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獣の襲撃

カオリとシングは馬車の中でお茶を飲んでいる。

この馬車は揺れない馬車で、お茶を飲むのにも適している。

馬車には据付の湯を沸かす魔法器具があり、いつでもお茶を淹れることができる。


今日は、カオリがシングのためにお茶をいれた。

レディーのたしなみね。


「とてもおいしいお茶です。魔導士様にお茶をいただくなんて光栄です。」

「ビスケットも美味しいわよ。」


ビスケットはカラメルが蜜と一緒に生地に練りこまれ、シナモンの風味つけで焼かれたものだ。

クッキーと呼ぶ地方もあるが、アール国ではこのようなクッキーをビスケットと呼んでいる。


カオリも一口頬張る。

「ん、おいしいわ。」

「ところで魔導士様、私の家族は無事救われるでしょうか?」


「そうね、むしろ町の人々を案ずるべきではなくて?シング殿」


「そ、そうですね。ですが、」

ドン!!という衝撃とともに、馬車がやや傾き、急に停車する。

馬車はすでにウェールズの麦畑に差し掛かる手前の森の中だ。


「熊だ!でかいぞ!」

御者の叫び声が聞こえる。


「なに!?」

シングは腰を上げて馬車の外へ出ようと身構えるが、カオリは片手で制止した。

「護衛にお任せしましょう。」

そう言ってカオリは、耳を澄ました。

そして、目をつむり、お茶を飲み始めた。


窓の外に目をやったシングは、馬車の後方から目の前を矢が飛びすぎるのを目にした。

矢は、続けざまに8本流れるような速さで飛んでいく。


やがて、馬車は進みだした。

「カイルがいたか、よくやった。」

シングはつぶやき、腰を下ろした。


カイルとは、シングの従者の名前だとカオリに紹介した。

「一人であの速さで矢を射るとは、相当の腕前ですね。」

「はい、カイルはこの町一番の弓の使い手です。」

「それなら、オオカミがでても心配は無用ですね。」

「そ、そうですね。」

なぜかシングの返事は歯切れが悪い。


カオリはシングに礼を言う代わりに、シングのお茶を入れ替えた。

「冷めてしまったわね。新しいお茶をどうぞ。」


カオリはこの先の出来事を考えていた。

一つ、また一つと、頭の中で今までの出来事を読み解いていく。

外をみると、日は落ちかけている。

月の位置を確認したカオリは、月が低い位置に大きく丸く輝くのを見て、そっと固唾をのんでいた。

月の位置が低いと言うことは、今日は魔力が強くなるという事だからだ。


やがて馬車は、ウェールズの館へと到着した。

すでに日は沈みかけ、黄昏時となっている。


遠くでオオカミの遠吠えが聞こえる。街は静かだ。

夜になると、獣を警戒して皆早くに自宅へ帰るようだ。


「魔導士様、到着いたしました。こちらへどうぞ。」

シングが邸宅の入口へ差し掛かると、ドアを勢いよく開けて中からメイドが駆け出してきた。


「ご主人様大変です!若が逃げてしまいました!カーネルもけがを負っ ハッ!し、失礼いたしました。」

メイドは魔導士が一緒にいることを見て、すぐに口をつぐんだ。

シングは、ばつが悪い顔をしてカオリの顔色をうかがっている。


「魔導士様、私の家族を助けてください。」


カオリは、シングの話を聞いていない。

血の匂いが邸宅の中から漂ってくる。

それと、人とは異質の魔力がカオリの肌に触れて、カオリの神経を逆なでる。


カオリは魔力の流れが邸宅の中から外へ向けてその速度を早めたのを感じ身構えた。

傘を握りしめ、神経を研ぎ澄ます。


「メイド!伏せなさい!」


叫ぶと同時にカオリは一歩前へ踏み出し、メイドの背後に向かって傘をふるう。

邸宅の中から、地響きを伴う大きなうなり声とともに灰色の影が飛び出してきた。


カオリの傘に触れた影は、銀色の火花を放ちその軌道を変えた。

メイドとカオリの周りには、銀色の粒子が舞っている。


邸宅の外に出た影は、四つ足で立っている。

オオカミだ、しかも大きい。

四つ足で立っているその背丈はカオリの身長程ある。


カオリは、オオカミの目を見つめていた。そのオオカミは、鋭い牙をむき敵意をカオリに向けている。


まずいわ、私に敵意を向けさせてはいけない。


カオリは、優しくオオカミに微笑んだ。

「私は白銀の魔導士、何も怖がることはないわ。こちらで一緒におやつを食べないかしら?」

そう言いながら、カオリはオオカミとメイド、シングのいる場所の間に立ち、傘を地面に立てた。


「傘はここを守れ。」


カオリの命令に従い、傘はそこに自立する。

月の光を浴びて、傘の周りは銀色の粒子が舞う。


カオリは何も持たずに一歩前へでる。

その動きはおそらくシングからは迂闊に思えたであろう、すぐさまオオカミは反応して、カオリにとびかかった。その動きは、一瞬で灰色の霞に姿を変えたように輪郭をとらえられない程速い。


「グレイウルフ!?」


しかし、カオリはそれよりも速く身をかわし宙を舞い、オオカミ固いたてがみにかすりながら、右手の小指で円を描く。

小指にはいつの間にか白銀の指輪がはめられている。


空中に描かれた白銀の円が、オオカミの臀部にぶつかりはじけ飛び、灰色オオカミの体を5メートル程はじけ飛ばした。オオカミは身体をひるがえして地面に着地する。


「あまり効いていないな、魔力を帯びた灰色オオカミ、ワーウルフの末裔か。」

カオリはつぶやきつつも、お辞儀をして、こう言った。


「私の名前は天馬てんまカオリよ、あなたを傷つけたくはないわ、こちらへ来てくださらないかしら?」

灰色オオカミは、一瞬身をかがめ、公園のほうへと身を翻し、闇夜に消えていった。


「もう本当のことを話してもいいよ。私は、あなたの家族を殺しはしないわ。私が助けましょう。」

シングはカオリの言葉の意味を理解し、目に涙を浮かべて、話を始めた。


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