ホワイトグリフォン
カオリは夢を見ている。
背中には白銀に輝く月の光を背負って、空を飛んでいる。
夜の澄んだ空気が気持ちいい。
広げた両手の先は、鋭い音を立てて空気を切り裂き、わずかに羽根を震わせている。
羽根?
鳥のように空を翔ぶカオリは、眼下に一瞬光るなにかを見つけた。
高度は高く、すぐ頭上を雲が流れる。カオリの体は左へ反転し急降下を始める。
あまりにも急速な反転と上がる速度で、翼の先には白い雲が尾を曳いた。
やがて両手をちじめてまっすぐに真下へ降下を始める体は、風の波によりわずかにわななく。
しかし、軌道は安定し滑るような速さはさらに加速していく。
ん?何か見えた。
「きゃんっ!」
カオリの体がビクリとはねて、目を覚ました。
「船…」
カオリは無意識につぶやいた。
「なんだろう、船って?私何を言っているのかしら。」
透けるような白い肌は汗をにじませている。
ふいに、シェードが開けられ、朝日が射し込んだ。
カオリの寝間着は大きくはだけて、白い肌があらわになっている。
体の汗に朝日があたりその刹那、白銀色の光を部屋の中に放つ。
「うんん…、だれ?」
シェードを開けたのはマーナだった。
「おはよう、お姉ちゃん。大丈夫?具合悪い?」
マーナが心配そうにカオリの顔を覗き込む。
「ううん大丈夫よ。マーナはよく眠れた?」
「うん。」
マーナは明るく返事をした。
そっか、昨晩はマーナと一緒に寝たのよね。
マーナはまだ不安定だったので私が一緒にいたのだけれど、この様子であれば問題はなさそうね。
でも、やっぱり保険は必要かな。
「今日は、マーナにお守りをあげるね。」
「でも、まずは朝ご飯にしましょう。」
カオリは、寝間着姿のまま特製のフライパンを取り出し、料理を始めた。
ベーコンを2枚フライパンに乗せると、ベーコンは音を立ててあぶらを滲ませ始めた。
男の子はやっぱりベーコンとか好きよね。
ベーコンの上に鶏の卵を2つ割って入れて蓋をした。
「鍋、鍋、あっ、そういえば今は使えないんだっけ。」
鍋は今は修理中だっけ。
じゃあ、とっておきの”このコ”ね。
カオリは小さめのケトルを取り出して中に、バター一切れ、玉ねぎを切って入れ蓋をした。
そんな間にも、フライパンは程よい火加減で卵を美味しそうなベーコンエッグへと調理していた。
ケトルのほうも、いつの間にかオニオンスープが完成している。
「お姉ちゃん、おいしい!」
「ありがとう、マーナ」
相変わらず不思議なカオリのキッチンであるが、このままではマーナはこれが当たり前だと思って育ってしまうのが問題といえば問題か。
~~
食事を終えてオフィスにおりると、マリアンナさんが郵便物をもってオフィスへあがってきたところに鉢合わせた。
マリアンナさんは二人を見て目を丸くしていた。
「あら、お二人ご一緒でしたの?まぁまぁ」
「あの、マリアンナさん変なことはないのよ?少し寂しそうだったから、ね。」
マリアンナさんが驚くのも無理はないかも。私の部屋には基本誰も入ることは許していないからね。
それはマリアンナさんでも。
でも、入れないのは別に変な理由ではないのよ。魔法の知識のない人が勝手に触っては危ないものが結構あるのよ。
だからここは立ち入り禁止。
表向きは、乙女のお部屋だからって言ってるけどね。
「そうだ、マリアンナさんこれ見てくださる?」
「はい、何でございましょうか。」
「新しい仕事服よ。どぉかしら?」
カオリが着ていた服は、タイネックの白いブラウス、透明な輝く糸で白い羽根の大きな翼の刺繍が施されている。膝上丈の長さのライドグレー色のプリーツスカートは、ハイウエストでカオリの細い体をさらに引き締めて見える。
形は昨日のスーツとほぼ同じでこのスカートにも、白銀の刺繍が施されている。
「私が作ったの!似合うかしら?」
「ええ、とっても、すごくかわいらしくて、きれいですわ。でも少々スカートの丈が短くないかしら?お仕事中気が散りませんか?」
そう、よく気がつくわねマリアンナさん。
「フフフッ、よくぞ気が付いてくれました。」
カオリは得意げにそう語ると、
「見てて!」
軽く地面をけってジャンプした、小柄な身体がフラリと重力を失ったかのように宙を舞う。カオリは軽く2メートルほどジャンプして宙を舞った。
「まあ、カオリ様!スカートが」
「うわー、すごいやお姉ちゃん!」
二人は別々なことに驚いている。
カオリはほんの少しゆっくりと着地したが、スカートはなぜかまくれない。むしろ、スカートは風の力に逆らって、カオリの体にそっと巻き付いて下着が見えるのを防いだように見えた。
「ね。すごいでしょ。このスカートは私の味方なのよ。」
マリアンナさんは少しあきれた表情うかべたが、嬉しそうに拍手をして褒めてくれた。
わかってくれたのかしら、このコの可愛いところ。
「本当に素敵なスカートね。でも、仕事服として、その、大丈夫なのかしら?カオリ様を守れるのかしら。」
マーナは詳しいことはわからないが、カオリの見事なジャンプに興奮して、無邪気に手をたたいている。
「ふふ、細工は流々仕上げを御覧じろ。だってね、レナ様から頂いたあのお洋服はちょっと物騒なんですもの、私は少し違うと思ったの。Blueもお気に入りだけど、このコも私のお気に入りよ。」
そう、私も自分で身を守る手段を選びたいと思ったのよ。
レナ様のお洋服はもうそろそろ卒業よ。
カオリは何でも自分で作りたい質のようだ。
レナおばあ様は世界一の魔導士だったわ。
小さい時に私の身を守るため、色々な物をくれたのを覚えている。
ミッドナイトブルーの仕事服”Knight of Blue"もその一つね。
きっと、レナおばあ様は私がとても危険な目に合うと予感していたのね。
カオリは"Knight of Blue"が主人を守る光景を一度だけ見たことがある。
「カオリ様、その素敵なドレスはなんと仰いますの?」
「うーん、そうね」
まだ決めてないのよね、
カオリはふと今朝の夢を思い出した。
「ホワイトグリフォン。新しいお友達よ。」
マーナが拍手で答える。
この子もすっかりなじんだわね。
「ところでマーナ、あなたにプレゼントよ。これをいつも身に着けていてね」
カオリは、棚の中から一つの指輪を取り出し、マーナの小指にそれを付けた。
リングの内側には昨夜カオリ彫った文字が書かれている。
"Mánagarmr・W・Tenma"
「あなたの心が乱れないようにするおまじないが入っているの。これであなたの血の騒ぎを少し抑えることができるわ。大人になってコントロールができるようになるまでは、はずさないようにね。」
「うん、わかった。。」
そう言ってマーナは指輪を眺めてニコニコ笑った。
プレゼントは気に入ってくれたようだ。
その後、マーナに二階の空き部屋を与えて、カオリはオフィスで作業に取り掛かった。




