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ライカンスロープの森

「うん、やっぱり晴れたわ!」


カオリは満足げに空を見上げた。

空は快晴、気温は温暖、まるで春のような暖かな空気が馬車の窓から流れ込む。


「きもちいい。」


馬車のなかでは灰色の髪の少年がカオリの淹れたりんごジュースを美味しそうに飲んでいる。


「マーナ、ジュース美味しい?」

「うん。」

カオリの問いかけにコクリとうなずき、返事をする。


マーナは父親のシングとの別れを惜しみ、しばらく出発が遅れたが、母親が一緒だと理解するとおとなしくカオリについてきた。


「何も遠慮する必要は無いわ、私はマーナのお姉さんよ。これから一緒に暮らすの。宜しくね。」

どこまでも優しいカオリにマーナは徐々に態度を軟化させて、今ではカオリのおやつを半分こして食べさせてもらっている。


「どお?マリアンナさん特製のビスケットよ。」

「おいちぃ」

「あら、カワイイ笑顔が出来るのね、良い子良い子。」

カオリは満面の笑みでマーナの頭をナデナデしている。

マーナは頬を赤くしながらも、カオリの顔を見上げている。


カオリの身長は145cmほど、小さい方であるが、マーナはカオリよりも一回り小さい。

まだ10歳の少年は、茶色い瞳をクリクリと動かして馬車の外の景色を楽しみ始めた。


程なくして馬車は白銀の魔導士邸へ到着した。

南門をくぐると白い鳩が馬車の窓に留まった。カオリの伝書鳩だ。嘴にはなにか茶色い羽根を加えている。

よく見ると、それは鷹の羽だった。


「あなたもいい子ね。」

カオリは羽を受け取ると、鳩の嘴をこちょこちょと撫でてあげる。


馬車は敷地の中央にあるカオリの居宅であるパレスを通りすぎ、奥の森へと入っていく。

森の中は静かで、時々鳥がさえずり、カオリの来訪を歓迎している。


森の中に明るく光る場所に馬車は停車した。

「降りるわよマーナ」

マーナを伴って馬車を下りる。


光って見えたその場所には、大きな桜の樹が一本立っていた。大地に広く根を張り巡らせ、その枝は大きく広がり白い桜の花を満開にして森の中を明るく照らしていた。


「マーナ、ここの森にはあなたの祖先が住んでいたグレイウルフの森の木々も植えてあるの。この桜はこの森の長老よ。ここにお母さまは眠るの。あなたもご挨拶なさい。」


マーナはウォーーーンと長く吠えた。

そこには、少年はおらず、カオリの背丈ほどの大きな灰色オオカミ(グレイウルフ)が立っていた。

「わかるのね。よかったわ。」


~~


マーナの母親を埋葬したあと、カオリは新しい家族だと、マーナを邸宅の皆に紹介した。

誰も驚くことはなく、マーナは皆に迎らえた。

白銀の魔導士邸では間々あることだ。


そして、カオリは今お風呂に入っている。


「マーナほら目をつぶって、頭流すよー」

カオリはマーナ頭をごしごし洗い、お湯を流してあげる。

マーナは恥ずかしそうに俯きながら従っている。


「あらあら、カオリ様も頭を流しますよ、目をつぶってください。」

「キャッ、ん~~。」

マリアンナがカオリの頭にお湯をかけて泡を流す。

「もう、マリアンナさん急に」

「ふふふ」


カオリがマーナを洗い、マリアンナがカオリを洗っている。

「こら、マーナまだ終わってないわよ。」

「う、まだ?」

マーナは今にも逃げ出しそうだ。


「ほらおしりも洗うのよ。後ろ向いて立ってちょうだい。ん?」

「いや、いいよおしりは…」

マーナは両手でおしりを隠している。

「あらあら、照れちゃってるのね。かわいい」

そう言いながらも、カオリは容赦しない。両手をつかんでおしりをむき出しにすると、石鹸のついたシルクの布でごしごし洗い始める。


「あれ?これは何かしら?あざ?」

おしりには、新月の形に白いあざができていた。

あ、これって。


「もうー、それは、お姉ちゃんが昨日叩いたからだよー」

マーナは恥ずかしそうにおしりを隠して振り返り、おしりをカオリから隠そうとした。


「キャッ!マーナ、急にこっち向かないで(> <)前を隠しなさい!」

カオリは顔を赤くして、目をつむった。


隙あり、とばかりにマーナは湯船に逃げ込んだ。


「まあまあ、元気な姉弟ね。ふふ」

マリアンナさんに笑われつつ、今度はカオリが体を洗われている。

「あんっ、マリアンナさん、くすぐったいわそこ…」


湯船から顔を出して、マーナが二人の様子を警戒してみている。


「でも、さっき”お姉ちゃん”って言ったわね。」

「そうね、言ったわね、ふふふ」


二人はなんだか楽しそうだ。


白銀の魔導士邸に一人の家族が増えた。

ワーウルフの一種グレイウルフ一族の末裔 マーナガルム・ウェールズ。


彼の血はグレイウルフの祖先の霊達により呼び覚まされ、ライカンスロープとしてこの世に生れた。

現代に生きる唯一の純血のライカンスロープである。


「ところで今日は報告書を書かなくてもよろしいのかしら、カオリ様」

「いいのよー。だって面会状も依頼書もなかったんだから、あれはただのピクニックよ。」


カオリは得意げに言って湯船につかった。


「ふ~、きもちぃぃ」


これにて百鬼夜行の章はおしまいです。

ここに書ききれなかったことは、あとで別な章に書こうかと思います。

いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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