上だ、まずはこの流れに乗って作戦を決行しなきゃならん。しかし、これが終わったら問いただすぜギル。
いや、、、まてよ。カーク市公認の海賊団か、、、。ちょっとおもしれぇと思ったぜ、今。
「おう、みんな久しぶりだな。これから俺たちの作戦をいうぜ。」
アルはドスの聞いた声で話し始める。
「この船は俺たちの最初の獲物となったが、これだけではお宝は得られねぇ、海賊団にはお宝がなきゃ恰好つかねぇ、そうだろ!?そこで、海賊のお宝を我々が奪う!それが今日の作戦だ。みんな座って聞いてくれ。」
アルは、皆を席に座らせた。
「俺たちの次の獲物は、2つだ。最近この海域で幅を利かせている海賊団のアジト。それと、魔導士の羅針盤だ。ここまでで海賊の奴らが襲った商船は12隻に上る。この中には、たんまりお宝があることはすでに計算済みだ。」
アルは説明をつづけた。
「だが、戦略ポイントは羅針盤の方だ。昨日のバウンティ号を襲ったやつらの動きを覚えているか?バウンティ号を取り囲んでから水平線の先へ消えるまで、そうかからなかった。この船が回頭するのに多少時間がかかったとはいえ、奴らの動きは、ソードフィッシュの位置を知っていたと見て間違いない。」
ギルが一つの丸い真鍮の球を持ち出して机の上に置いた、両手で抱えるほどの大きさだが、中は空洞なのか軽々と持っていた。
「しかしこれは、想定の範囲内だ。なぜなら、奴らはこの」
そう言ってアルは、真鍮の球に手を置いて話を続ける。
「”魔導士の羅針盤”を持っているからだ。」
船員がざわめく。
「この羅針盤は水平線の向こうにいる船の位置を知ることができる特別な魔法器具が組み込まれているらしい。こいつがどういう経緯で奴らの手に渡ったかはいま問題じゃない。
俺たちは、こいつを奪い、奴らの本拠地を制圧し、お宝と船を接収する!」
まぁ、こいつがどうやって海賊の手にわたったか、それを探るのは俺の仕事だ。AGPとは別件だぜ。
「奴らの戦力は、船4隻、総勢100から200人が相手だ。毎度先陣を切って出てくる船は決まっているところを見ると、魔導士の羅針盤を積んでいるのは1隻とみていい。そいつを先に襲撃して、奴らの目をつぶす。やり方はいつもの通り、体当たりだ。」
船員は皆楽しそうにアルの話を聞いている。
頼もしい仲間だ。
「夜が更けるころ、この島嶼海域南迂回航路に一隻の商船が通る予定だ。そいつを襲撃する為の斥候として、魔導士の羅針盤を積んだ船が出てくるだろう。今夜俺たちのいる位置は奴らの想定アジトに対し風上に陣取っている。ソードフィッシュの神速の行き足で真正面から突っ込む。俺たちの斥候隊はすでに出ている。信号が上がったらそこへ向けて侵攻だ。大砲の準備と移乗攻撃の準備をしてくれ。」
「おう!」
「イエスサー!」
掛け声を上げて、船員たちは準備に取り掛かった。
「アル、お疲れ。大砲を見せるよ。この艦の大砲は面白いんだ、アルも気に入るぜ。」
「話をはぐらかすなよ、これが終わったらゆっくり聞かせてもらうぜ、AGPのことをよ!」
そう言って、ギルのわき腹に肘を突き立てた。
ギルは身をかわし損ねて苦しそうに呻きながらも、にっこりと笑って、船の先端の方へとアルを連れていく。
~~
「これがこの艦の大砲だよ。」
「まじか、でけぇ。こんな細い船だから大砲は積んでねぇと思っていたが、船首に積んでいたのか。これ一門だけか?」
「そうだよ。もともと戦艦じゃないからね。それに、こいつの砲台は特殊なんだ、船が揺れても照準がぶれにくいようになってる。おんなじ仕組みは海賊たちも持ってるよ。」
「なるほど、全部筒抜けってことか。」
「そうなんだ、俺の調査では、ルーデンドルフのお坊ちゃんが怪しいと思っていたが、先日締め上げたところ違ったよ。」
「ギルよ、そっちの調査は俺が引き継ぐぜ。まずは、侵攻準備だ。」
陸に上がったらホノカを動かすか。
くそう、こんな事ならホノカを置いてくるんじゃなかった。
あいつはこういう時役に立つ。
しかし、ホノカもいなくなると、さすがに魔導士様にばれるか。
二人は甲板にあがり、空を見て合図を待った。
1時間ほどして、島嶼地帯の方から2条の狼煙が上がった。合図だ。
アルがふと、空を見上げると、白い鳥が宙を舞っていた。
まさか、カオリの奴の鳩じゃないだろうな、今ばれると厄介だぜ。アルが額の汗をぬぐう。
目を凝らして見上げると、それは鷹のような形をしている。ハヤブサか。
びっくりさせやがる、まあ鳩はこんな沖まで飛んでこれねえからな。
今は作戦に集中するか。
アルは、2本の刀を鞘から抜き出し、刀身を確認する。
久しぶりに腕がなるぜ。
空に浮かぶ月はまぶしく輝いている。
こういう日は月の魔力が強く降り注ぐ。
ソードフィッシュは錨を揚げ、灰色の帆を張ると、急速に加速を始めた。
その速度は、おおよそ帆船の常識的な速度を超えている。
「ギルよ、こいつはどれくらい速いんだ?」
「ふふん、海軍には秘密にしていたんだけど、今日の風なら19ノットは出るぜ。」
ギルは胸を張って答えた。
まじかよ、海軍の2倍以上か。
ソードフィッシュ号は波を静かにかき分けながら、まだ見えない海賊船に向けて滑るように走りだした。




