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休日

少し時間は戻り、急な仕事を終えたカオリの休日の様子はこんな感じでした。

「おいちぃ」

カオリはパインケーキを一切れ頬張りながら、うれしそうにそう言った。


テーブルの上にはパインケーキ、レモンチーズケーキなどデザートが並んでおり、カオリは頬を桃色に染めながら、一生懸命に小さな口へと運んでいく。


今日は本当の休日。


マリアンナさんが中央公園の向かえにある百貨店に、新しいパティスリーが出来たことを教えてくれたので、カオリはマリアンナさんをつれて一緒に味見に来たのだ。


「このレモンチーズケーキ、酸味が程よくてとっても素敵な味、私これ好き。」

「ええ、風味が良くて私もこの味は好きですわ。」

「このパインケーキも好き!不思議なクリームね、中は生クリームかしら?」

「これはアンという東方の国で作られているクリームなんですって、アンは普通豆から作るそうよ。」

「えー、でもこれはパインの味よ?でも不思議ね。」


カオリは小さいときから祖母に育てられた。

そして2歳になっても言葉を話さない子だった。

魔力を感じ取れるカオリには人の気持ちによる魔力のゆらぎが言葉だと思っていた。

それは人の感情を理解するのに十分であったため、言葉というものを必要としなかった。


カオリの成長を危惧した祖母のレナは、マリアンナを一緒に住まわせることにした。友達ができると変わるかもしれないと思ったからだ。

マリアンナはレナのメイドであるマリアの娘であり、マリアにとっても良い提案となった。


マリアンナはすぐにカオリと仲良くなり、まるで姉妹のように一緒に過ごした。しかし、カオリが言葉を発するまでにはそれから一年以上の時間が掛かった。


マリアンナはいつもカオリにおやつを食べさせてくれた。

カオリが欲しがれば自分の分を分けて食べさせた。


マリアンナはカオリを妹のように可愛がり、カオリはそれがとても嬉しかった、クッキーに、チョコレートに、ビスケット、それにいろんな美味しいおやつを、マリアンナと一緒に食べるのが嬉しかった。


しかし、ある時カオリはマリアンナの不安な気持ちを感じ取った。マリアンナはカオリが喜んでいることがわからないでいる。そんな迷いが伝わってきた。


その時カオリはマリアンナには自分の気持ちが感じられないのだと分かったのだ。

そしてカオリは初めて言葉を口にした。


「おいちぃ」

カオリはその時、マリアンナの感情を感じて、言葉を覚えた。


今、再びマリアンナの前ではじめての言葉を口にする少女の顔は輝いている。

カオリを眺めながら、マリアンナは楽しそうに笑っている。


「ねえ、マリアンナさん、昨日、水道局で男の人が私の事をジロジロと見たいたのよ。あまり見すぎるのは失礼ではないかしら、すこし恥ずかしかったわ。」

カオリがマリアンナに話しかける。


「それはいけません、きっと美しいカオリ様に見とれていたのですわ」

「そんな、だってお仕事中よ?きっと仕事着ではなかったから、はしたないと思われたのではないかしら…」

「いいえ、昨日のカオリ様はとてもきれいでしたわ。」

「そうかしら、私、私服ももう少し落ち着いた物にしたほうが良いのではないかと思うのよね。」

「ふふふ、そうかしら。」

マリアンナは楽しそうに笑っている。


今日のカオリは、白いシンプルなワンピースに桜色のスカーフを首に巻いている。

細身の身体になめらかに合うように作られたシルエットは、女性らしさを強調しないスレンダーな作りで、やや大人びている。


「カオリ様、今もとっても素敵ですわ。」

そっとマリアンナさんが紙袋を差し出す。

miumiu と書かれている。


「きゃー、もしかしてこれ!」

「ごめんなさい、お目当てのお財布は限定品で売り切れていたの、かわりにポシェットよ」

カオリは紙袋からかわいいポシェットを取り出して、頬ずりしている。


「気に入ってくれたかしら?」

「もちろん!素敵よ、似合う?」

早速肩から掛けてくるりと回転してみせたカオリはやはり普通の12歳の少女だった。


窓の外には中央公園の桜が見える。まだ3分咲きの中に、色の濃いアーリー・ブルーミングの桜の樹がひときわ目を引く。


白銀の魔導士の休日は、穏やかに暮れていく。


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