海賊事件
オフィスの一番大きな書棚には、背表紙の高さが40cmもある大きな本がぎっしりと並んでいる。
書棚は天井までの高さがあり、北側の壁に3重に重ねてぎっしりと並んでいる。蔵書の数は膨大だ。
紺色の背表紙のその本をカオリは1冊取り出して開いた。
その本には細い線で図が書かれている。
技師であればそれが魔法器具の設計図であることがわかるだろう。
カオリはいくつかの設計図を本の留め金をはずして引き抜き、机に並べた。
「うーん、ここが少し細すぎるわね。これではこの国の匠でも鋳造も削りだしもできないわ。」
髪の毛のように細い線で描かれているその図面には、様々なパーツが正確な寸法で書き移されている。
カオリは片手に持つペンで、カオリが新たに作っている図面にパーツを書き写している。
手に持っているペンは、この髪の毛よりもさらに細い線も書ける優れものだ。
ペン先に秘密があり、魔法器具が使われている。しかし、魔力の供給は普通の人のもつ微弱な魔力で足りるため不要だ。ペン先がつぶれるまで細い線を描き続けられる。インクが多めに出たり、かすれることもない。
筆記用具のブランド「天馬堂」は世界中で販売されている、有名ブランドだ。
少々値段は張るが、一生使える文房具として人気が高い。
カオリの仕事は、政府からの依頼で、この国で使われている魔法器具の発展に寄与するためには働いている。これは請負仕事だ。
今カオリが書いている設計図も政府からの依頼に対して、カオリが提案した解決方法を実現するための魔法器具を作るためのものだ。
「この中の魔力を一度取り除いても、魔導力が動き出すと、この端っこで漏れて損失が出るわ。漏れた先がコンジットの外では損失量も計算できないし、これではオーブの中のノイズを下げられないわ…。難問ね。
レナ様の報告書にあった票游負荷損はここで問題になるのね。」
カオリはうなりながらも集中している。
魔導士の報告書はとても貴重だ。カオリは書くのが嫌いだが、この報告書のおかげでカオリの研究も進む。
感謝はしているが、できるだけ書きたくない。
「白銀線の8000番手でもこれ以上の精度はでないわね。うーん、白クマちゃんうまくできたかなぁ。今度の15000番手ならいけそうなんだけど、いつ納品かしら、遅いわねぇ。」
しかし、今時海賊なんて流行らないと思うのよ。
カオリは魔導府からの依頼書に再度目を通す。
”今年に入り、被害が10倍に膨れ上がっている海賊問題について、魔導士様の助言を請う。”
短い依頼文に海賊被害の分厚い事件調査簿が付属している。
カオリの提案した対策は次のようなものだ。
海賊被害に会う理由の一つとして、海賊船の性能が向上し、民間の船が逃げきれないこと。足の速い船であっても、先に海賊船委発見された場合、操舵技術の高い海賊船につかまってしまうこと。の2点が原因である、と一つ解を決めた。
それに対し、海賊船の早期発見と、効率の良い航路をとって海賊船を振り切れる操舵補助機能を民間船に搭載すること。これがカオリの提案だ。
さらに、この機能を海軍の艦船に搭載することで、海賊を効率よく駆逐することができるであろう。
と言いうものだ。
馬車のシステムの応用でこれはうまくいくと思うのよ。
でも、距離の問題があるわね。水平線の向こうにいる海賊船の魔力を感知して動かすのは、相当難しいわ。
「うーん、ちょっと休憩よ!」
今度の天馬堂の製品は、文房具ではないらしい。
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白銀の魔導士邸はいつも静かである。
魔導士様の仕事いつなにが行われているかわからない。最良の環境を提供するために使用人が魔導府から派遣されている。
ところが、今、白銀の魔導士邸は少し変化を始めた。
カオリは、1階のリビングを開けることにした。
大きな両開きの扉は、誰にも使われずに長い間閉ざされていたため、蝶番がキリキリと音を発てて開いた。
カーテンは閉ざされて、隙間から射し込む光に埃が照らされ、一条の光そのものがカーテンのように、空間に模様を作っている。
「うーん、ちょっと埃っぽいわねぇ。」
「大掃除ですねっ。私たちにお任せください!」
マリアンナとシトラが元気に答え、さっそく窓を開け、埃を払い掃除にとりかかった。
1Fは本来シトラの担当で、マリアンナはカオリの専属であることから、主に2Fを担当している。
「大きなテーブルをいれて、一緒に食事がとれるダイニングを作るわ。」
カオリは既に設置されている6人掛けのダイニングテーブルを不満そうにみて両手を広げた。
「これくら~~っい、のテーブルを入れましょう!」
「そんなに大きなテーブルだと、10人は一緒に食事ができますわね。」
「家族も増えたことだし、明日からは、ここがリビングで、こっちがダイニング!一緒に食事をしましょう」
カオリはなんだか楽しくなってきた。
カーテンはそうだわ、お気に入りのあのコをここに連れてきて、シャンデリアは少し薄暗いから
もっと明るいものが必要ね。
マーナは広いリビングを走り周り、ソファーの上で飛び跳ねながら埃を吸い込んではクシャミをしている。
カオリはマーナを見つめて、食事のレシピを考え始めた。
マーナは育ち盛りだから、これからは食事も規則正しくとらないとね。
料理は、朝と夜はカオリの担当として、お昼とおやつはマリアンナさんにお願いすることにした。
私は、お昼はいないことが多いものね。
今まで、カオリは自分で作っている。しかし、普段は朝しか食事をとらない。
それ以外はおやつで済ませてしまう。
専属メイドのマリアンナは食材をカオリに提供し、少々手の込んだ料理の時に手伝う程度だった。
「さて、テーブルを調達してこよっと。マーナ、手を貸してくださる?」
「うん!」
「はい、これはおやつよ、クルミの実にチョコをかけた甘いナッツよ。」
「わおー。ありがとう!」
カオリはマーナを連れて部屋を後にした。
こうして天馬家のリビングは見事に完成し、白銀の魔導士邸は少し賑やかになった。
晩御飯のレシピを考えるカオリの顔は明るくてどこか自慢げだ。
きっと、新たな調理器具を思いついたに違いない。




